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「いやぁ、クレプスリーのお陰で客足伸びたよ。さすがはバンパイアだね。」
エブラが嬉しそうに笑った。
「確かに、小1時間で30人は来たよね。」
ん?待てよ。
「バンパイアって何?」
「そっか、言ってなかったな。クレプスリーはバンパイアなんだよ。」
エブラがバンパイアのポーズをしながら言った。
「バンパイアって事は、血を吸うって事?」
「そう。それに太陽も苦手だし、写真には写らないんだ。」
「本当にそんな生物がいるんだな…。」
ガチャ…。
劇場の玄関扉が開いた。
クレプスリーだ。
「おかえり。クレプスリー。お陰でチケット結構売れたよ!」
エブラがクレプスリーに駆け寄った。
「そいつは良かった。」
クレプスリーは少しだけ口角を上げており、嬉しそうにしていた。
本当にこの人が吸血鬼なのだろうか。
確かにちょっと雰囲気違うけど、普通の人間に見えるな。
「む、どうしたリュウ?我が輩の顔に何か付いているかね?」
「いや…どうやって脅かしたのかなって」
「ああ、そいつはな…」
クレプスリーは急にニヤニヤし始め、話したくてウズウズしているのが見て分かる。
しかし、クレプスリーが話そうとした時、急にこちらへ飛んできて、ローブと仮面を身に付けた。
速い…全然見えなかった。
「クレプスリー、どうしたの?」
エブラも慌ててコチラへ戻ってくる。
「客が来た。」
クレプスリーの言う通り、劇場の玄関扉が開いた。
俺とエブラはクレプスリーの後ろで待機していた。
入って来たのは、子供が1人と青年……。
「トラ!?」
俺は思わず声を出してしまった。
クレプスリーとエブラが驚いて俺を見る。
「知り合いか?」
「うん…。」
トラは俺の呼び掛けに気付いたようで、コチラにやって来た。
子供もその後に続いていた。
「え?リュウか?お前、こんな所にいたのか!」
トラが満面の笑みで俺に話しかけると、クレプスリーがゴホンと咳払いをした。
「リュウ、2人で話して来なよ。知り合いなんでしょ?」
エブラにそう促され、俺はトラと共に劇場の外に出た。
トラは出る前に子供に一言何かを話していた。
「案外近くに飛ばされて来たんだな。俺ら」
「俺はここのサーカスのテントに飛ばされたんだ。トラは何処に飛ばされたの?」
「なんか住宅街の真ん中辺りに飛ばされてたな。そこから飯屋で飯食って、サーカスの話聞いてよ。ちょっと色々あったが、ここに来たって訳だ。」
「ふーん、色々って?」
「なんか変なおっさんに襲われてよ。小人みたいの引き連れてて…。多分アレ、神様みたいな存在だぜ。絶対そうだ。雰囲気ヤバかった。」
「小人…もしかして、デズモンド・タイニー?」
「そうそう!よく知ってんな!有名人なのか?」
「実は俺も神様みたいな存在に会ってるんだ。トラが言う人とは別の。ミスター・トールっていう人なんだけど。その人にデズモンド・タイニーの事を教えてもらった。」
「トールか、変な名前だな。」
「ここのサーカスの座長さんだよ。」
「そうなのか。神様みたいな存在って意外にいっぱいいるのかもしれないな。」
「それより、トラ。デズモンド・タイニーに襲われたって、どんな風だったの?」
「わかんねぇけど、元警官のおっさんを操ってたみたいで、そのおっさんがナイフで俺を襲って来た。まぁ、大した事なかったけどな。」
「何か話した?」
「何だったかな〜。そうだ!計画を邪魔すんなっつってた。でも脅威じゃないとか、娯楽だとか、ショーを楽しめだとかも言ってたな。」
「俺もミスター・トールに言われた。俺らは違う世界の人間だから運命を変えるかもしれないって。それにデズモンド・タイニーの邪魔を絶対するなって。あとは、今デズモンド・タイニーは別の事に興味あるから俺らはあんまり眼中に無いって言ってたな。」
「つまり、何もするなって事か。」
トラが軽い感じで言った。
「まぁ、そういう事だね。」
「俺らしばらくまだ別行動しとくか?」
「そうだね、俺はここのサーカスで預かってもらえる事になったからここにいるよ。」
「あ、そういえば俺、寝る所見つけてねぇや。」
「じゃあ、サーカス来なよ。」
「んー、いいや。サーカスにいたら、出演者に会っちまうだろ?せっかくチケット買いに来たのに楽しみ半減しちまうからよ。それにスティーヴが家泊めてくれるかも知れねえ。」
「スティーヴって、あの子供のこと?」
「ああ、どうやら『ダレン』ってヤツを知ってるみたいだ。友達かなんかだろうな。」
「『ダレン』って、『ダレン・シャン』か!」
「そう。名前からするにこの世界の主人公だろ?そいつを見つけりゃ『クライマックス』行けちゃう訳よ。」
俺とトラは互いに見合ってニヤリと笑った。
「何だか久しぶりな気がするね、リュウ。」
「ああ、『あん時』以来だな。」
「俺はサーカスで情報を集めて。」
「俺はダレン・シャンと知り合いになって『クライマックス』へ誘導する。」
「『龍虎コンビ』再結成だな、トラ。」
俺がそう言うと、トラはフッと笑い空を仰いだ。
「そのネーミング、ダサいから止めね?」