剣持さんを救う?
真っ直ぐに射抜く伏見さんの瞳から事の大きさや重さが透けて見える
決して軽い冗談などを言っている様子は、ない
「それは、どういう意味でしょうか?」
私が受け止める姿勢を見せた事で安心したのか、再び月に視線を戻し静かに語り始めた
「ハヤトさん、人間には二つの死があるのを知ってるか?」
「二つの死?」
「ああ…一つは『肉体の死』人間がよく言ってる死は、これだな。そしてもう一つは『魂の死』だ」
「魂…」
「…肉体が老いて死ぬように、魂も老いていくんだ。普通の人間なら肉体が死んだ後、魂も全てを忘れて次に生まれてくるまで休息する」
休むからこそ、また人は歩き出せる
魂が死んでしまうと
存在は消え、二度と生まれる事は無い
本当の『死』だ
そこまで言った後、チラと私の顔を見た伏見さんは、悲しげな表情で続けた
「刀也さんは、もうずっと魂を休ませていないんだ」
「…それは、魂の死が近いという事でしょうか」
無言を肯定と捉えるしかない程、返答は貰えず頭が真っ白になった
「そんな…」
「魂の限界。このままだと刀也さんは、最終的に起きる事も出来ず眠り続けて…やがて魂のない本物の人形になる」
「……。」
眠気を訴え、鞄へ向かう後ろ姿を思い出しゾッとする
初めは、未知の存在すぎて怖かった
人形が動いて回るなんて普通じゃない
だけど今では、あの笑顔や明るい笑い声が聴こえなくなると想像するだけで
「救ってほしいという事は、彼を救う方法があるんですね?」
こくりと頷く伏見さん
ここからは、俺の話をします。と前置きして口を開いた
「前ハヤトさんに、俺は妖狐みたいなもんだって話をしたと思うけど…実際は、人間が言う所の所謂『神』って存在でさ…社とかにいるような」
「えっ?神?……いや、続けて下さい」
唐突すぎて神ってなんだっけと辞書を引きたくなりながら話の腰を折らない為にも先を促す
「って言っても刀也さん一人を守るくらいなもんで万能って訳でもないんスけど」
伏見side
遠い昔、人間の刀也さんを看取った後
しばらく旅でもしようかなんて考えていたら
アイツの魂が現世に残り彷徨っているのを知った
『何やってんだよ』
いつまでも行き場を無くしたままだと消えてしまうか、人間ではないものに成り果てる
友人の、そんな姿は見たくない
『しょうがないな』
もう一度会いに行った時、刀也さんの魂は風に吹かれると掻き消されてしまう程危うげで
何でもいいから魂を入れる器が必要な状態だった
「だから人形に…」
「そうっス」
神妙な面持ちで呟くハヤトさんに頷く
人形に魂が馴染んで、こちらの声が届くようになると一言説教してやろうと息巻いていた
なんで現世に留まったのか、と
『ガクくん』
でも、刀也さんがもう一度笑って俺の名前を呼んだ時
息が止まった
涙腺が壊れたみたいに涙が止まらなくて
『っ…!とやさ…』
その瞬間、やっと気付いた
刀也さんが留まる理由を
「俺だったんスよ…刀也さんが留まる理由」
『肉体の死を迎えた後、魂は記憶ごと真っ白になって休息をとる』
『記憶も無くなるんですか?』
『あっても次の人生には邪魔だろ?』
『そうかな…?』
いつだったか、そんな話を病気で布団から出られない刀也さんに寝物語として語った
『それなら…ガクくんは、これまで何度僕に“初めまして”と言ったんだろう』
つづく
あれ?かがみもちは?
いえ、この作品は、かがみもちと咎人です。
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