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俺と(名前)の出会いは中学だった。
入学式の日。
地元の中学校とは言え、色んな小学校から人が集まってくる訳で、クラスメイトは知らない顔ばかりで緊張していた。
クラスに馴染めるかなとか、バレー部ってどんな感じなんだろとか。
友達できるかな、とか。
きっと周りもそう思っていたのだろう。
みんな様子を伺って、人見知りをしていたから。
生徒の声が全く聞こえない教室は、廊下で談笑する母親達の声で埋められていた。
そんな中、俺の肩を後ろからツンツンと叩いて声をかけてきた奴がいた。
「初めましてー、瀬名(名前)です!
名前、角名くんで合ってる?」
それが(名前)だった。
教室に落ちた(名前)の声は、なぜかすごく響いて聞こえて、俺は小さく頷く事しかできなかった。
それから(名前)はずっと俺に話しかけてきた。
いや、付き纏ってきたと言う方が正しいかもしれない。
「倫太郎!次の授業寝たいからさ、先生から見えないように姿勢良くしておいてほしい!」
「え、やだ」
授業前の休み時間は、必ず意味の分からないお願いをされた。
「倫太郎!今日の給食揚げパンだってよ!おかわりジャンケン勝てるかなー」
「揚げパンじゃなくても毎日ジャンケンしてるじゃん」
「そうだけどさー、揚げパンは特別なの!」
配膳の時間は必ず俺の後ろに並んで給食を受け取るし。
「倫太郎…俺、負けた」
「勝手に大きさで競うのやめてくれる?」
トイレまで着いてきては、勝手に俺のと自分のを見比べて、勝手に落ち込んでいた。
そんな(名前)とは、部活まで一緒だった。
バレーは小学生の頃からやっていたらしい。
(名前)はセッターだと言っていた。
普段の(名前)から推測できるプレイなんて、大雑把で粗いトスだと容易に予想がついた。
でも、それは全くの誤解だった。
確実で丁寧なセットアップ、優しくて思いやりのあるトスをする(名前)に目を奪われた。
あんなにうるさくていつも付き纏ってくる(名前)が、あんなに静かなプレイをするなんて、と。
「すご、めっちゃ上手いじゃん」
思わず声をかけてしまった。
自分から絡みに行くなんて、絶対無いと思っていたのに。
「まじで!やったー!倫太郎に褒められた!」
そう言って、ニカリと歯を見せながらブイサインを突き出す(名前)を直視できなかった。
心臓がキツく締め付けられたから。
こんなにも胸が高鳴るのは生まれて初めてだった。
なんでだ、なんでこんなに心臓が脈打つんだろう。
「かわいい…」
もうすでに別の人へ話かけに行った(名前)の後ろ姿を見て、ふいに声が漏れていた。
可愛い?あいつのこと?
嘘だろ、可愛いって思ったのか?(名前)のこと。
…それって、好きってことじゃん。
そう思えば思うほど、胸は高鳴りを抑えられなくなっていた。
心臓が爆発しそうだった。
(名前)が男だなんて、そんなのどうでも良くなっていた。
ただ、(名前)を手に入れたい。俺だけを見て欲しい。
そう思った。
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