「ん、あ……?」
目が覚めると、暗い牢屋のようなところに倒れていた。手には手錠が前にしてかかっていて、混乱する。
手を使ってやっとこさ起き上がったところに、足音が近づいてくる。怖くて牢屋の端っこに座り込んだ。
「目が覚めた?」
低い男性の声。暗くて顔は見えないが、スーツを着ているということだけはわかった。
「君、黄野おんりーだよね?」
なんでこっちの名前を知っているのか。ストーカーか過度のファンか過度のアンチだろうか。
黙ったままでいると、その人は牢屋を開け、入ってきた。せめてもの抵抗に睨みつけるが、顔に圧がないせいで効果はない。
「君の家に、世にも珍しい獣人がいると聞いてね」
背筋が凍るような感じがした。ぼんさんのことがバレたのだろう。そんなことを悟らせないように落ち着いた顔をする。睨みつけるのもやめた。
「獣人なんて、空想上の幻獣だからね。もし本当にいるとすれば、相当な金になる。だから、その獣人さん、くれないかな?」
知らない間に血が出るほどに唇を噛み、腕を掴んでいた。相当な金になると言ったことから、この男、恐らくぼんさんを誰かに売るつもりだ。でも、そんなこと、絶対にあってはならない。
「やだ。ていうか、獣人なんて、家にいません。頭大丈夫ですか?精神科行った方がいいですよ」
「辛辣だね」
精一杯の嫌味も効かない。そのまま黙っていると、「また夜に来るね」と言ってその人は行ってしまった。
「どうしよう」
そう頭を抱えた。
「お邪魔します!」
ネコおじが家に来た。何回も顔を合わせているので怖くない。
「大丈夫。おんりーちゃんはきっと見つかる」
余程不安そうな顔を自分はしていたのだろうか。ネコおじが気遣ってくれる。
「……ぼんさん、大丈夫ですか?」
『え?』
「顔が、血色ないですよ。目も死んでます」
玄関にある鏡を覗くと、言われた通り、あからさまに元気のない自分が映っている。
「おんりーちゃんが帰ってきた時その顔じゃ、おんりーちゃんがぼんさんのこと心配して、寝れなくなって体調崩します。何か食べて、落ち着きましょう」
自分のせいでおんりーちゃんが体調を崩したら嫌なので、ネコおじを家に入れてから少し遅い昼飯を食べる。と言ってもカップ麺だが。
二人でほんの少し話していると、脳になにか音が響く。箸がピタリと止まった俺を見て、ネコおじは不思議そうにしている。
「ぼんさん?どうしました?」
『……なんか聴こえない?』
「え?何も聞こえないですけど……」
これは俺だけに聴こえているのかもしれない。全神経を集中させて音が鮮明になるのを待つ。
[……い。──て……。]
人の声だ。全く知らない訳では無い気がする。
[怖いよ…助けて……]
よく聴くと、助けを求めている。声がこもっていて、誰の声なのかが分からない。
[助けて……ぼんさん……]
その瞬間、誰の声がわかった。
『おんりーちゃん?』
「へっ?」
ネコおじがアホらしい声を出す。
「え?、おんりーちゃん?錯覚してます?」
『違う。声が響いてる。おんりーちゃん、怖がってる』
「獣人の能力的な?」
『わかんない』
「……多分そういうことだね」
ネコおじが自分を納得させ、誰かに電話をかけた。
「もしもし?ドズルさん、おんりーちゃんのことについて、ひとつわかりました」
ドズルさんに電話しているらしい。
「ぼんさんの能力的なアレで、おんりーちゃんが怖がっているということがわかりました。おんりーちゃんは暗い所にいるかもです」
<なるほど。そうだ、ぼんさんを社に連れてきてくれない?狼だから、鼻とか利くんじゃない?>
「え?」
『?』
「ぼんさん、会社に来てください」
『な、なに?なに?』
「ぼんさん、狼の姿になってください。ぼんさんの嗅覚でおんりーちゃんを捜します」
『そういうことなら最初に言って!』
サクッと化けを解いて姿を戻す。力を使わないからかいつもより楽だ。
<これでいい?>
「はい!抱えていいですか?」
<いいけど>
ネコおじが俺を軽々抱き上げる。
「狼っておっきいんだな……。猫とは違うや」
ぶつぶつと呟きながら家を出て鍵をしっかりかける。
そのまま見慣れた会社に歩いていった。歩いている間も、おんりーちゃんの苦痛な声が消えない。
助けを求めて泣いているおんりーちゃんの声を聴いていると、心配な気持ちがどんどん大きくなっていく。
「ぼんさん、いらっしゃい」
エントランスから焦りを滲ませた顔と声のドズルさんが出てきた。
<こんにちは>
おんりーちゃんに教えられたお辞儀をする。早速ドズルさんは聞いてくる。
「それで、ここに来る間までにおんりーの匂いはした?」
<した>
だが、もう消えてしまいそうに薄い。注意深く嗅がないと解らないくらいに薄れていた。
<でも、すごく薄い匂いだった>
「そうか…。ぼんさん、その匂いを辿れる?」
<うん。だけど、早くしないと匂いが消えちゃう>
「今すぐ行ける?」
<行ける>
「早速行ってきてくれないかな?これをつけてね」
ドズルさんが俺の首に何かをつけた。
「GPS装置だよ。居場所がわかるようになってる。見つかったらここを噛んでね」
<?、わかった>
「行ってらっしゃい」
<うん>
ネコおじの腕をすり抜けてエントランスから飛び出す。全力で走って匂いを辿る。そのまま走って走って走ると、匂いが強くなってくる。
<こっちか>
疲れたので歩きながら匂いを辿ると、薄暗い路地を見つけた。そこには、彼がいつもつけているブローチが落ちている。人間の姿になってから拾う。人間の姿でも鼻は利くので、拾ってから走った。
『早く……っ』
長くなったので一旦切ります!お楽しみに!
コメント
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続き楽しみすぎる