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(おかしい……)
レンブラントは思い悩んでいた。
最近ティアナからの手紙の返事が来なくなった。
何時も定型文の様な内容ではあったが、必ず返事はくれていた。だが今はそれすらない。
(もしかして、嫌われてしまったのか……)
思い当たる節は一つある。手紙の追記だ。
ーー愛しい人、君に会いたい。
思わず本音がダダ漏れてしまった。その理由は明白で、彼女に会いたくて仕方がない想いと、ユリウスの存在が大きいと言える。
情けない自分はどうやら無意識に危機感を感じている様で、気が付けば毎回追記に書いていた。
ヴェローニカの件が片付いたら会いに行く予定だったのだが、仕事が忙しい事やユリウスからの言葉の真意を確かめる事に怖気付き、二の足を踏んでいたのは否めない。
(このままではダメだ)
ユリウスの思惑に嵌っている。
約束は取り付けていないが、今日の夜にでもティアナに会いに行き彼女から話を聞くべきだ。
レンブラントがそんな事を考えながら城内の廊下を歩いていた時だった。
今一番会いたい人物と一番会いたくない人物が視界に入る。
(ティアナ、何故彼女がここに……。いやそれよりも何故あの男と一緒にいるんだ)
廊下の先の角を曲がって来たのはティアナとユリウスだった。
別に疚しい事などないのだから隠れる必要などないが、レンブラントは咄嗟に柱の影に身を隠してしまった。
二人の談笑する声が聞こえるが、距離があり内容までは聞き取れない。そうこうしている間に、二人は通り過ぎて行ってしまう。
レンブラントはどうしても気になってしまい距離を取りながら後をつけた。だが直ぐにその事を後悔する羽目になる。
ティアナはフレミー家の馬車ではなく、ユリウスに手を引かれながらソシュール家の馬車に乗り込んだのだ。
その瞬間思考が停止して頭が真っ白になった。
柱に身体を預けて、暫くその場から動けなくなる。脱力し、笑いたくもないのに唇が勝手に弧を描いているのを自分自身で感じた。
(会いたいと思っていたのは、僕だけだったみたいだ)
滑稽すぎる。
あの夜ぶりに見た彼女は頗る元気そうで、ユリウスと愉し気にしていた。
彼女の腰に手を回し、またそれを受け入れて寄り添う姿は誰がどう見ても恋人同士にしか見えない。これでは邪魔者は明らかに自分の方だ。
いや違う。二人は幼馴染だ。互いの屋敷を行き来するくらい些細な事だろう。
距離が近いのも兄妹の様だから過ぎない……。
どうにかして現実から目を背けようと考えを巡らせるが、気持ちは沈んだままだった。
◆◆◆
休日、ミハエルとお茶をするべくティアナは登城した。
以前と同様中庭に通され、今日の為に特別に他国から取り寄せたという珍しいお茶や菓子を口にする。
「繊細な甘さで、とても美味しいです。それに凄く綺麗……」
ティアナは指で宝石の様に輝く菓子を目線の高さまで摘み上げ凝視する。すると日の光に照らされてそれは輝きが増した様に見える。
少し行儀は悪いが、好奇心に負けた。それた程珍しく、美しい。
薄い外側の膜は噛むとカリッと音がするのに、中身はプルプルとして柔らかい。緋色や青、黄色など色合いもとてもカラフルで、キラキラと輝き本物の宝石を食べている気分になる。
「寒天と呼ばれる原材料から作られた砂糖菓子だ。お茶も同じ国から取り寄せたんだぞ」
ティーカップに注がれる緑色のお茶に少し躊躇いながらも口を付けた。
初めての風味だが、この甘い砂糖菓子と良く合って美味しい。
得意げに鼻を鳴らすミハエルとお茶とお菓子を堪能しながら暫しの間談笑をした。
時間はあっという間に過ぎ、お開きとなる。ティアナは送るというミハエルからの申し出を丁寧断り、今日のお礼を言ってその場を後にした。
その直後だった。まるで見計らった様にユリウスが現れた。
「奇遇だな」
かなり強引な彼に押し切られる形で送って貰う事になってしまった。
話を聞けば、今日は珍しく仕事が早目に終わったらしい。
「ミハエル殿下とお茶をする程の間柄なのか」
ユリウスはどこか不機嫌そうに聞いて来るので、ティアナは引き攣りそうになる笑顔で先程出されたお茶やお菓子の話をして誤魔化した。
「このまま屋敷にお邪魔しても良いか」
「あの、ユリウス様。もし宜しければ今日はユリウス様のお屋敷にお邪魔させて頂けませんか?」
ティアナからの提案に一瞬意外そうに目を見開く彼だったが、直ぐに快諾をする。
「君からそんな事を言い出すなど珍しいな。無論かまわない」
不意に腰に手を回し引き寄せられた。
ティアナはそれとなく離れようとするが、彼は離すつもりはない様で逃すまいと腕に力を入れてくる。
昔は気にもしていなかったが、どうにも落ち着かない。
(これがレンブラント様だったなら……)
恥ずかしくて仕方はないが、嬉しいと思えるだろう。でもユリウスにされるのは余り良い気はしなかった。
待たせていたフレミー家の馬車ではなく、ティアナはユリウスの手を借りてソシュール家の馬車へと乗り込んだ。