腹をものすごい力で殴られ、家から追い出される。
「お前、もう帰ってくんな。」
冷たい顔、冷たい声。
ガシャンと大きな音をたてて閉められた自宅の扉をただただぼんやりと眺める。
世界というものはどれだけ私を苦しめれば気が済むのだろうか。
自分の体よりも少し大きめの制服の袖を力強く握りしめ、首に巻いてあるマフラーに口を沈める。
道端に落ちている小さな小石を蹴りながら、無意識に空へと視線を向ければ真っ暗な夜の空で月や星がキラキラと小さく輝いていた。
『…痛いなぁ』
足を進めるたびに殴られた腹と押された拍子にぶつけた背中がズキズキと痛む。
こんな夜に目指す場所は人気の少ない公園のトイレ。
公園ならまだしも、トイレなら警察や通行人に見つかることも少ない。それに加え、人気のない不気味な夜のトイレに来る変わり者は私以外いないだろう。
追い出された日や家に親が居て居心地が悪いとき決まってあの公園のトイレで夜を過ごしていた。
『…あーあ、15歳なのになぁ。私』
何年たっても親に反抗できない弱い子供のまま。
嫌だって言おう、やめてって言おうって何度も何度も心の中で繰り返しているけどいざ親の前に出ると恐怖で言葉が出なくなる。目を背けてしまう。
こんなんじゃいつまでたっても逃げられやしない。
『…たすけて』
不意に出る、その言葉が誰かに伝えられればどれだけ楽だろう。
無知な私が出せる小さな小さなSOSはいつも独り言と化して誰の耳にも届かず消えていく。
─はずだった。
「いいよ」
拾われないとばかり思っていた独り言だったがどうやら間違いのようだ。
『え?』
困惑が脳へ追い付くよりも先に体は勝手に声の聞こえた後ろの方へと向いてしまう。
だけど声の主の姿を捉えるよりも先に、顔全体に何か布のようなものを押し付けられ、視界が塞がれた。
『へっ!?…ちょなに…』
「しーっ」
まるで泣きわめく赤子を宥めるような優しい声色で私の声を遮る誰か。
どこか懐かしさを含んだ低い声が鼓膜を揺らすと同時に強烈な眠気がまぶたにのしかかる。
口元に抑えつけられた布からは微かに薬の匂いがし、数秒経って“アブナイ薬”だと理解する。
『んー!!んっ!んー…』
なんとか抵抗しようと手足をバタバタと振りまわし暴れるが、当の本人の体はびくともせず、私は迫り来る眠気に体を預けてしまった。
「…おやすみ」
(誤字や物語の内容を少し修正しました。
あまり変わってませんが見直しお願いします🙏💦)
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