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「突入する日が命日になる?」
「まぁ順を追って話そか。華厳の滝跡地に建ってる研究所…10階建てで桃の隊員数は4~500人。屋上の飛行船が3機で何かの運搬用かな?」
「できれば見取り図とかあれば…」
「ありますよ。」
鳥飼の呟きに答えた声。
それが鬼國隊メンバー最後の1人・蛭沼灯だった。
不破がもたらす情報を愛用のノートにメモしていた鳴海が視線を向ければ、そこには怖そうな見た目に反して優しげな男性がいた。
見取り図入手の功績を褒められた彼は、自分ではなく “この子たち” が頑張ったのだと告げ、自分の腕を見せる。
と、何の変哲もない腕が突如膨らみ、中から小さなヒルがウニョニョと出てきた。
鳴海と矢颪に軽く挨拶を交わしてから、蛭沼はヒルが得た情報を報告し始めた。
「この子たちが言うには、研究所各階に厳重な扉があるようです。何の研究かは、その厳重な扉の先に行けばわかるかと。それと死体を運んでる現場を見たそうです…」
「死体?鬼?」
「おそらく…その死体はダストシュートに入れられて下の死体廃棄場に落ち、大きなミキサーにかけられる。」
「えっぐ…」
「あの研究所は捕らえた鬼を使って何かを研究しているかと…だから今鳴海さんがここにいて安心しました。無事で本当に良かったです。」
「ご心配どーもね!蛭沼ちゃん!」
「ならば囚われた鬼も解放しないとな!鳴海のこともそうだが、身勝手に鬼の命を扱うなど言語道断!」
「監禁場所は、先ほど言った厳重な扉のどれかかと…」
これで研究所の概要については把握できた。
続けて不破が、敵側の戦力について予想を立てる。
これだけ大きな建物なら、隊長が3人はいる可能性がある。必然的に副隊長も同数だ。
主戦力6人と隊員が4~500人、対してこちらは僅か8人…
突入する日が命日になると判断しても仕方ないレベルの予測値だろう。
「(無闇に突っ込んだら、確かにこれは命日になるわ…)」
「行くこと自体死にに行くようなもんじゃねぇか…どうすんだよ?」
「「「関係ない」」」
何の躊躇いもなく声を揃えてそう言う鬼國隊メンバーに、問いかけた矢颪は驚きの表情を見せる。
自分達の目的のためなら、どんな不利な状況でも足踏みするわけにはいかないのだと、声を張り上げる等々力。
その強い眼差しには狂気すら感じられた。
そんな彼とは対照的に、鳥飼は冷静に作戦を話し始める。
「じゃあやることは鬼の解放と桃の殲滅。死体廃棄場のダストシュートから各階にバラけて侵入、そして隠密で進む。」
「厳重な扉は?」
「問題ない。不破の能力で何とかなる。」
「不破ちゃんの能力ってどんなの?」
「おっ、興味ある?なら、あとで見せたるわ。」
「あざま〜す!他の皆の能力も教えてちょ。あと作戦についてももう少し詳しく」
「教えんのは全然かまへんけど、えらい熱心やな。」
「だって俺気ぃ抜いたら死ぬもん」
「「「!」」」
「最悪の想定も頭に入れて動かないと死ぬし研究所のマップは今叩き込んだ。作戦は教えられる範囲でいいよ」
「鳴海!!」
「ぎゃあ!声デカイ!!」
「すまん!!だが、お前を守ると誓おう!!」
突然名前を呼ばれ、両手で肩を掴まれた鳴海に、等々力の真っ直ぐな視線が向けられていた。
込められた力から、彼がどれほど本気かが分かる。
少し視線をズラせば、他のメンバーも先程までとは違う強い眼差しを鳴海に向けていた。
「だからもうあんなこと言うな。」
「えっと…ごめん?」
「ふっ。鳴海は素直で可愛いな!」
「あ〜?俺の魅力に気がついちゃった?いや〜!魅力的っていうもの大変だなぁ!!」
「大将!鳴海口説くのはあとにしろ。まだ話し合いの途中だから。鳴海、くねくねしない」
「分かった!あとにする!すまん!」
「すんませーん」
鳥飼の呆れたような声に反応した等々力は、謝る気持ちが微塵も感じられない満開の笑顔でそう言った。
引き続き、作戦会議中の鬼國隊メンバー。
と言っても計画の細部を話し合っているわけではなく、話題の中心は “鳴海をどうするか?” であった。
本人としては、ついて来た以上作戦には参加するつもりでいたのだが、先程の自分の発言で鬼國隊メンバーに迷いが出たようだ。
口火を切ったのはまとめ役の鳥飼だ。
「やっぱり鳴海は待機の方がいいか…」
「そうですね…生け捕り命令が出てる中で、敵地…しかも研究施設に連れて行くのは気が引けます。」
「でも治療班がいるってのはでかいよなー!俺、そんなチーム編成で戦ったことねぇよ!」
「俺もや。めっちゃ心強いよな~」
「サポートメンバーが増えるのは俺も助かるな。」
「(自分の話ばっかりで気まずそうにしてるのもギャンかわ…!)」
「ていうか、これってそんな難しい問題?一緒に連れて行って、俺らが守ればいいだけの話じゃないの?」
「それはいや!!」
今まで静かに会話を聞いていた鳴海の突然の大声に、直前に言葉を発した囲だけでなく全員が驚きの表情を彼に向けた。
一斉に集まる視線にアタフタしながらも、鳴海は理由を話し出す。
自分が所属していた援護部隊は、傷ついた鬼を助けるためにいる。
他の部隊が、自分たちを守るために行動を決めたり、ましてやケガを負うことは許されないのだと。
「だからこそ俺は作戦の細かい部分まで把握してないといけないし、皆の能力も知っておきたいの。…俺の事気にかけてくれるのはありがたいけどさ作戦を立てる時、俺の存在は無視して。皆の邪魔にならないように、迷惑がかからないように動くし、俺は俺の仕事があるから!」
「……鳴海さ、今自分がめちゃくちゃカッコいいこと言ってるっていう自覚ある?」
「へ?」
「ほんまそれな。」
「そんな覚悟持った治療班とか最強だろ!」
「危険は承知の上で作戦に入れたくなるな…どうする?大将。」
鳴海の男前発言で、一気に連れて行く流れに傾く鬼國隊メンバー。
だが最終決定はあくまで大将である等々力。
仲間が視線を送る中、彼は目を閉じて考えを巡らせる。
と、そこへ蛭沼の子供の1人が戻り、主へある報告をもたらした。
「……えっ。」
「蛭沼さん?どうかしました?」
「大将の判断材料になるかもしれない情報が入ってきました。」
「「「?」」」
「鳴海さんの生け捕り命令が中止されたそうです。」
桃太郎機関全体へ通達されていた命令が取り下げられ、晴れて鳴海は自由の身となったのだ。
「あーそんなこと聞いたなぁ」
「聞いてたら事前に言えや!!…まぁ、命令が中止されたってことは、桃に見つかっても手出されへん可能性が高いわけや。」
「でも逆に言えば、近づいてくる奴は本気で鳴海の能力を欲しがってるってことになるんじゃないかな~」
「量は減ったけど、質は上がった感じか。…大将、決まった?」
不破・乙原・鳥飼の発言を静かに聞いていた等々力は、ようやく目を開ける。
さっきまでの興奮状態が嘘のように、彼は冷静な口調で話し始めた。
「命令の有無は関係ない。響太郎の言うように、どんな状況でも狙って来る奴は一定数いるだろう。だが戦力的に、俺たちが無傷で終われないことは分かり切っている。だから鳴海にはぜひ力になってもらいたい。」
「任せな」
「ただ…鳴海を無視した作戦の遂行はしない。」
「!」
「矢颪と違って、今お前は一時的に鬼國隊がその身を預かっている状態だ。いずれ元の場所へ帰す時、無傷で引き渡すのが道理だと思っている。鳴海の信念は素晴らしいと思うし、尊重もしたい。でも鳴海が傷ついて喜ぶ人間は、もう鬼國隊にすらいない。」
「颯ちゃん…」
「もう一度言う。鳴海のことは俺たち鬼國隊が必ず守る。それが、危険な場所に同行してくれる治療班に対する誠意だ。」
「…」
「…嫌か?」
「まさか!俺の事信用してくれてるって事でしょ?それに守ってもらう程弱くないし伊達に最強と呼ばれる人の苗字貰ってないんだよね。そっちこそ俺に守られるんじゃない?」
「「(そうだった。この人今は無陀野鳴海だった)」」
「まぁ背中預けられるのはいい事だよね」
他のメンバーが鳴海に向ける視線も、思想とは逆の穏やかな感情で溢れていた。
桃太郎の根絶を謳う鬼國隊の考え方は受け入れられないが、鬼を守るという強い意志は鳴海にも通ずるものがある。
こうして出会ったのも何かの縁…
知り合いは多い方がいいと昔から言われ続けていたこともあり、鳴海は目の前の鬼たちを信じてみることにした。
「ありがとね。あとよろしく」
ニッと笑う鳴海に、等々力たちもまた表情を和らげた。
「それじゃあ突入は深夜!それまで体を休めろ!」
「(突入から戦闘まで、細かい部分の計画詰めとくか…)」
「ルートの確認と諸々の対策を考えよう…」
「蛭沼さん…あんたいてくれなきゃ、今頃俺ストレスでハゲ散らかしてたよ…」
「俺も混ぜてよ」
場が解散になり、鳥飼と蛭沼が作戦会議を始めようとしたタイミングで声をかける鳴海。
等々力はあのように言ってくれたが、それは作戦の把握をしない理由にはならない。
いつもやっているようにしっかり情報を収集し、自分の身を守る最低限の行動はしたいと2人に訴えた。
「負担減らしたいからさ。あと俺の部下にも伝えないとだし」
「…鳴海、鬼國隊入んない?」
「へ?」
「ふふっ。その気持ち分かります。鳴海さんと話してると癒されますよね。」
「本当に。お供してくれんの大歓迎。おいで。」
「あざます〜」
「何か意見があれば遠慮なく言ってくださいね。あ、でも無理はしないように。疲れてると思うから、眠くなったら寝てください。」
それから数時間、鳴海は2人が考える作戦を聞きながら必死にメモを取る。
規模が大きいだけに作戦や計画も複雑であり、次第に頭がグチャグチャになっていく。
そこへ来て1日の疲れが出てきた鳴海は、ついに睡魔に負けてしまった。
「ふっ。鳴海~?」
「……ん~…はっ!寝てた?!」
「鳴海さん、寝ましょう。もう大枠は決まりましたから、あとは私たちに任せてください。」
「ごめぇん…二人も早めに休んでね〜」
「うん、ありがと。おやすみ~」
そうして2人と別れ、皆が寝ているところに戻って来たが、見渡しても矢颪の姿がない。
短時間の仮眠でスッキリしてしまったのもあり、彼を待ちがてら、鳴海は改めて作戦内容やメンバーの能力について頭を整理することにした。
月明りの下でノートと向き合い始めて30分ほどが過ぎた時、不意に彼の背後に2つの人影が…
その人物たちは鳴海を両側から挟む形で座ると、静かに声をかける。
「まだ起きてたん?」
「起きてますよ〜。」
「くそ、ビビらんかったか」
「だからやめようって言ったじゃん」
「不破ちゃんに、岬ちゃんもう起きて…あ、もしかして書く音うるさかった?」
「ううん、全然。目が覚めた時に鳴海が何かしてるの見えたから気になって。そんな熱心に何書いてんの?」
「羽李ちゃんさんと灯ちゃんの作戦会議に入れてもらって、その内容をメモしたので整理してた。あと皆の能力のことも。」
「へ~すごっ。めっちゃ書いてるやん。でも手元暗ない?」
「それは不破っちが月明り遮ってるからでしょ。どいてどいて。」
「どいてって何やねん。」
「そのまんまの意味だよ。」
自分の頭の上で漫才のようなやり取りをする2人に笑みを見せながら、鳴海はまたノートに向き合う。
突入までもうあまり時間がない。
早く整理して、少しでも多くの情報を頭に入れておこうと、鳴海は集中力MAXで手を動かした。
ハッと顔を上げた時、鳴海の右隣で不破は目を閉じていた。
もしかしたら、何かあった時に守れるようにと、近くに来てくれたのかもしれない。
そんなさりげない優しさに笑みが漏れた鳴海は、そこでようやく反対側からの視線に気づく。
「あれ、岬ちゃんは寝てないの?」
「やっと気づいた。ずっと見てたのに。」
「ずっと!?え、怖…」
「一生懸命書いてる姿が健気だな~と思って。」
「一応これでも部隊持ちの隊長なんでね。払えるもん払って拭えるものは拭わないと。」
「…鳴海ってさ、ほっとけないって言われたことない?」
「あるよ」
「ふ~ん…その言った人と気が合いそう。」
「ん?」
「俺も鳴海のことほっとけなくなっちゃった。」
「えっ」
「何か弟みたいで。」
「あ、そういう意味か」
「もしかして…別の意味だと思った?」
「イケメンがそんなこと言ったら勘違いするって」
手を動かしながら話す鳴海を、楽しそうに見つめる囲。
そして何を思ったか急に寝転がり、鳴海の膝に頭を乗せた。
「!ちょ、岬ちゃん…」
「俺、横にならないと寝れないの。だから膝借りるね。」
「えぇ….(困惑)」
「あとさ…」
「ん?」
「…俺のこと “岬” でいい。」
「え、やだ」
「この流れて断る!?」
「呼び捨てにするのは俺の旦那様だけだからさ」
「何それ、やだよ。」
「俺もヤダ〜」
「…俺熟女が好きなの。」
「知ってる」
「でも……健気な子も嫌いじゃない、かも。」
「良いじゃん。見つけなよ。なんなら紹介しようか?」
「…おやすみ、鳴海。」
「ん、おやすみ」
向こう側に顔を向けているため表情は分からないが、その耳がほんのり赤く染まっていることに鳴海は気づかないフリをした。
一番とっつきにくいと感じていた囲との思わぬやり取り。
人間らしい一面を知れてどこか安心した鳴海は、再び襲って来た睡魔に身を預けることにした。
矢颪side
屋上で等々力と少し話をして下に降りてくると、なんでか穏やかに眠っているのを見つけた。
隣には不破がピタッと寄り添って寝てるし、膝には囲が頭を乗せて眠っていた。
自分とは違って、誰とでもすぐに打ち解けられる。
能力が治療に特化し過ぎて、攻撃も防御もできない無防備な鬼。(という認識)
そんな奴が、自分を追ってこんなところにまでついて来てくれた。
守ってやらなきゃ…って思ってたけど、さっきまでの話し合いを聞いてればそれも不要に思えてくる。
あんだけの力を持った人間が8人もいれば、まず俺の出番はねぇだろ…
あいつらが話す内容は分かんねぇことばっかだった。
何で鳴海に生け捕り命令が出てんのか。
そもそも何で桃に狙われてんのか。
思えば、鳴海のこと何も知らねぇ…
そりゃそうか…ロクに会話なんかしてねぇしな。
聞けば、教えてくれんのかな…
「何考えてんだ俺は…」
もう仲間は作らないって決めただろ。
甘い考えを振り払うように、俺は鳴海から離れた場所に座って目を閉じた。