作戦決行の時刻である深夜2時を迎えた。
皆がそれぞれ支度を整え、アジトを出発していく。
そんな中で、鳴海は矢颪の元へと駆け寄った。
「碇ちゃん!」
「ん?」
「…鬼國隊の行動、発言…ちゃんと目と頭に焼き付けて。自分が今いる組織がどういうところかしっかり見極めてね」
「!」
「自分の目で見た上で、それでもついていきたいって思うなら…俺はもう付き纏わないし、何も言わない。」
「…」
「…ま、本音を言えば、一緒に帰りたいけど。」
「鳴海…」
寂しそうに笑う副担を前に言葉が出ず、その顔を見つめることしかできない。
言いたいことも聞きたいこともたくさんあるはずなのに…
そうこうしているうちに大将からお声がかかり、鳴海は駆け足でアジトを出て行った。
第50話 父として/ズレたピント
「このダストシュートから入るぞ。大将と矢颪、あと海月の3人が4階。百目鬼が3階、不破と囲が2階、1階が俺と蛭沼さん。鳴海は治療班だから、上下どっちにも行きやすい階にいた方がいい。」
「なら百目鬼は能力的に1人の方がええやろし、必然的に俺らんとこやね。頑張ろな~鳴海。」
「足だけは引っ張らないでね。俺は俺の仕事があるから」
「羅刹関連の仕事?」
「いや?普通にプライベートで」
ケロッとした顔でここに血縁者がいると言うと全員が驚いた顔をした。
“あ、安心して。桃だし殺すから” の言葉にならいいかとなる鬼國隊一同。
到底追いつけない高みにいる鳴海を複雑な感情で見ていた矢颪は、気持ちを切り替えるように乙原へ会話を振った。
「お前は?」
「俺は完全サポートよ。はい、コレ。」
「血…?」
「あっ!ついに乙ちゃんの能力ktkr」
「鳴海、楽しみにしてくれてたもんね。」
「能力の先輩として見させてもらう〜」
乙原の能力は “共有” …血を飲んだ者同士が脳内で会話でき、親である彼自身は皆の位置や心身の状態が分かるというものだ。
この力があれば、通信手段を持たなくとも、敵にバレずに意思疎通が可能となる。
雪山修行時にお披露目した自分の能力の上位互換だと感じた鳴海は、突入前にいろいろアドバイスをもらっていた。
「本当に鳴海は俺の血飲まなくていいの?」
「大丈夫。代わりに、皆の首元に俺の血(菌を混ぜたの)をつけさせてもらえればいい」
「それで会話できるんやから不思議なもんやな~」
「ただ乙ちゃんの能力と違って、声を出さないと会話できないのが難点」
「…それなんだけどさ、俺と同じように自分の血を皆の中に入れればいいんじゃない?そしたら体の内部に聞く能力を作れるから、声に出さなくても会話できそうな気がする。」
「!盲点だった…」
「やってみないと分からないこともあるし、実験してみようよ。」
「いいね!」
乙原のアドバイスで、鳴海は全員の手に少し傷をつけ、そこから自身の血を入れた。
体内に入れた血で機能だけを作ることは初めてのため、目を閉じ意識を集中する鳴海。
最初は上手くいかない様子だったが、徐々に彼の表情が緩んでくる。
「めちゃくちゃ呼びかけてくれる」
「おっ、聞こえてるっぽいね。」
「不安定だけど慣れれば大丈夫」
「それじゃあ行くぞ!」
等々力の掛け声で、一行はいよいよ行動を開始した。
上の階を担当するメンバーから順にダストシュートへ入って行く。
早速出発する矢颪に、鳴海は心配そうに声をかけた。
「碇ちゃん、気をつけてね…!」
「おぅ。つーか、俺のことより自分の心配しろ。…無茶なことすんなよ。」
「分かってる。ありがとう!ケガしたらすぐ治しに行くから!颯ちゃんと、海月ちゃんも気をつけて。」
「あぁ!」「ん。ありがと。」
そうして3人を見送ると、すぐに次の百目鬼が動き出す。
盲目とは思えないようなスムーズな動きに、鳴海は改めて驚きを感じながら彼を送り出した。
「よっしゃ。ほな次は俺らやな。岬、先頭頼むで。」
「オッケー。」
「俺が後ろにおるから、鳴海先に行き?」
「やりぃ〜。あざまーす」
鳥飼と蛭沼に送り出され、鳴海は囲に続いてダストシュートを上り始めた。
物を落とすという役割故に、その表面はツルツルしており、油断すると滑り落ちそうになる。
慎重に進んでいた鳴海を、不破は後ろから微笑ましく見守っていた。
しかしここであることに気付く。
「鳴海…なんか遅ない?」
「えっ、いや、その…」
「体調悪いんか?」
「えっ?大丈夫?」
「違くて…その狭いから…体が窮屈なのよ…」←現時点でまぁまぁな巨体(180越え)
「「あー…」」
「例えるならキャリーケースに無理矢理詰められる感じ…」
「エ○パー〇東みたいなこと言うね」
「ちょ…なんかミシミシいうてないか?」
「壊れる寸前…」
「急げ!戦う前に死んでまう!!」
「ちょ、押すな…っと、ここだね。」
ダストシュート破壊前に何とか攻略した3人。
先に建物内に入った囲が、鳴海に手を貸して引き上げる。
「ありがと、岬ちゃん…( ´-` lIl)」
「どういたしまして。大丈夫?」
「あちこちバキバキ…」
「ふっ。」
「岬く~ん、俺にも手貸して~」
「さっ、行こっか鳴海。」
「ちょお待ってって!」
“皆、各階に到着したね”
2階組がワチャワチャしていると、タイミングを見計らったように乙原から声が届く。
建物の構造的に今いる場所は一般フロアであり、その先に厳重な扉で守られた重要フロアがあるとのこと。
目的を達するためにはそこへ行かないことには始まらないため、各自桃太郎を倒しながら進むようにという指示だった。
「こっからはいつ桃が出て来てもおかしくないから、気引き締めて行くで。」
「おう…!」
「俺らの傍から離れないでね。」
「じゃあ俺こっち!」
「「ちょっと待て/待てや!!」」
「へ?」
「いまさっきの話覚えてるか!?」
別行動をしようとした鳴海を止めた2人。
“やる事やったら帰ってくるから” という鳴海にチョップをかました囲。
「なんで昔からそう直ぐに別行動するのかなぁ!?」
「ほんまやで。うちの大将よりヤバいわ」
「え~」
ここだけ見るとただのコントである。
ぶーたれている鳴海の手を引き歩き出す
そうして慎重に足を進めること数十分…
幸いなことに1人の桃太郎とも遭遇せず、鳴海たちは扉の前に到着した。
時を同じくして他のメンバーも到着し、声をかけ合う。
“こちら鳥飼、蛭沼。”
“羽李か!どうした!”
“扉の前に到着した。”
「こっちも来たでー。」
“百目鬼参上!”
“皆到着したか!それじゃあこの研究所の核心部に侵入するぞ!”
等々力の言葉に、鳴海も今一度気合いを入れ直すのだった。







