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#ターボー
タボちょん、捏造
ほんのり森→ちょん有り
夜の街は静かだった。
ターボーは鍵を回し、慣れた手つきでドアを開けた。仕事終わりの疲れがどっと押し寄せるはずなのに、その日だけは妙に胸がざわついていた。
「……ちょんまげ?」
返事はない。電気もついていない。
胸の奥がひやりと冷えた。
(先に帰ってるって言ってたよな……?)
電気をつけてリビングに足を踏み入れる。
ソファ、テーブル、キッチン。どこにもいない。風呂場も、寝室もいない。
その事実がじわじわと現実味を帯びていく。
「……は?」
スマホを取り出して、メッセージを送る。既読がつかない。
電話をかける。呼び出し音だけが虚しく続いて、やがて切れた。
心臓が嫌な音を立て始める。
(なんで出ない?)
頭の中に、最悪の想像が浮かぶ。
(まさか……俺が嫌になったとか?)
そんなはずない。と否定したいのに否定しきれない。
ちょんまげは昔から自己評価が低い。僕なんか…が口癖で、幸せになることすらどこか遠慮しているような男だ。
そんな奴が、ふとした拍子に「やっぱり無理だ」と思っても、おかしくはない。
ぐるり、と嫌な考えが巡る。
(……森のとこ、とか)
考えたくない名前が浮かんだ瞬間、胸の奥がぎゅっと掴まれたように痛んだ。
森は昔からちょんまげを気にかけていた。優しくて、穏やかで、ターボーとは真逆のタイプだ。
もし、あいつのところに行ったのだとしたら。
「ふざけんなっ…」
思わず吐き捨てる。
だが、その声はどこか弱かった。
自信があるはずだった。
昔から人気者で、何でもできて、周りから好かれて。ちょんまげだって、最終的に自分を選んだ。
——なのに。
どうしてこんなにも不安になる?
ソファに腰を落とす。手のひらがじっとりと汗ばんでいる。
時計の針がやけに遅く感じる。
10分。
20分。
30分。
その間も、何度もスマホを確認した。
通知は来ない。既読もつかない。
1時間が過ぎた頃には、もう限界だった。
「……どこ行ったんだよ……」
ぽつりと零れる声は、情けないほど掠れていた。
そのとき、ガチャ、と玄関の鍵が回る音がした。
弾かれたように立ち上がる。
ドアが開く。
「ただいま…あれ、ターボーもう帰ってたんだ」
何事もなかったかのように、ちょんまげがそこにいた。
小柄な体、少し緩い服、色白の頬がほんのり赤い。
——無事だ。
その事実だけで、膝が抜けそうになる。
「…ターボー?顔色悪いよ、どうしたの」
心配そうに駆け寄ってくる。
その瞬間、ターボーは堪えきれずに腕を伸ばした。ぐい、と強く引き寄せる。
「っ……ターボー?」
そのまま、抱きしめた。
ぎゅう、と力を込めて。
壊れそうなくらいに。
「どこ行ってたんだよ……」
低く、押し殺した声。
「え、あの…」
「連絡もつかねぇし、電話も出ねぇし…」
腕の中の体が少しだけびくりと震えた。
「…ごめん」
小さな声。
その一言で余計に胸が締めつけられる。
「理由」
「えっと…その…」
ちょんまげは少しもじもじしながら、視線を逸らした。
「今日…その…付き合って半年、でしょ…?」
「……」
「だから…ケーキ買って帰りたくて…」
ぽつりぽつりと続く言葉。
「でもどこも売り切れで…それでちょっと遠くの店まで行ってて…」
「…は?」
「ごめん、スマホ途中で充電切れちゃって……」
申し訳なさそうに笑う。
その手には、小さな箱。ケーキの箱。
一瞬、頭が真っ白になった。
それから、遅れて理解が追いつく。
(俺……)
疑って、勝手に不安になって。
逃げられたとか、他の男のところに行ったとか。全部、的外れで。
「…バカじゃねぇの」
思わず漏れる。
「えっ」
ちょんまげがきょとんとする。ターボーは額を押さえた。
どうしようもなく、情けない。そして同時に
どうしようもなく——
愛おしい。
「そんな理由で、俺をこんなに不安にさせんなよ……」
そう言って、再び抱きしめる。今度は少しだけ優しく。
「ターボー…?」
ちょんまげの声が、戸惑いを含む。
ターボーはその肩に顔を埋めた。
「……俺」
言葉が詰まる。こんなこと、言うつもりなかったのに。
「俺、お前がいないとダメになる」
静かに、でも確かに吐き出した。
「……え」
「だから、黙ってどっか行くな」
腕の力が強くなる。
「……心臓、止まるかと思った」
正直すぎる言葉だった。
ちょんまげはしばらく黙っていたが、やがてくすりと笑った。
「なにそれ」
「笑い事じゃねぇ」
「でもさ……」
少しだけ顔を上げて、ターボーを見る。その表情は、どこか嬉しそうだった。
「ターボー、僕がいないとダメだね」
「……」
「なんか、ちょっと安心した」
照れたように笑う。その顔を見た瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。
ずっと、自分の方が上だと思っていた。守ってやる側で、支える側で。ちょんまげは、自分がいないとダメな存在だと。
——でも違う。
ダメなのは、自分の方かもしれない。
「……調子乗んな」
そう言いながら、そっと顎を持ち上げる。
距離が近い。ちょんまげの瞳が揺れる。
「っ……ターボー」
「黙って」
そのまま、唇を重ねた。
柔らかくて、温かい。少しだけ甘い匂いがする。触れた瞬間、胸の奥のざわつきが嘘みたいに消えていく。
離れて、もう一度。
今度は少し深く。ちょんまげの指が、そっと服を掴む。
「……好きだ」
キスの合間に、低く呟く。
「……僕も、すき」
か細い声で返ってくる。
それだけで、十分だった。
テーブルの上にケーキを置く。二人で並んで座る。小さな箱を開けると、少し形が崩れたケーキが顔を出した。
「……ちょっと潰れてる」
「遠かったからね……」
「でもうまそう」
「でしょ」
笑い合う。何気ない、ただそれだけの時間。
けれど、ターボーはふと思う。
この時間が、どれだけ大事か。
どれだけ失いたくないか。
隣にいる小さな体を、そっと引き寄せる。
「なに?」
「いや」
肩に頭を預けるちょんまげ。
その体温が、やけに心地いい。
「もう、どこにも行くなよ」
「うん」
「……行くときは、ちゃんと言え」
「うん」
素直な返事。それだけで満たされる。
少し歪で、少し危うい関係。
それでも、互いに縋るようにして、離れられない。
——それでもいい。
寧ろ、それがいい。
夜は静かに更けていく。
二人の距離は、もう離れることはなかった。
END