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ターボーの会社は、自由な空気が流れている。社員は私服で、ソファやカウンターで思い思いに仕事をする。そんな中でも一際目立つのが、社長であるターボーの存在だった。
背が高く、がっしりとした体格。少し無骨にも見えるのに、どこか面倒見がよくて、人懐っこい。そんな彼の視線が、今はひとりの男に向けられている。
ちょんまげ。
小柄な体つき。前髪をちょんまげのように結んでいるのがトレードマークで、どこか頼りなさげな雰囲気をまとっている。
二人は幼馴染だった。けれど長い間会うことはなく、再会したのは大人になってからだった。
そのときのちょんまげは、世間から少し離れた場所にいた。
仕事もなく、自信もなく、どこか消えてしまいそうな目をしていた。
そんな彼を見つけたのが、ターボーだった。
「うち来いよ。働ける場所、あるから」
軽い調子で言ったその一言が、すべての始まりだった。面倒を見るうちに気付けば情は深くなり、それはやがて恋へと変わった。
最初に告白したのはターボーの方だった。けれど、ちょんまげは首を横に振った。
「……無理だよ。僕じゃターボーに釣り合わない」
そう言って、逃げるように笑った。
その言葉にターボーは腹が立った。悲しくもなった。でも何より諦めきれなかった。
だから、もう一度言った。
「それでもいい。俺が好きなんだよ、お前のこと」
二度目の告白は静かで、でも強かった。
そして今、二人は恋人同士になって一年が経つ。
*
「はい、これ」
一年記念日。ターボーはちょんまげに小さな箱を差し出した。
「…なに?」
ちょんまげは不思議そうにそれを受け取る。
開けた瞬間、目を丸くした。
「……え、これ……」
シンプルだけど、明らかに高価だとわかる指輪がそこにあった。
「お揃い。ほら」
ターボーは自分の指輪を軽く見せる。
「いや、待って、こ絶対高いやつじゃん…!」
「まぁな」
「まぁな、じゃないって!」
ちょんまげは困ったように視線を彷徨わせた。
「僕、こんなの……」
「ちょんまげにつけてほしい」
その一言で、ちょんまげは黙った。
ターボーはゆっくりと彼の手を取る。小さくて、少し冷たい手。
「左、いい?」
「…うん」
指が震えているのがわかった。それでも引かないその手が、愛おしい。
ターボーはゆっくりと、ちょんまげの左手の薬指に指輪をはめた。ぴったりと収まる。
「似合ってる」
「そ、そう…?」
ちょんまげは顔を赤くしながら、小さく頷いた。その様子に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
けれど同時に、ほんの少しだけ不安もよぎった。
――……ちょっと、重すぎたか?
――無理させたかもしれないな……
強引だったかもしれない、と。
*
それから数日後。
会社の中を歩いていたターボーは、ソファに座るちょんまげの姿を見つけた。
後ろから声をかけようとして――止まる。
「……」
ちょんまげは誰もいないと思っているのか。
そっと、自分の左手を持ち上げていた。そして、指輪を見つめている。
その表情はすごく嬉しそうだった。頬が少し緩んでいて、目が優しく細められている。
何度も角度を変えて、光にかざして、また見て。まるで宝物みたいに、大事そうに。
「……」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
――ああ、よかった。
――本当に、よかった。
「なにしてんの」
「うわっ!?」
声をかけると、ちょんまげは飛び上がるように振り返った。
「タ、ターボー!? いつからいたの!?」
「今来たとこ」
嘘だ。少し前から見ていた。
でもそれは言わない。
「…指輪、見てたのか」
「……べ、別に……」
視線を逸らすちょんまげの耳が、赤い。
「似合ってるって言っただろ」
「……うん」
小さく頷く。その仕草が、やけに素直で。
ターボーはそのまま、ちょんまげの隣に腰を下ろした。
「なぁ」
「なに?」
「嬉しい?」
「…うん」
今度は迷いなく答えた。その声に、ターボーは思わず笑ってしまう。
「そっか」
「……ターボー」
「ん?」
「ありがと」
まっすぐに見つめられる。その目があまりにも綺麗で。
気付けば、ターボーはちょんまげの顎に手をかけていた。
「…キスしていい?」
「ここで…?」
「誰もいない」
「…いいよ」
小さく目を閉じる。その仕草が、たまらなく愛しい。
ターボーはゆっくりと顔を近づけた。
唇が触れる。柔らかくて、少しだけ震えている。軽く触れるだけのキスのはずが、離れがたくて、もう一度重ねる。
「んっ…」
ちょんまげの口から小さく漏れる声。
そのまま、少しだけ深くなる。
指輪をはめた手が、ターボーの服をぎゅっと掴んだ。それが嬉しくて、更に抱き寄せる。やがて、ゆっくりと唇を離した。
「…顔、真っ赤」
「うるさいっ…」
ちょんまげは顔を隠すように俯く。でもその手には、ちゃんと指輪が光っている。
「なぁ」
「なに…」
「これからも、ずっとつけててくれる?」
「…うん」
迷いのない返事だった。
ターボーはその手を取って、そっと指輪に触れる。
「約束な」
「…うん」
指先に結ばれた、小さな約束。
それはきっと、二人のこれからを繋いでいく。
END