それは、突然のことだった─。
一瞬、なんの事か分からなくって。
だって、目の前には…。
学校の掲示板には昨日の、教室で藤屋さんにお弁当を食べないか誘われた時の写真が貼ってあった。
「っ……..」
何これ。
何これ、何これ。
もしかして、あのときのバカ男子が撮ったの?
「羽津さんサイテー」
遠くから女子の声がした。
「私らの王子様になんてことするのよ!!」
続いてさっきの女子の仲間だと思われる人も、そして気づけば全員が口々に私の悪口を言い合った。
悪口を言う人だけでなく、私のことをじっと白い目で見てる人もいたり、コソコソ悪口を言ってたり。
違うのに。私はなにも、してないのに。
油断したのが悪かったの?喋らなければ良かったの?
悪口を言うなら、先にどうすれば良かったのかを言ってよ…!
…ふざけないでよ。
気づけばいつしか、驚きは怒りへと姿を変えた。
一刻も早くここから逃げたいけれど、逃げたら負けだという謎のプライドが邪魔をする。
強くなれば、何事にも負けない人間になれば、こんな悪質な嫌がらせが無くなると思ったから。
でも、声を出さないと意味がないのかな。
だったら、ちょっとの勇気でこんな辛い状況が変わるのなら…。
「やっ…….やめてよ!!」
初めてだった。こんな大声で、大人数の前で、言ったのは。
が、ぎゅっとつぶってた目を開けると目の前には凍りついた皆が。
え、まさか私の発言に引いてるの?
ウソでしょ?
皆の反応に唖然としていると…。
突然、皆が大声で笑いだした。
何?笑うところじゃないでしょ。
「お前、それで反抗できると思ってんの?wwあーおもしれーw」
一人の男子が私を指さして腹を抱えながら笑っていた。
顔に熱が一気に集まるのを感じる。
「〜〜〜っ…..」
このときにまた、何か言ってたら、変わってたのかな。
ふと、突然、人混みの中からある人物を見つけた。
藤屋さんだ。
焦ったような、申し訳無さそうな表情の藤屋さんが私のことをじっと見つめていた。
….今更、そんな表情をしても遅いんだから。
どうせ心の中では『いい気味〜w』とか思ってるんでしょ。
たとえそうと思ってなくても、藤屋さんが私を騙したのに変わりない。
すると、ふと、藤屋さんの頭上に目が移る。
35日。
短い、命なのかな。
これだけ短いなら、もっと他に時間を使えば良いのに。
人を騙してる時点で時間のムダなのに。
まぁ、私には関係のないことだし。
でも…..。
やっぱり、クラスメイトでもあるし、死んじゃったらちょっと悲しくなるのかな。
いやいや、人を騙してるんだよ?悲しくなるわけない。
そもそも私は盗撮されたんだよ?
犯罪だよ。そんなこと。
今すぐ警察に連行されたら良いのに。
そう思いながらそろそろ授業が始まる時間だったので人をかわしながら教室へと向かった。
授業が終わり、昼食の時間になった。
今日は人がいない静かな校庭にいる。
狭くて雑草も伸び放題だけれど他の所は人はいるし、日があたって暑かったからここに来たのだ。
ここは大きな木が一本生えていて、その下に座ると日陰で凄く心地良い。
だからここはお気に入りの場所だ。
いつもどうりお弁当を食べていると…。
「羽津さん…?今ちょっといいかな」
突然、右から声がしたかと思うとそこには藤屋さんがいた。
「何」
今、一番喋りたくなかった人。
早く、あっち行ってほしい。
じゃないとまた、なにか言われるじゃん。
確かにここが人目のないところだけれども、いつ、どこから見てるのか分からないんだから。
「あの…昨日は、ごめんね‥。謝って許されることじゃないのは分かってる。
でも、僕のせいでこんな大騒ぎになって…、本当にごめん。皆には僕が言っておくから─。」
「うるさい!!!謝りの言葉なんていらないから、もうあっち行って!!!!」
何よアイツ!!
昨日はさんざん私を騙したくせに今更謝るなんて。
本当にムカつく。
もう一生、話したくも会いたくもない。
「あっ、そ、そうだよね。本当にごめ───。」
藤屋さんがそこまで言った時だった。
急に固まって一つも言葉を発さなくなった。
何よ、次は何。
「ねっ羽津さん…。スカートに、血が…。」
ん?今、なんて言った?
スカートに、血?
私も自分のスカートに目をやると。
「っっ!」
血が、ついていた。
スカートに血がついてるって、もうあれしかないでしょ….。
せめて男子には見られたくなかったのに。
「みっ見ないで!!!!」
私は全速力でトイレへと向かう。
最初、藤屋さんが「お弁当、忘れてるよ!」って声が何度もしたけれど今はそれどころじゃない。
どうりで…お腹が痛いって思ってたら…。
もう本当に、今日は最悪な日だ。
心の底からそう思ったのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!