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#掃除
月城 蓮桜音
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saza
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水羽
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「三年前の戦時下。私とヘーゼルは偵察部隊と共に、敵地で密偵の陽動をしていたわ」 セーレは両腕を抱えて、衣服の汚れも気にせず土壁に寄りかかっていた。
「おい、拘束を解除。んっ……」
「口を開かないようにしたわ、鼻呼吸し黙って聞きなさい」
ビィシャアは、彼女の顔を睨みつけた。
敵対者の反応と無視。そのまま、セーレは戦時下の話を続けた。
「その日は、雨が降っていて……」
これは過去。ヘーゼルとセーレはタッグを組み、敵の密偵調査を「手伝ってほしい」と偵察部隊のリーダーが頭を下げていた。
「なんで、私が密偵補助なんぞ、手伝う気になれん」
ぶっきらぼうなヘーゼルを見て、新人のセーレが宥めようとしていた。
「まぁ、まぁ、話だけでも聞こうよ。それで、えっと……偵察部隊リーダーのエドモンドさん。詳しいお話を聞かせていただけないでしょうか」
エドモンドは、彼女たちに敬礼した。
「はっ! ヘーゼル様、セーレ様。その前に私のことは、エドモンドと呼び捨てでお呼びください」
二人に密偵補助を頼んだエドモンドは隠れ蓑の天才と呼ばれた男。偵察部隊員からも、一目置かれる立場であった。
「そぅ、わかったわ。それで、エドモンド。私達は何をすればいいの?」セーレは渋々だが、呼び捨てを了承した。
「はい、簡単なことです。我ら偵察部隊が敵地内部に忍び込んでいる間、敵地の外で大暴れしてほしいのです」
「簡単に言ってくれるな」ヘーゼルは鼻で笑った。
「言いたいことはわかるけど、協力してあげようよ。私達には神器って、いう強力な武器も手に入ったことだし」セーレが口添えをした。
「しかしだな」
仕舞いには二人は口喧嘩を始めてしまい、もはや収拾がつかない。何もできないエドモンドは、その場でじっと静かになるまで、待っていた。そこに、灯りが近づいてくる。キャンプテントの入り口が開き、指揮官のアーネスが顔を覗かせた。
「エドモンドから話は聞いているよ。ヘーゼルとセーレは王城から奪った神器を試す良い機会だ」
「おい、おい、本気かよ」
ヘーゼルは、最後の砦であるアーネスの説得に応じ、渋々”OK”を出した。
「よし、話はまとまったみたいだね。私は明日、王城の第三拠点を落とす。第二拠点の情報収集と陽動は頼んだよ」
彼はテントから出ていき、雨の中を足早に駆けて行った。エドモンドは、偵察調査の話を続けた。
「アーネス様の許可が出ましたので、作戦を説明いたします。宜しいでしょうか?」
「はい、お願いします」
「ふん、仕方ないね」
素直なセーレと機嫌が悪いヘーゼルを他所にエドモンドは、テーブルに地図を広げた。
第二拠点の場所や陽動、合流ポイントにマーカーをつけた。陽動班、ヘーゼルとセーレは、敵兵をできる限り陽動ポイントへ集め、最終的には川を氾濫させ、水責めする作戦のようだ。最重要の偵察部隊は、王城の動向や神器の有無を調査。二つのチームが合流ポイントで、戦線を離脱し完了。
「……以上で作戦説明を終了いたします……何かご質問はありますか?」エドモンドが地図を右人差し指で掻きながら、尋ねた。
「はい」
セーレは俊敏な動きで、手を上げた。
「どうぞ」
「王城の神器は、全部で十二本回収し私達が所持することになったけど、十三本目が出てきたらどうするの?」
エドモンドが智慧に基づき、ありのままを話した。
「はい、神器もあなた方と同じく、我らのような力を持たぬ者が手にしても意味がありません。しかし、今後、十三人目の存在が確認されるかもしれません。我らはそのための準備をしているのです」
質問が四つほど出たところで、三人の長い会議が終了。
やっと会議から解放されたセーレは雨が降る中、キャンプ近くの寺院に足を運んだ。
(雨が凄いけど、行かなきゃ)
濡れた手で、扉を開く。
寺院の中は、長椅子が並べられ、中央に花束と蝋燭の火が灯されていた。戦争で家族や友人を亡くした者たちが、戦死者に祈りを捧げる。セーレもこっそりとその中に混じり、戦死者に祈りを捧げた。
(早く、戦争を終わらせないと……)
その目には涙が流れ出ていた。
夜が明けた。
雨は止み、晴れた天候に恵まれた。いよいよ作戦決行と偵察部隊も意気込む。そこに、セーレ、ヘーゼル、エドモンドの三人が部隊員に激励をかけた。
歓喜、沈黙の順を通る。最後にエドモンドから部隊に向けて話をした。
「我らは、アーネス様の意思で集まった精鋭だ。しかし、お前達に言っておくことは、ひとつだ。いざとなったら、死ぬ覚悟で情報を守れ。王城の捕虜になんてなるな。奴等の情報を奪い取れ!」
偵察部隊の指揮が上がる。鼓舞した勢いに任せて、セーレも一言付け加えた。
「どうか、皆さん、無理をしないで生きて帰ってきましょう!」
偵察部隊は、拳を天に上げ作戦は決行された。
敵陣を油断していた。何やら楽しそうな談笑が聞こえる。そこに二人の能力者が破壊行動を開始する。
轟音に驚いた敵兵たちは現場へ急行した。
セーレとヘーゼルは、神器の力で身体能力が向上し、敵陣の城壁の一部を破壊した。大慌てで、歩兵団が進攻してきた。
「やるぞ、泣き虫セーレ。遅れは取るなよ」
「えぇ、ヘーゼル。行きましょう」
一方その頃、先行の陽動と密偵チーム。
五日前から張り込んでいた別動隊が様子を監視していた。川の水はダムでせき止められ、水位が高くなっていた。
第二拠点内部では、偵察部隊が慣れた手際で敵陣の拠点へ侵入していた。戦況は優勢であり、敵兵の混乱に乗じて、情報収集任務を遂行した。
一旦、現実の話に。
セーレは、過去にあった出来事をビィシャアへ伝えていった。だが、未だ信じられないという顔をしていた。納得できる訳もなく、まだ反抗的な態度だった。
「作戦は順調だったわ。けどある男が合流ポイントに現れて事態は一変するわ」
セーレは深呼吸をしてから、ビィシャアの手足の拘束以外を解いた。拘束疲れか、肩の関節を鳴らした。
「ふー、誰なの、その男は?」
「その男とは、アドモス。彼との初めての邂逅であり、私とヘーゼルに呪いをかけた術者だったの」
再びの過去。
歩兵団は、セーレとヘーゼルを追いかける。両者の距離が縮むことはなかった。むしろ距離が開く一方だった。歩兵団の将は、彼女たちの運動能力に畏怖していた。
「これが、見えざる断罪者セーレと回帰の選定者ヘーゼルの実力か。しかも王城の神器まで、持ち出しおって。許さん、必ず二人を討ち取れ。歩兵団の騎馬隊よ、前進せよ!」
歩兵団は山道に足を取られながらも、二人を追い詰めるべく、懸命に足跡を追った。
その頃、二人は神器の力に驚いていた。
「本気で走ったらどうなるんだろう」とセーレは胸を躍らせた。なるべく、そうならないように歩兵団との程よい距離をキープした。
「これが神器の力。私、こんなに高く飛んだの初めてよ。身体能力が人間の限界値を超えているわ」
「能力者も身体能力は高いが、さらに高めるとはね」
神器の力は、持ち主の身体能力を底上げした。足の速さ、瞬発力、肺活量、握力など、その力は常人を超越していた。そのため、エドモンドが指定した陽動ポイントへ予定より早く着いてしまった。あまりの早い到着に、ダムを監視していた別動隊の一人が跳び上がる程だ。
「早く着き過ぎちゃったかな」
「暫く待つか」
セーレとヘーゼルは、滝の上で歩兵団を待ち構えた。
二十分後。
歩兵団が二人がいる滝の下まで到着した。
「貴様らはここで、必ず仕留める。弓と鉄砲隊前へ」
ヘーゼルは、後方にいる別動隊へ手で合図を送った。別動隊がダムの杭を破壊した瞬間、勢いよく水が噴き出た。
同時に、二人は高く跳躍し木の枝に乗った。ヘーゼルが乗った木は細かったのか折れた。慌てて太い枝に乗り換えた。
「ぐわぁぁぁぁっ!」
歩兵団が川に巻き込まれていく。
その様子を見て、セーレはその場にしゃがみ込み、祈りながら涙を流すのであった。
あっという間に、水の流れが緩やかになった。
ヘーゼルと共に木の枝から地面まで飛び降りた。木の下にいた別動隊の人たちは、驚いたがセーレが作戦終了を告げると、足早に合流ポイントへ向かった。
「終わったな。私たちも合流ポイントへ行くぞ」
「えぇ、行きましょう」
二人は合流ポイントへ向かった。
山頂にある機械式のロープウェイ。離脱方法は、単純。十人乗りのゴンドラに乗り込むだけ。既に何人かゴンドラへ乗り込み、離脱していた。
「後はセーレ様、ヘーゼル様と共に脱出すれば完了です」エドモンドがゴンドラの入り口を開けて、手招きしていた。
「首尾は万全のようね」セーレも少し彼を見直していた。
「神器はなかったが、王城の隠し通路の見取り図を手に入れたようだね」ヘーゼルも左肩を揉み、リラックスしていた。
エドモンドは、作戦完了に敬礼した。
「はい、ヘーゼル様、セーレ様。お褒めの言葉ありがとうございます」
彼の報告を受けた二人の全身が震え上がる。桁違いのオーラを感じ、畏怖と緊張が交差した。足が痙攣し、なせか逃げ出したくなった。
「それは、神器か? 面白い」
警鐘が鳴らされた。
静かに、ゆっくりと、大男が現れた。
にわかな出来事に、理解が追いつかない。しかし、セーレとヘーゼルも神器を構えて臨戦体制を取った。鋭くも本質を見抜く、眼光で二人を威圧する。
セーレとヘーゼルは意識を揃えて、考える時間は与えない。この脅威を排除すると決断した。
神器で先制攻撃するが、大男は素手で、その攻撃を受け止めた。顔の表情も少し落胆しているようだった。
「練度が足らんな、つまらん」
大男は神器を掴んだ手で、ヘーゼルとセーレの体を引き寄せた。その勢いを利用し、掌底を腹部に喰らわせた。二人は後方に吹き飛ばされてしまった。
「銀髪の女。面白いぞ。今、ワシの体を操っただろう。そっちの女は防御壁を張ったな。しかし、間に合わなかったようだな」少し驚き、期待の眼差しを送った。
セーレは洗脳の力で致命傷は避けた。ヘーゼルは防御壁が間に合わず気を失っていた。彼女たちは経絡のツボを突かれ、体がしびれて動けなかった。大男は興味を示したのか、銀髪の女性を観察する。
「貴様、他人の死を恐れているな。そんなものは、戦いには不要だ。どれ、ワシが恐怖を消してやろう」
「くっ……なぜそんなことがわかる?」
大男の左手が赤くなり、右手に持った焼印を押し熱を溜めた。それをセーレの左手に押し当てた。
「うぐっ……」
セーレは気絶しそうな痛みに耐えるしかなかった。大男が焼印を離すと、赤い蛇の刺青が左手に彫られていた。違う焼印に持ち替え、ヘーゼルの左腕付近に赤い鷹の刺青を彫った。
「うっ……あなたは……何者なの?」
「我が名は、アドモス。その名を刻むといい」巨大な膂力に、ものを言わせた。
セーレは、あまりの痛さとアドモスの恐ろしさに満身創痍。そのとき、両膝と背中あたりを急に持ち上げられた。持ち上げたのは、エドモンドだった。
「セーレ様、お逃げください。あなた方は、ここで死んでいい御方ではありません」
「無理よ、逃げなさい」
エドモンドは、作戦に絶対服従の忠誠心を捧げた。
「行ってください。神器と共に。あなたの洗脳なら気絶した、ヘーゼル様を操ることは可能です」
「けど……」
息を深く吸い、目を見開いた。
「失礼します……いいから、黙って行け! ここは私、偵察部隊のリーダーとしての任務です」
彼女は驚く暇もなく、月は雲に隠された。風も吹き、背中を後押しされながら、命を賭けた最後の作戦を断行。エドモンドは全て情報に身を捧げた。
「さぁ、“情報(セーレとヘーゼル)”を私が命懸けで守ります」
エドモンドは、セーレをゴンドラへ乗せた。
仕方なく、洗脳の力でヘーゼルを操る。二人の神器を回収させて、ゴンドラに乗り込ませた。
「完了、戻ってきて」と強く、セーレは催促するが、エドモンドは知らんぷりした。
「逃げてください」
乗り込んだことを確認したエドモンドは、下降ボタンを押しゴンドラの扉を外側から力強く閉めた。
その間に、アドモスはゆっくりとゴンドラへ近づく。
「わからんな。お前如きが、なぜ立ち向かう?」
決意のナイフを片手に持ち、鋼鉄と見紛うほどの腹部へ突き刺した。
「それはな、あの人たちに我らの意思を託しているからだ」
エドモンドのナイフは、アドモスの腹筋で折れ曲がり、使い物にならない。セーレは、ゴンドラの窓から涙ながら叫ぶが、彼の名前が思い浮かばず、わからない。
「……もう良い、さっさと消えよ」
アドモスは手刀で、エドモンドの心臓を貫いた。その瞬間、セーレの脳裏に名前が焼き付いた。
「エドモンド――――――――!!!」
彼の顔には任務達成の笑みが浮かんでいた。誰も死ぬことなんて望まぬ計り知れない衝撃と、セーレが名前を呼ぶ悲痛な叫びだけが響いた。
コメント
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第9話、読み終わりました……最後のエドモンドの「託す」シーンが本当に胸にきましたね。彼の「情報を守る」という覚悟と、セーレが名前を叫ぶ瞬間の切なさが重なって、読んでいて涙が出そうになりました。過去編と現在が交互に描かれる構成も、謎が少しずつ明かされていく感じがして引き込まれました。アドモスの初登場シーンも恐ろしくて、この後の因縁を思うとゾクゾクします。sazaさんの描く、忠義と犠牲の物語、とても沁みました。次話も楽しみにしていますね🌷