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第七十八話 それぞれの忙しさ
十月も終わりに近づいていた。
朝の空気は日に日に冷たくなり、
街の木々も少しずつ色づき始めている。
湊は大学の授業を終えると、
そのまま写真の撮影へ向かう日が増えていた。
写真の勉強。
大学の課題。
撮影の予定。
気づけば、一日があっという間に終わっている。
それは紬も同じだった。
大学の授業に加えて、
国際交流に関する活動にも参加するようになった。
違う国から来た人たちと話すこと。
文化の違いについて知ること。
自分の知らなかった考え方に触れること。
忙しいけれど、
紬にとっては楽しい時間だった。
ある夜。
湊はベッドに座りながら、
スマートフォンを見つめていた。
紬からのメッセージ。
『今日もお疲れさま』
その一言に、
湊は少し笑った。
『紬もお疲れさま』
送信する。
以前なら、
そこから何時間も話していた。
今日あったこと。
撮った写真。
大学で起きたちょっとした出来事。
くだらない話まで、
何でも話していた。
でも最近は、
お互いに返信してから眠ってしまうことも増えた。
寂しくないと言えば嘘になる。
だけど――
「仕方ないよな」
湊はそう呟いた。
二人とも、
自分の未来に向かって進んでいる。
忙しくなることは、
悪いことじゃない。
翌週。
湊は撮影の帰りに、
駅のホームで一人立っていた。
スマートフォンを取り出す。
紬に写真を送ろうとした。
#異世界転移
花月夜れん
1,957
200
ユキ
85
47
夕方の駅。
オレンジ色の光がホームに差し込んでいる。
「これ、好きそうだな」
そう思って写真を送る。
『今日こんな景色だった』
しばらくして返信が来た。
『きれい!』
そのあとに、
『私も今日、面白い人に会ったよ』
と続いた。
湊は紬の話を聞きながら、
少し安心した。
会えない日が増えても、
知らない時間が増えても、
こうしてお互いの一日を少しずつ共有できる。
それだけで、
ちゃんと繋がっている気がした。
週末。
久しぶりに二人は電話をした。
「最近どう?」
「忙しいけど、楽しいよ」
「そっちは?」
「俺も」
少しの沈黙。
以前なら気まずく感じたかもしれない。
でも今は、
不思議と嫌じゃなかった。
「ねえ、湊」
「ん?」
「私たち、前より忙しくなったね」
「うん」
「でも、なんか嬉しい」
「なんで?」
「それぞれ頑張ってるって分かるから」
湊は静かに笑った。
「俺も」
離れているからこそ、
相手の頑張っている姿が分かる。
自分とは違う場所で、
自分とは違うことをしている。
それでも、
向かっている先には同じように「未来」がある。
「また時間できたら会おうね」
「うん」
「今度は秋っぽい写真撮りたい」
「紅葉とか?」
「そう」
「じゃあ、いい場所探しとく」
「楽しみにしてる」
電話が終わる。
湊はカメラを手に取った。
窓の外には、
少し赤く染まり始めた木々。
忙しい毎日の中でも、
季節はちゃんと進んでいた。
湊はカメラを構える。
シャッターを切る。
それぞれの場所で過ごす時間も、
いつか二人で振り返る大切な思い出になる。
そんな気がした。
📷 Photo.078「それぞれの時間」
撮影日:10月27日
同じ時間を過ごせない日が増えても、
大切な人が頑張っていることを知っている。
それだけで、
心はちゃんと繋がっていた。
――次回、第七十九話「紅葉の約束」へ続く。
コメント
1件
あああ第78話読み終わったよ〜!!😭💕💕 湊と紬、それぞれの場所でちゃんと頑張ってて、会えなくてもお互いのこと想ってるの尊すぎません!?「これ、好きそうだな」って写真送る湊くんも、「それぞれ頑張ってるって分かるから嬉しい」って言う紬ちゃんも、心が温かくなりすぎてやばいです🫠✨ 離れてる時間が増えても、ちゃんと心は繋がってるって感じられるエピソードでした…!次回の紅葉の約束も絶対読みます!!🌸