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EPISODE 1 .
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東京都警刑事部捜査一課の犬塚真が中央区の警視庁に到着したのは、8月27日22時過ぎの事だった。
警察官舎のある千代田区から中央区の警視庁まで、約40分。
所轄時代に何回か応援に来た場所。だが、県警本部の刑事になって来るのは初めてだ。
マスコミの姿はまだなかった。
<警察車両以外の立ち入りは御遠慮下さい>と書かれた看板の横を通って中に入る。
築年数20年程の警視庁は、その年数の割に思ったより古い見た目をしていた。
狭い廊下の先を進んでいくと、1人の男が立っていた。
「お待ちしておりました。生活安全少年係の街咲洋太です。」
俺より2つ程年下の所轄時代の後輩。
訳あって同じ道を辿ることは無くなってしまった。
「所轄以来だな。お疲れ様。」
「お疲れ様です。その節はお世話になりました。」
深々と頭を下げ警察官の目をした物をこちらに向けてくる。
「容疑者は?」
「先程まで応接室にて対応していましたが、既に高校生と言うことで、取調室に移動させました。」
今回の容疑者は高校2年生とのこと。罪名は殺人罪。
犯行動機は黙秘していると聞く。
「相手は高校生と言ってもまだ17歳の子供です。優しくしてください。」
「なぜ犯罪者に愛想をかける必要がある?」
「まだ動機が明らかになっていないからです。」
「それがなんの理由も無い物や、出来心だったりしたら話は別ですが、やむを得ない状況だった場合もあります。」
「でも犯罪者は犯罪者だ。情けをかける必要は無いはずだ。」
「とにかく。その強ばった顔もやめてください。」
街咲に両頬を掴まれ引っ張られる。
「ぼぉほぉはいへふっはへるほ」
「出来るものなら。」
そう掛けられた言葉にイライラしながら手を振り払った。
「両親とは連絡ついているのか?」
「両親は6年前に離婚、今は母親と二人暮しらしいですが、まだ連絡が着いていません。」
「そうか。」
狭い廊下を更に奥へ奥へと進んでいくと、<取調室1>と書かれた部屋に辿り着いた。
ガチャ…とデジャブの音を立てて扉を開ける。
中央の机の奥側に1人の黒髪の少年が顔を伏せ、俯いた状態で座っていた。
「名前は大森元貴君です。大森君か、元貴君と呼んであげて下さい。」
「何故だ?」
「その方が緊張が解れて話しやすいと思います。」
そう言うと、俺を取調室の中まで誘導し、椅子に座らせた。
反対側に座る少年、大森元貴は顔を上げてこちらを見るとすぐに俯いてしまった。
俺たちを見る目はハイライトの入らない真っ黒な目だった。
「さっきも色々聞かれたと思うんだが、もう一度答えてくれ。まず名前は?」
「……大森元貴」
「…年齢は?」
「17…」
高校、バイト先、住所、家族構成等、一通り個人情報についての話は聞き終えることが出来た。
「……同じ高校の生徒を殺したと言うのは事実か?」
「…ぼくは殺してない。自殺しようとしてたから、助けようとしたら、椅子が倒れちゃったんだ。」
「なら、何故あの場所にいた?普段入るような場所では無いはずだが」
「別に、散歩してたまたまあったから入っただけ……。」
「たまたまで入る場所では無いんだがな…まぁいい、あの生徒とは仲が良かったのか?」
「…学年も違うし、部活入ってるわけでも無いから話す機会あるわけないでしょ。」
「仲が良くなかったらあんな場所に2人で居ることはないと思うがな。」
「母親とは連絡がつかないそうだが、何か知ってるのか?」
「………。」
大森の母親は未だ連絡が取れずじまい。元父親に連絡を取ろうとするも、電話番号も分からない。
電話番号以外は何も喋らないと聞いていたが、本当に何も喋らないとは。
「……むしゃくしゃしたんだ。」
「……?」
突然大森が口を開いて言葉を出す。
「…全部気に食わなかった。だから首を絞めてやった。バレるのが怖かったから自殺に見せかけようとしてたら、警察が家の中に来たんだ。」
「…それだけか?」
「……」
「はぁ…。ならなぜあの場にカッターナイフが落ちていたんだ?汚れたハンカチも、君が着ている制服に着いた血も。」
「あの子は血を流していなかった。ならその血があの子から付くのも不可能だ。」
「……黙秘します。」
「こう言うの、『半落ち』って言うんでしょ?」
「……そうだな。でもそんな事しても君に何の得もない。それに、犯行動機が分かるのも時間の問題だ。」
「……」
これ以上聞いても何も答えないだろう。1度ここを後にして明日、学校や周りの人間に事情聴取を取るとするか。
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EPISODE 1 . fin .
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