5. イライラの果てに
その日の帰り道、いつものように二人は並んで歩いていたが、今日はいつもと少し違っていた。入野は、いつものように反抗的な態度を取っているものの、どこかイライラしている自分に気づいていた。
入野「なあ、江口。」
入野は突然声をかけた。江口は顔を向けることなく、歩きながら答える。
江口「ん? どうかしました?」
入野「お前、ほんっとに気づかないよな。」
入野はその言葉を投げかけると、少し前を歩く江口の背中に向かってぶつぶつと文句を言った。
江口「え、何が?」
江口はいつものように鈍感に返す。入野の目が鋭くなる。
入野「だから、俺がどう思ってるのか、ちょっとは気づけよ!」
江口「自由くん、どうしたの? 怒ってんの?」
江口が振り返ると、入野は顔を赤くしていた。
入野「怒ってるんじゃなくて、イライラしてるんだよ! お前は本当に鈍感すぎて、なんでもかんでも気づかないんだよ!」
入野はその言葉を言いながら、足を速めた。江口は少し驚いた顔をして、追いかけるように歩いた。
江口「鈍感って、そんなに気になるのか?」
江口は少し真剣な顔をして言う。
江口「俺、別に自由くんを困らせようと思ってやってるわけじゃないんだけど。」
その言葉に、入野はすぐに振り返ることなく、鋭い目つきで言った。
入野「それが問題なんだよ! 俺がどう感じてるのか、ちゃんと見てよ!」
入野の声には、普段の反抗的な態度とは少し違う切羽詰まったものがあった。
しばらく沈黙が流れ、江口は歩みを止めた。入野は前を向いたままで、言葉が続かない。江口は少し思案した後、やっと口を開いた。
江口「自由くんは、俺に何を求めてるの?」
その言葉に、入野は何も言わずに歩き続けた。しばらくして、江口は足音を一歩一歩ゆっくりと踏みながら、入野に近づいていった。
江口「もしお前が俺に何かを伝えたかったら、もっと素直に言えばいいじゃないか。」
江口の言葉に、入野は少し驚いたように立ち止まる。
入野「素直って…」
江口「そうだよ。俺、鈍感だけど、ちゃんとお前が言いたいことを受け止めるよ。」
江口は、そう言うと少し顔を赤くしながら微笑んだ。
入野はそれに少しだけ照れくさそうに笑った。
入野「…なんか、お前も変だな。」
江口「変でもいいだろ?」
江口はそう言って、入野の肩に手を置いた。その手があまりにも自然に感じられたせいか、入野はまた顔を赤らめ、口を閉ざすしかなかった。