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怜
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たまには健全な純愛を、太中♀学パロ
そう言えば中也の料理上手設定って公式だっけ???
急いで書いたので誤字ばっかり
風が通り抜けるたびに、青々とした梢がさざめく声が聞こえる。初夏の光が降り注ぐ中庭の隅、大きな木陰のベンチが、いつの間にか彼らの指定席になっていた。
横浜にある私立学園の一角。昼休みを告げるチャイムが鳴り響いてから十分も経たないうちに、中原中也はいつも通りの苛立ちを眉間に刻みながら、その場所に足を運んでいた。制服のスカートを少しだけ気にするようにしてベンチに腰を下ろす。彼女の膝の上には、丁寧にかわいらしいクロスで包まれた二つの弁当箱が乗っていた。一つは自分のもの、そしてもう一つは、今まさにこちらに向かってだらしなく歩いてきている男のためのものだ。
「やあ、中也。今日も素晴らしい天気だね。こんな日は、美しい君の作ったお弁当を食べて、そのまま穏やかに心中でもしたくなるよ」
包帯を巻いた腕をひらひらと振らせながら、太宰治がにやにやとした薄笑いを浮かべて近づいてくる。制服の上着をだらしなく着崩し、ネクタイも緩みきったその姿は、相変わらず校則という言葉をどこかに置き忘れてきたかのようだった。
中也は盛大にため息をつくと、手元にある二つの弁当箱のうち、少し大きめのものを太宰の胸へと容赦なく押し付けた。
「うるせえよ。心中なんざお前一人で勝手に溺れてろ。あと、誰が『美しい君』だ、手前、いっぺん殴られたいのか」
「手厳しいなぁ。だが、口ではそんな酷いことを言いながらも、私のために毎日欠かさずお弁当を作ってきてくれる。これぞまさに、愛の成せる業だと思わないかい?」
「違うっての! お前が毎日毎日、購買のパンを買い忘れただの、財布を落としただの言って私の教室に泣きついてくるからだろうが! 迷惑なんだよ、クラスの奴らに変な目で見られるし!」
中也の頬が怒りと気恥ずかしさでほんのりと赤く染まる。それを指摘すればさらに怒ることを知っている太宰は、ただ楽しそうに目を細めてベンチの隣に滑り込んだ。
彼らは付き合っていない。ただの同じ学園に通う、妙に縁の深い幼馴染のような、あるいは犬猿の仲のような、一言では言い表せない関係だった。中也は毎朝、自分の分を作るついでに太宰の分まで作っているのだと自分に言い聞かせているが、その「ついで」にしては、太宰の好物である蟹の身を使ったおかずや、彩りを考えた野菜のバランスが完璧すぎることを、太宰はとうに知っていた。
クロスをほどき、蓋を開けると、ふわりと出汁のいい香りが鼻腔をくすぐる。
今日のおかずは、中也特製の卵焼き、鶏の照り焼き、そして太宰の分にはリクエスト通り、小さな蟹クリームコロッケが綺麗に収まっていた。ご飯の上には申し訳程度に黒胡麻が振られている。
「ほう、素晴らしい。今日の卵焼きは少し甘めかな? それにこのコロッケ、冷凍食品じゃないね。中也、さては昨日の夜から私のために仕込んでくれたのかい?」
「……っ、うるせえ! 夕飯の残りをリメイクしただけだわ! 文句があるなら食うな、今すぐそのコロッケを没収して私が食ってやる!」
「おっと、それは困る。これは私のために作られた、私のための栄養素だからね」
太宰は素早く箸を動かし、蟹クリームコロッケを口へと運んだ。サクッとした小気味いい音が響き、中からとろりとしたクリームが溢れる。太宰はわざとらしく大袈裟に目を輝かせ、幸せそうに頬を緩めた。
「美味い。本当に、中也の料理の腕だけは認めざるを得ないよ。これで性格がもう少しおしとやかで、口調がまともなら、すぐにでもお嫁に行けるだろうに。実に惜しい」
「誰がお嫁に行くか! それに私の性格が悪くて悪かったな! 嫌なら明日から購買の焼きそばパンでも齧ってろ!」
中也は自分の分の卵焼きを乱暴に口に放り込み、咀嚼しながら太宰を睨みつける。しかし、その視線には本物の拒絶は含まれていない。怒ったような表情の裏で、太宰が自分の作ったものを「美味い」と言って食べていることに、ほんの少しの満足感を抱いているのが透けて見えた。
太宰はその様子を観察するのが何よりも好きだった。中也はいつだって分かりやすい。嫌だ、迷惑だと言葉では並べ立てるくせに、行動はいつも優しさに満ちている。太宰が本当に食事を抜いてふらふらしているのを見かねて、ある日突然「ほらよ」と弁当を突きつけてきた日から、もうこの習慣は数ヶ月も続いている。
「しかし、不思議だね」
太宰は白米を口に運びながら、ふと視線を中庭を横切る他の生徒たちへと向けた。
「何がだよ」
「私たちは付き合ってもいないのに、こうして毎日二人きりで弁当を食べている。周りから見れば、どう考えても付き合っているカップルにしか見えないんじゃないかな? ほら、あっちでクラスの女子たちが君をニヤニヤしながら見ているよ」
「はぁ!? な、何言ってんだお前!」
中也は慌てて太宰の視線を追い、遠くでこちらを伺っていた女子生徒たちと目が合った。彼女たちは中也が気づいた瞬間に、キャーキャーと楽しそうに声を上げて去っていった。
その反応を見て、中也の顔は一気に沸騰したように真っ赤になった。耳の先まで赤くしながら、手元のお箸を握りしめる。
「ほ、本当に迷惑なんだよ! お前のせいで、私に変な噂が立ったらどうすんだ! ただでさえお前といるとろくな目に遭わないのに!」
「おや、私と噂になるのがそんなに嫌かい? 光栄に思うべきだと思うけれど。それに、噂を現実に変えてしまうという手もあるよ?」
太宰は箸を置き、少しだけ上体を中也の方へと傾けた。ふわりと、太宰の纏う微かな石鹸の香りが中也の鼻をくすぐる。彼の端正な顔立ちがすぐ近くに迫り、その深い瞳が真っ直ぐに自分を捉えていることに気づき、中也は思わず息を呑んだ。
太宰は普段、ふざけてばかりいて掴みどころがないが、たまにこうして、逃げ場をなくすような真剣な(あるいは真剣に見える)表情をすることがある。それが中也を一番調子狂わせる原因だった。
「……て、手前、からかってんなら本当に怒るぞ」
中也の声が少しだけ小さくなり、震える。ツンとした態度を維持しようとしても、心臓の音がうるさくて、自分の声がどこか上ずってしまうのを止められない。
太宰はそんな中をしばらくじっと見つめていたが、やがて満足したようにふっと笑みを漏らし、元の位置へと背を戻した。
「からかってなどいないさ。ただ、中也の反応が可愛くてね」
「可愛くねえよ! ぶっ飛ばすぞ!」
緊張から解放された中也は、照れ隠しのために声を荒らげ、太宰の肩を拳で小突いた。太宰は「痛いなぁ、暴力反対」と言いながらも、その表情は実に愉しげだった。
中庭の空気は穏やかで、二人の間には、怒号と軽口が飛び交っているにもかかわらず、どこか他者が介入できない独特の温かい結界のようなものが存在していた。
付き合っていない。その境界線に互いが足をかけている状態。中也は、これ以上踏み込めば自分がどうなってしまうか分からないという恐怖から、頑なに「太宰の面倒を見てやっているだけ」というスタンスを崩さない。そして太宰もまた、その中也の不器用な壁を壊さないように、絶妙な距離感を保ちながら彼女の境界線の中で遊んでいる。
「そうだ、中也。明日のメニューのリクエストをしてもいいかい?」
太宰は自分の弁当箱がすっかり空になったのを確認して、蓋を閉めながら言った。
「誰が明日も作るって言ったよ。今日で終わりだ、終わり!」
「ええー、そんな殺生な。明日はね、生姜焼きがいいな。中也の作る生姜焼きは、タレがしっかり染み込んでいてご飯が進むんだ」
「聞いてねえよ! ……ったく、生姜焼きなんて手間がかかるんだよ。豚肉だってタダじゃねえんだからな」
中也はぷいっと顔を背け、自分の弁当箱を片付け始める。その口調は相変わらず乱暴で拒絶に満ちているが、彼女の脳内ではすでに、今日の放課後に立ち寄るスーパーの動線と、豚の薄切り肉の価格予想が始まっていた。
太宰はそれを全てお見通しだった。中也はどれだけ文句を言っても、翌日には必ず、注文通りの、いや、それ以上に美味しい弁当を引っ提げてこの場所に現れる。
「じゃあ、明日の分の食費として、私の最高の笑顔を前払いしておこう」
「いらねえよそんな不良債権! 現金で払え!」
「手厳しいなぁ。じゃあ、これでどうだい?」
太宰はひらりと手を伸ばし、中也の頭をぽんぽんと軽く叩いた。ほんの一瞬の、子供をあやすような、あるいは愛おしいものを確かめるような優しい手つき。
中也は動きを止め、驚いたように目を見開いた後、再び顔を真っ赤にして太宰の手を振り払った。
「気安く触んな! ……本当、お前って奴は……」
中也はそれ以上言葉を続けられず、お弁当包みを抱えたまま、逃げるようにベンチから立ち上がった。ちょうど昼休みの終わりを告げる予鈴が、タイミングよく中庭に響き渡る。
「じゃあね、中也。また明日、同じ時間、同じ場所で」
太宰はベンチに座ったまま、去りゆく中也の背中に向かって手を振った。中也は振り返りもせず、ただ片手を小さく上げて応えると、早足で校舎へと消えていった。
残された太宰は、手元にある空になった弁当箱を見つめ、静かに微笑む。
付き合っていない、という今の関係は、酷くじれったく、そして酷く心地いい。彼女がツンと澄ました顔で、それでも自分を拒絶しきれずに差し出してくれる温かいお弁当がある限り、太宰はこの学園生活をもう少しだけ、退屈せずに過ごせそうだった。
「さて、明日が待ち遠しいな」
太宰はゆっくりと立ち上がり、中也の後を追うように、初夏の陽気の中を歩き出した。
コメント
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学園物語、癒されまくりでした!! どんな世界線でも、太宰さんに文句を言いつつ、太宰さんのお願いを叶える中也♀︎が可愛すぎました!! そして、毎日栄養素まで完璧なお弁当を中也♀︎が作りそれを食べる太宰さん。 2人の関係がこれで付き合っていないという絶妙な関係性が素敵すぎる
読み終えた直後、心がぽかぽかしてます…! 「付き合ってない」って言い張る二人の距離感が、もう完全に恋愛漫画のそれで…中也がツンデレすぎて可愛いし、太宰の絶妙な距離感がずるいです🥀 お弁当の描写が細かくて、蟹クリームコロッケとか、中也の愛情がひしひし伝わってきました。頭ポンポンのシーン、一瞬で空気変わってドキドキしました…! 続き、すごく気になります。二人のこのじれったい関係、ずっと見ていたいです🖤