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安浦は心配の籠った泣き声を通路に放つ。
「でも、しょうがないさ。きっと、南米に行けば色々と良くなるさ」
私の体はもう痛みがない上に、ピンピンしている。不思議な感じだった。何か、こう、生まれ変わった感じだった。
煤ぼけた顔をハンカチで拭いた呉林は、疲れてずぶ濡れの安浦と私に、
「二人ともなんとか無事のようね。残念だけど、まだここは危険よ。油断しないで戻りましょう」
呉林は何かに警戒しているように背筋を伸ばして、きびきびと歩きだした。まるでとても警戒している黒豹のようだ。地味なスーツはところどころ煤ぼけていた。
私たち三人は元来た道を歩きながら、
「赤羽さん。精神や体の方の感じはどう。まだ、七番目の者に覚醒したてだから安定してないかもしれないけど。それと、恵ちゃんの方は疲労が心配ね」
呉林は、安浦に心配の眼差しを向けたが、さっきの安浦の救出を超能力的直観で知っているかのようだ。今では胸をときめかせて信じられないものを見るような顔で私を見ている。
「安定しているかは解らないけれど、悪い感じはしない。それと、七番目の者って何?」
「それは、姉さんの所へ行ったら話すわ。それと、恵ちゃん……疲れているだろうけど、お姉さんの車まで我慢してね」
私は非現実の世界で、自分の中のもっと非現実なことを実感したが、不思議とあまり気にしなかった。普通というか平常心というか……。今でも信じられないが。
「ご主人様。さっきナメクジを宙に浮かせた。どんなことしたの?」
疲労を隠せなくなった安浦は、さっきの事をうまく呑み込めていないが、言葉では絶対に言えない不思議な空気の流れは感知したようだ。
「解らない。体も精神も、まるで俺じゃない人間が俺の中にいて、そいつが何か叫んでいるようなんだ。でも、やっぱり悪い感じはしない。それと……怪我がほとんど治ってきているみたいなんだ」
私はその時、安浦は何時間もあのナメクジから逃げ回っていたのだろうかと思った。
「でも、凄いわ。これで世界は救われるはずよ。未だに私でも信じ切れないけれど……。私……あなたが好きよ……」
「え?」
心の中に一陣の爽やかな風が吹いた。私はこの世界から抜け出せれば、きっと呉林とうまくいくとこの時、確心したのだ。
「駄目―! 真理ちゃん! ご主人様はあたしと結婚するの!」