第三章:俺以外の名前を呼ぶな
最近、宇野の様子が変だった。
教室では俺の隣に来なくなり、放課後も連絡を無視する日が増えた。
「忙しい」なんて嘘だ。
あいつの行動は、全部俺が把握してる。
――お前、誰といた?
その問いを、何度も飲み込んだ。
だがある日、見てしまった。
宇野が、クラスの女子と笑って話している姿を。
しかも、その女に頭を軽く撫でられていた。
その瞬間、頭が真っ白になった。
許せない。
俺のものに触れるな――壊すぞ。
⸻
放課後、あいつは呼び出しに応じた。
いつもの教室。空気が冷たい。
「…何の用だよ」
「今日、誰といたの?」
宇野は一瞬きょとんとして、それから小さく笑った。
「あー、見てたのか。別にいいだろ。たまたま話してただけ」
「撫でられてただろ、頭」
「……だから?」
その一言で、俺は一歩踏み出して、宇野の襟元を掴んだ。
「お前…誰に飼われてるか、忘れたの?」
「……っは、飼われてる? 何様のつもりだよ」
「お前の全部、俺が拾ったんだぞ。捨て犬みたいになってたお前を、俺が!」
宇野は俺の腕を払いのけようとしたけど、できなかった。
「それでも、俺はお前に“ありがとう”なんて言わなかった。言ったら、終わる気がして」
「終わってない。終わらせない」
俺は宇野を壁に押しつけて、その耳元に口を寄せた。
「お前がどれだけ俺に依存してるか、わかってるから」
「俺が?お前の方こそ…俺に縋ってんだろ」
一瞬、沈黙。
その後のキスは、互いの憎しみと愛情をぐちゃぐちゃに混ぜたみたいだった。
吐息も、舌の動きも、全部むき出し。
まるで――互いを殺したいほど愛してるみたいに。
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