ピンポーン
インターホンが鳴り響く。
時間は14時丁度だ。
深澤「はーい」
岩本「こんにちは、調律師の岩本照です」
深澤「調律…あっ、!!」
深澤「ごめんなさい今日なの忘れてて…」
深澤「何も準備してなくて申し訳ないです 」
自分がピアノに夢中になっているのにも関わらず、調律師が来ることを忘れていた。
調律師の岩本さんは表情を全く変えないので少し不安になった。
でも、こんなにぴったり14時に来てくれることはそうそうないから、仕事に対して真面目な人なんだなと思う。
岩本「では、さっそく…」
深澤「あ、はい!!こちらです」
岩本「確認しますね」
深澤「はい。お願いします」
そう言うと、指を素早く動かして鍵盤の音を確かめる岩本さん。
…凄い。
すぐさま作業に入り、黙々と進めて行く。
ただ、その作業に少し違和感を感じた。
なにか、何かおかしい。
でも、何と聞かれると分からない。
モヤモヤしながらも、飲み物を準備していたことを思い出した。
深澤「あ…お茶いれてきますね」
岩本「ありがとうございます」
お茶と一緒に菓子も揃える。
少しお高めの。
深澤「ここに置いておきますね」
岩本「ありがとうございます。」
岩本「…凄いです」
深澤「え……?」
岩本「ああ…、いや、凄くピアノを大事に使われているんだなと思って」
岩本「人一倍程」
なかなかそんなことを言われたことがなく、驚いた。
深澤「はい…、とっても大切です」
岩本「劣化で鍵盤が黄ばんでしまったり表面が削られるのは当たり前なんです。」
岩本「普通の人は長く使っているとピアノの外観があまりよく見えなくなったり、ペダルの反応が鈍くなったりなどがよくあるんですが…」
岩本「このピアノは長年使ってるのに関わらずとても綺麗です」
岩本「…初めて見たくらい」
岩本「たくさん、愛が込められてるんですね」
深澤「………」
あまり言われない言葉をたくさん投げかけてくれる岩本さん。
おばあちゃんの気持ちをちゃんと繋げられていることを感じて心が温まる。
岩本「あっ、調律終わりました」
深澤「…あの」
深澤「一曲、聞いてくれませんか」
深澤「一番大切で大好きな曲を岩本さんに聞いてほしいです」
岩本「…もちろんです」
どうしても、この人に自分の演奏を聞いてほしかった。
欲しい言葉を全て言ってくれると思ったから。
いつも観客に自分の演奏をただ聞いて貰えるだけじゃ足りないと思っていることに気づいたから。
岩本さんに目配せをして、演奏を始める。
いつもより、気持ちを込めて。
岩本「あっ…」
今までで一番美しく演奏ができたと感じた。
岩本さんの表情が見たくて、其方へ視線を向ける。
深澤「えっ、…!」
深澤「どう…どうかしましたか…」
岩本さんは、涙を流していた。
なんの涙なのか、俺には分からない。
岩本「ごめんなさい…。」
岩本「この曲…僕も思い入れがあって、」
岩本「世に知られていない曲なのに、どうして…」
深澤「この曲…、大好きなおばあちゃんがいつも弾いてたんです」
深澤「俺が何か嬉しいことがあっても、辛いことがあってもこの曲を聴かせてくれました」
深澤「なぜか、元気になってしまうんですよね」
深澤「俺のコンサートではいつも必ずこの曲をオープニングに入れたり…、本当に大切な曲です」
岩本「……コンサート」
そういえば、岩本さんはピアノを弾けるのかな。
そう思って、つい軽く聞いてしまう。
深澤「岩本さんは…ピアノ弾くんですか?」
岩本「…いいえ、弾いたことは…あまり……」
深澤「……そうなんですか」
俺の質問に少しだけ肩をびくつかせる。
微妙に小さくなった声で返事をされたから、気になってしまった。
岩本「深澤さんの演奏、凄く綺麗でした」
岩本「…ピアノって、どれだけ技術力が高くても、知識があっても、そのピアノと自分の心が繋がってなけりゃ、演奏を聴いても綺麗だとは思わないんです」
岩本「愛のある演奏は、人の心を動かせる力があります。どんなものでも。気性が激しい人間でも。」
岩本「深澤さんの演奏は…技術力が高い上に、それ以上にたくさんの感情が染み込んでいて、とっても美しいです」
岩本「こんなの…誰にも真似できません」
深澤「……、」
やっぱり、この人は凄い。
思ったことをまっすぐ伝えてくれる。
少し無愛想だと感じてしまった俺が憎たらしくなってしまうほどに。
逆に、どこか惹かれてしまっている自分がいた。
…… ᴛᴏ ʙᴇ ᴄᴏɴᴛɪɴᴜᴇᴅ
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早速出会いました…♪♪
私が音楽大好きなのでこの作品書くの楽しいです😬💟💟
ぜひいいねもコメントもお願いします…;;
コメント
2件
綺麗な作品ですね・・・続きが楽しみです!