優side
なんとか家に帰って来れた……。なんだアイツ、家でもあんなテンションなのかよ。いや、学校にいる時よりは…マシ、なのか?
優)疲れた……
あー、このまま寝ても良いかも。
みくる)すーぐーるー?
優)……
なんで今日はこんなに不運たなんだよ。久しぶりの一日オフなのに……。
優)姉さん、勝手に入って来んなっていつも言ってるだろ
みくる)あーあー、よく聞こえなーい!
優)……で、なんの用?
諦めた。姉さんに必要以上の反抗は意味がないと幼少期から学んでいる。
みくる)弟くんが帰ってきた時に、見覚えのある紙袋があるなーって思って
優)紙袋?なんの話だ?
姉さんが意味不明なのはいつもの事だが、今回は特に意味が分からない。
みくる)今日、私がバイトしてる店に来てたじゃん
優)は?
ふと、1つ心当たりがある出来事があった。あの店員だ。思い返してみれば、姿は違えど声や動作は確かに姉さんと一致している。
優)……マジか
俺は悪くない。変に着飾った姉さんが悪い。
みくる)なにその反応。ていうか、紙袋ないじゃん
優)友達に渡した
みくる)……へぇ〜?
優)…なに
そんな分かりやすく不機嫌ですって顔されてもな。
みくる)べっつに〜?私があんなに頑張って選んだんだのをそんな簡単に渡しちゃうんだ〜って思っただけだけど?別に気に入ってくれなくて萎えたとかじゃないから!
優)うるさいな……それに、最初から渡す予定だったんだよ。これ以上余計な検索はするな
姉さんの機嫌は急降下。面倒になる前にコンビニのスイーツでも買おうかと思っていたら、頭を叩かれた。日頃のストレスを全部ぶつけたな?痛いんだけど。
みくる)友達に合わせて!
優)なんでだよ
みくる)後でスケジュール表は送っておくから、友くんに共有しておいて〜!
優)いや、「友くん」って誰だよ
みくる)じゃ、そういうことだから!
優)ていうか、まだ連絡先交換してないんだけど
俺の言葉を聞かずに、姉さんは部屋から出て行った。律儀にドアを閉めてくれるのは有難い。解放されるのは我慢ならないからな。
優)明日は……仕事じゃん。タイミング悪すぎない?
いつもよりは空白の時間が多いが、それでもリテイクが多ければその分の時間が伸びる。モデルの仕事は好きな部類に入るが、今回ばかりはタイミングが悪い。
優)……午前中に全て終わらせてやる
そう意気込み、俺は少し早めに明日の準備をする。
天音side
天音)皆さん、おはようございます!
いつも通りに学校に来て、いつも通りに挨拶をする。
「宮野さんおはよう!今日の昼休み、一緒にお弁当食べない?」
「あっ、ずるい私も〜!」
「私も良いかな?」
うーん。悪くないけど、今日も優くんが来る気がするんだよね〜。今回は断ろうかな。
天音)誘って下さってありがとうございます!お誘いに乗りたいところなんですが、先約があるので……
「そっか…先約なら仕方ないね!」
「今度は一緒に食べよう!」
「ま、またね!」
手を振られたから、私も同じように手を振り返す。ミラーリングってやつ?こうすると好感度が上がるらしい。現に相手も嬉しそうだしね。
まだ優くん来ないな〜。
この時の私はすぐに来ると思ってた。
天音)…来ないなぁ
だって、昨日会えたんだから、今日も会えるって思うでしょ?
「え?宮野ちゃん何か言った?」
天音)いえ、なんでもありませんよ?
「そう?もし体調が悪かったら言えよ」
天音)はい。ありがとうございます!
そこからちょっとしたお話をした。ふと教室の時計が目に入る。授業開始3分前だ。私は席を立ち上がり、声を上げる。
天音)皆さーん!3分前着席お願いしまーす!
「あ、本当だ!」
「ありがとう宮野さん!」
「やっぱ頼りになる〜!」
天音)えへへ。それほどでも…あります!
「あるんかい!」
どっと笑いが起こる。
──これで良いんだよ。これで
気分は憂鬱。私の心を変えてくれるかもしれない人がいないんだもん。つまらないよ。
授業開始まで、あと1分。
───優くんは、まだ来ない。
昼休みに入り、私はお弁当を持って教室を出ようとする。
優)…おはよ。天音
背後から聞き覚えのある、けどまだ聞きなれない声がした。恐る恐る振り返ると、昨日より髪が整った優くんがいた。
天音)すぐる、くん……?
私は無意識に優くんの手を引っ張り、教室から出る。どうしても、聞きたいことがある。
「2人とも名前で呼びあって……!?」
「え、宮野さんと星宮くんって……」
「もしかしなくても、そういう……?」
「ウソだろ!?オレ、宮野狙ってたのに!」
「お前じゃ無理だ諦めろ」
「ほ゛し゛の゛く゛ん゛!!!!!」
「よーしよし」
優side
少し遅くなったが、早めに仕事を終わらせる事が出来た。軽い足取りで学科へ向かっている事に気づいた時は、そんなに宮野さんに会うのが楽しみなのかと思い笑った。昨日はあんなに疲れたとか言ってたのにな。宮野さんから天音呼びに変えたのはただの気分。もし聞かれた時は弟がいるからと答えておけば良い。
なんて、思ってたんだけど。
優)っ、ちょっと待ってくれ天音…!
天音)……
優)力強っ…天音──
ドン!
優)い゛っ……!
鈍い痛みが走る。壁に肩を強くぶつけられたからだ。どうしていきなりこんな事をしてきたのか分からない。昨日はあんなに元気だったのに。
優)あ、天音……?
天音)…『星宮くん』、どういうつもりですか
優)えっ、と……?そ、それより天音、肩が痛いんだけど──
それより先の言葉が出てこなかった。天音の恐ろしく冷たい瞳と目が合ってしまったから。
続く
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