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第八十三話 クリスマスの約束
十二月二十四日。
街はいつもより少しだけ賑やかだった。
駅前にはイルミネーションが並び、
店からはクリスマスの音楽が聞こえてくる。
湊はカメラを持って、
待ち合わせ場所へ向かっていた。
今日は紬と会う約束をしている。
最近はお互い忙しく、
なかなかゆっくり会う時間を作れなかった。
だからこそ、
今日を楽しみにしていた。
「湊!」
待ち合わせ場所に着くと、
紬が手を振っている。
「ごめん、待った?」
「ううん。俺も今来た」
「ほんと?」
「ほんと」
二人で笑う。
「寒いね」
「うん。でも、去年よりはマシかも」
「去年って……」
紬が少し考える。
「高校の頃?」
「そう」
二人は歩き始めた。
駅前のイルミネーションを見ながら、
湊は何枚も写真を撮っていた。
「湊、今日めっちゃ撮るじゃん」
「だって綺麗だから」
「いつもより楽しそう」
「……まあ、今日は特別だから」
「何が?」
「クリスマスだから」
そう言うと、
紬が少し笑った。
「それだけ?」
「それだけ」
本当は、
紬と一緒に見ているからだ。
でも、わざわざ言葉にするのは少し照れくさかった。
二人はイルミネーションの奥にある広場へ向かった。
そこには、
小さなクリスマスマーケットが開かれていた。
温かい飲み物を買って、
ベンチに並んで座る。
「今年ももう終わるね」
紬が空を見上げながら言った。
「早かったな」
「大学始まってから、もっと早く感じる」
「俺も」
高校を卒業してから、
それぞれ新しい生活が始まった。
忙しくなった。
会える時間も減った。
でも、
二人とも前に進んでいる。
「今年、いろいろあったね」
「うん」
写真展。
新しい企画。
夢について話したこと。
すれ違ったこと。
そして、
またちゃんと気持ちを伝えられるようになったこと。
湊は一つ一つを思い出していた。
「来年はどうなってるかな」
紬が聞く。
「分かんない」
「だよね」
「でも、今よりもっと写真撮ってると思う」
「私は、もっといろんな人と関わってると思う」
二人で笑う。
未来はまだ分からない。
それでも、
それぞれが進みたい方向は見えてきていた。
「じゃあ、約束しよう」
紬が言った。
「何を?」
「来年も、今日みたいに写真撮ろう」
湊は少し考えてから、
頷いた。
「いいね」
「毎年一枚」
「毎年?」
「うん。何年経っても」
その言葉に、
湊は笑った。
「じゃあ、続けよう」
カメラを三脚にセットする。
二人で並んで立つ。
タイマーを設定する。
シャッターが切られる直前、
紬が笑った。
「湊、ちゃんと笑って!」
「笑ってるって」
「もっと!」
「無理だって」
二人の笑い声が、
冬の夜に響いた。
シャッターが切られる。
一枚。
写真を確認すると、
イルミネーションの光の中で、
二人が並んで笑っていた。
「いい写真」
紬が言う。
「うん」
湊も画面を見つめる。
今年最後の二人の写真。
でも、
最後ではない。
来年も。
その次の年も。
この一枚の続きがある。
帰り道。
「じゃあ、またね」
「うん。またね」
手を振って、
それぞれの帰り道へ向かう。
湊は少し歩いてから、
一度振り返った。
紬も振り返っていた。
二人とも笑っている。
湊はカメラを構えた。
今度は、
少し離れた場所から紬の後ろ姿を撮る。
今年の最後に残したいと思った景色だった。
📷 Photo.083「クリスマスの約束」
撮影日:12月24日
毎年一枚。
それは小さな約束だけれど、
未来へ続いていく二人だけの記録になった。
――次回、第八十四話「今年最後の写真」へ続く。
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コメント
1件
読了しました。第83話、すごく温かい気持ちになる回でしたね。イルミネーションの下で交わした「毎年一枚、写真を撮ろう」という約束が本当に素敵で。未来へ続いていく感じが、湊さんの撮った写真みたいに柔らかく切り取られていて、じんわりきました。最後に振り返って後ろ姿を撮る場面も、すごく好きです。編集者としても、心に残る一行でした。素敵なエピソードをありがとうございます🌷