テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
※注意
保存・転載・スクショ・流出行為禁止。
荒らし、晒し行為等全て禁止です。
誹謗中傷などは受け付けません。
すべて自己責任でお願いします。
センシティブ設定はしていませんが多少の暴力、流血表現がでてきます。
title:映画スペシャルズ妄想小話
映画スペシャルズのif世界線での妄想捏造小話
subtitle:帰る場所
彼らにどうしても幸せになってほしい想いが溢れだしてしまったようです。【ネタバレを含みますので閲覧には大変ご注意ください。】ここで忠告しておくしかないので閲覧後に文句言うのはやめましょう。やめてください。ご都合大好き主義なのでスペシャルズのみんないます。キャラブレが多少ありますが温かい目で見ていただけたら幸いです。話は明香ちゃんが中学生になる春らへん。明香ちゃんのお誕生日を2月と仮定して明香ちゃんの誕生日パーティーのお話です。いろいろ捏造していますのでご了承ください。それでもいいよ!って方だけ本文をお楽しみください。無理な人は戻ってください。
※いつかもしかしたら削除するかもしれないのですが、ご了承ください。
帰ろう、幸せの待つ家に。
*** *** ***
まだ少し肌寒い日のこと(2月である)。公民館の地域交流ホール、体育館にはいつものようにスペシャルズの面々が集まっていた。彼らのダンスの先生をつとめる明香はまだ学校なのでいない。そんな中、スペシャルズは舞台わきに身を寄せていた。
「おいダイヤ、話ってなんだ」
何やら険しい表情のダイヤに熊城がたずねる。
「明香の…、」
「お嬢がどうした」
「明香の誕生日が明日なんだ」
「あ?」
「明日、明香の誕生日にあじさい園で誕生日パーティーをする。だから、協力しろ」
そう、明日2月14日は明香の誕生日であった。あじさい園では子どもたちの誕生日には誕生日パーティーが開かれる。
「協力っつったってなにすんだよ」
とシンがさっきかみ砕いた飴を口の中で転がしながら眉をひそめた。
「ケーキを作る、からスポンジケーキとクリームと…果物、買い出し行かないとだし、あとプレゼントもまだ買えてない」
「ケーキ、市販の買わねぇの?」
「うちは自分たちで作るんだよ」
へー、と言いつつ桐生の目線は遠い。唯一村雨が楽しそうにダイヤの話に耳を傾けている。ダイヤは携帯をいじる熊城をきっと睨んだ。
「聞いてんのか」
「聞いてるよ。つまり俺たちにお嬢のプレゼント買いに付き合えってことだろ?」
「…そうだ」
「明香ちゃんにはいつも世話になってるし……なぁ桐生」
「まぁ、いいけど」
そんなこんなで、スペシャルズは明香の誕生日パーティーのために動き出すことになったのである。
*** *** ***
誕生日パーティーの当日の流れはこうだ。まず2月14日は平日なので明香たちは学校にいく。その学校にいる間が任務遂行時である。ダイヤ、熊城、桐生はプレゼントとケーキの材料の買い出し組。シン、村雨はあじさい園で部屋の飾りつけや夕飯の下準備組。2組にわかれて任務を決行した後、学校から帰ってきた明香は友達と遊びに行くので残った子どもたちと準備を進める。そして明香帰宅後、お風呂に入ってもらってそこで最終準備、明香がお風呂からあがれば誕生日パーティーの始まりだ。
話し合いの後、いつものようにやって来た明香を筆頭にダンスの練習をやり、スペシャルズはわかれた。
ー翌日、明香たちを見送ったダイヤはそそくさと伊達メガネと少しボロけた赤いキャップをかぶり集合場に向かった。昨日のうちに莉子にシンと村雨のことは話したのであじさい園は問題ない。あの2人の強面にはいささか問題があるかもしれないが。集合場のすぐそばに止まった黒いバンに乗り込めば、運転をつとめる園田(熊城の側近)、熊城、桐生がすでに乗っていた。お互いとくに言葉もないまま車は動き出し今日の目的地へ走る。……着いたのは大型ショッピングセンター。いつものスーパーですましてもよかったが、誕生日だ、お金に窮屈はあるものの少しでもいいものを買ってやりたかった。
「ダイヤ、これ」
不意に桐生から差し出された紙切れを受け取る。
「なんだ」
「シンと村雨のやつ」
代わりに買ってこい、と。ダイヤは紙切れを一瞥し熊城に押し付けた。
「お前らはそれぞれのプレゼントを買え。熊城はこいつらのプレゼントもだ。俺はケーキの材料を買う」
集合場をショッピングセンターの時計台前と指定してダイヤは颯爽とスーパーに身を翻した。
さて、さすがは大型ショッピングセンターのスーパー。品ぞろえが豊富でどれも新鮮だ。ダイヤはカゴを片手にやや早足でお菓子コーナーのスポンジケーキと生クリームをカゴに放ると果物コーナーへ踵を返す。買い物は手慣れたものだ。あじさい園での料理担当なだけあって目利きは熟練されている。迷いなくケーキを彩る果物……いちご、バナナ、桃、キウイ、りんご、ブルーベリー、オレンジ……を手に取るとレジへ直行した。食材をつめたエコバッグをぶらさげ次に向かうのは明香へのプレゼントだ。はて、この春中学にあがる女の子が欲しいものとは一体。いい歳した大人が悩むのも無理はない。無難にお菓子か、最近の流行など目も当てていない。コスメ?それとも文房具?雑貨店へ入ったダイヤは棚から棚を行き交う。そして店の奥でゆるりと足が止まった。目の前に並ぶのはマグカップ。やっぱり日用品がいいか、と思いながら装飾のほどこされたマグカップを見つめる。そうだ、たしかこの間明香がネコを好きだと言っていた。明香の満面の笑みを思い浮かべながらダイヤは口元に小さな笑みをつくると棚に手を伸ばした。
集合場の時計台前にさしかかったダイヤに桐生がうしろから駆け寄った。手には小さな紙袋があった。
「何買ったんだ」
「秘密、ダイヤは」
「教えない」
「…お互い様かよ」
2人は時計台にたどりつく前に足を止めた。理由は明白である。周囲の人々がざわついている。そのざわめきの中心に熊城がいた。時計台の前、おおきいくまのぬいぐるみを抱えて。ヤクザみたいな(正真正銘のヤクザである)強面の大男がつぶらな黒い瞳のピンクのテディベアを抱えてというよりかは担いで仁王立ちしていたら、さすがにざわつくだろう。シュールな光景に桐生が言う。
「絶対あそこに行きたくねぇ」
「同感だ」
ダイヤも即答だった。というか、”熊”城が”くま”を抱えてるのがツボにはまったらしく桐生は肩を震わせる。もしここに村雨がいたら何のためらいもなく熊城のもとへ向かうだろう。相乗効果でさらにざわめく未来しか見えない。そのうち最悪警察でも呼ばれるだろう。この時、桐生とダイヤの心境は一致していた。熊城に背を向け、ショッピングセンターの外で待機している園田の車へ直接向かうと熊城に電話をかけ、こちらに来るように伝えた。そのうえで自分たちは車の中で待機する。きゅるるんきゃわわなテディベアを抱くヤクザなど知り合いでも見たくもない。むしろ知り合いであってほしくなかった。
一方の熊城は電話の着信を告げるセンチメンタル・ジャーニーが流れ出した途端にざわめきが倍増したのはもはや予想の範疇である。熊城は物言わぬ顔でテディベアを抱えながら人ごみを進み、車へ歩いた。
熊城をというよりか、あまりにもでかすぎるテディベアを車内に迎えるためにやむを得ず一旦車から降りたダイヤはふと何かを感じた。背中にうごめく、視線。微かな殺気。
「どうした?早く乗れ、帰るぞ」
「……さきに帰ってろ」
「はぁ?」
「買い忘れを思い出した」
ダイヤは洒落た紙袋を提げたまますぐさま雑踏にまぎれていってしまった。ダイヤの背中を追った熊城の目が細められる。視界の中の違和感。最後に見えた、街角の隙間に消えたダイヤを追うように動き出した複数の人影と車。経験と勘はものを言う。
「兄貴、どうかしましたか」
「園田、お前さき荷物置きに行ってろ」
園田はすぐに察したようだ。
「了解です」
「桐生行くぞ」
「…指図すんな」
荷物を車に預け、熊城と桐生はダイヤを追いかける。
*** *** ***
荷物、車に置いてこればよかったな、とダイヤは紙袋を見て後悔した。だいぶ邪魔になっている。殺気が自分を狙っていることにはとっくに気づいていた。あとはどう撒くかだ。警察沙汰には絶対にできないためダイヤの足が向いたのは、かつて初めて熊城に桐生、シンとともに集められた廃墟。懐かしさを感じつつ中へと入ると影に身を潜めた。刹那、騒がしくなり声と影ががとびかう。ざっと30弱か。ダイヤは腕の時計を見やった。気づけばもう3時を過ぎている。4時までには戻りたい。ので、タイムリミットは10分。長くて20分。それまでに片付ける。ダイヤは慣れた手つきで腰の銃に手を這わせた。見覚えもない黒ずくめの集団。連携がとれていないのを見るに雇われた烏合の衆。ただ動きからして厄介そうなのが2人。ボスらしき人物の右に張っている長身の男と黒ずくめにまぎれるこちらも細長い体躯の男。なにやらわめいているボスの言葉をきくに、いつぞやダイヤが壊滅させた過激な暴力団のボスの息子。復讐か、御立派なこった。紙袋をソファの下に置く。ダイヤは待った。黒ずくめがひそりと近づいてくる。そうして上半身を視界にとらえた瞬間、足を払いあげて胸元に初発。サイレンサーつきの銃を奪い近くの数人にヒットさせた。自分の銃は一旦しまって両手にサイレンサー銃を構える。世の中便利になった。サイレンサーなので引き金を引いた時の暴発音が静かだ。暗殺によく適している。闇に溶けながら縦横無尽に散らばる敵の集団に向かってダイヤは駆け抜ける。一撃で沈められるように丁寧に狙いを定めて。慈悲の欠片もない。すっかり殺しの染みついた身体は容易に発砲された銃弾を避ける。絶命した敵の身体を盾にそのまま突っ込む。弱い。ボスの姿を見たと同時に首筋が冷えた。しゃがんだ頭すれすれに鋭い刃をそろえたブーメランが通過して向かいにいた敵に刺さった。血しぶきが舞ってダイヤは後退する。返り血はさけたい。汚れを落としている余裕は正直ない。厄介敵はブーメランと銃の併用で近づきがたいがそんなこと言ってる暇もない。地面に転がる銃をブーメランの軌道に投げつけまずブーメランを無力化させてから腰の銃を引き抜いた。斬鉄を起こし引き金に指をかけてあとは引く、だけだった。ズっと足元に感じるぬめり、敵の身体から流れた血のぬかるみに靴裏がこすれてバランスがくずれる。視界の先の銃口。避けれるか否か。避けれるが、怪我はするだろう。買い物しただけなのに銃でえぐられた傷なんかこさえてしまっては言い訳のしようがない。避けれるが、少し無茶すれば手首をひねるくらいですむか。ゼロコンマ数秒でダイヤがたたき出した答えは避けない、だった。撃たれたと同時にダイヤも発砲した。次の瞬間、双方の銃弾は宙でぶつかり合い、明後日の方向にはじけ飛んだ。敵方が動揺で銃口がブレた隙を逃さずダイヤは次弾を引く。胸元に命中し細長い体躯が崩れ落ちた。汚れていない床で血に濡れた靴底をこする。なってしまったものはしょうがない、洗うしかない。銃弾を補充しつつ残った残党の群れを振り返る。怖気づいたように一斉に銃が乱れ撃たれる。銃口がまったく定まっていない。素人もいいところだ。一弾も無駄にすることなくヒットさせていくダイヤにボスが後退るのが見えた。応援がきてしまって残りはあと20強。残り時間もさしせまってきた。思わずダイヤは舌打ちをこぼした。
「こんなのにかまってる暇なんかない…」
今日は明香の誕生日なのだ。彼女の晴れ舞台を汚してもらっては困る。自分にはやるべきことがあるのに。不意にボスの右腕が銃を構える。もちろん狙いはダイヤである。しかし、場所が悪かった。ダイヤが避けると、銃が向かう先は丁度、ソファ下に隠した紙袋、明香へのプレゼントが入っている。どうする。一瞬、ダイヤが止まった。それを見逃す相手でもなかった。我に返ったダイヤに引き金が引かれると思われた直前、突如別方向から響いた銃声。撃ち抜かれ倒れる右腕。ボスの弱弱しい悲鳴が沈黙にもれた。
「よそ見してるんじゃねぇぞ」
「……なんで」
「なんでって、お前が見え見えの嘘つくからだろ」
現れた熊城と桐生にダイヤは眉間にしわを寄せた。
「さきに帰れと言ったはずだ」
「まぁたお前狙われてるのか、なんだ、前の依頼主のか?」
「違う」
「はっ、さすが伝説の殺し屋サマだな」
「なにがおもしろい」
「おもしろくなんかねぇよ。ま、1人より3人の方が早いだろって話」
「…これにまで協力しろとは言ってない」
「そういうんじゃねぇよバカ」
「バカはお前だろ」
「なんだと…」
「桐生、やめろ。ダイヤもいちいち文句言うな。はやいとこ済ませて帰るぞ」
ダイヤはため息をついた。熊城の言うことが最もである。
「桐生、うしろの雑魚10ほど任せた。熊城はボス…あの太ったちびのおっさんでもやっとけ」
そう吐き捨てるとダイヤは前の増援に向かって走り出す。撃たれた衝撃で飛んできた流れ弾をバク宙で避けるとそのまま敵に足を絡めてなぎ倒した。二丁拳銃をぶっ放して前進する。増援の中でひときわ屈強そうな体躯の男が振りかざしたナイフを躱しつつ弾ぎれを起こした銃も武器に投げつけた。一瞬でも視界を奪えれば上等。桐生、熊城の銃声を背に浴びながら至近距離に詰め寄る。かつて裏社会を震撼させていた腕を誇るダイヤに唯一弱点があるとすれば体格差だろうか。ウエイトではどうしても劣ってしまう時がある。振り落とされるにぎりこぶしをはらうと反動でおされる。その間にも周りにうごめく黒ずくめを落ちていたブーメランで一掃すれば、奪った銃の引き金を引く。が、奇しくも弾がきれていた。空音に顔をしかめたダイヤにむかって男が敵に刺さったままだったブーメランをとばす。銃で受け止めると衝撃で手から銃が放り出された。若干の手のしびれに目線を逸らすとほぼ同時に間合いを詰めてきた男が無防備のダイヤを持ち上げる。腰をひねって宙に逃れるダイヤに打ち込まれる拳。顔か、腹か。腕が上に軌道をえがくのを目で追いつつ、動きをみせた足に反射で反応してぎりぎりでお腹を蹴り上げた足をガードするも、ダイヤの身体は後方に投げ出された。そのままソファにぶち当たる。これだから体格差がある敵とは相性が悪すぎる。面倒くさい。ダイヤは一度ソファに身体を投げ出すと手元の銃の残弾数を数えた。熊城はすでにボスを始末し終えただろう。桐生ももう相手数は少ない。タイムリミットまで、あと数分弱。ダイヤは伊達メガネをとった。そうして見上げた目には、何も映っていなかった。
あっけなく倒れたボスを蔑んだ瞳でながめながら一服しようと熊城はポケットに手を突っ込んだがそこに目当ての物はなかった。はぁと大きく息を吐いて銃声がなる場所へ戻る。途中で銃声はやんだ。返り血ひとつなく息の乱れもない桐生と合流して開けた場に向かうと、大量の死体と血が乱れる惨状の真ん中、夕日の差す踊り場に横たわった巨体の上に座り込むダイヤの姿があった。手にした銃とナイフから絶えず赤い液体が滴り不気味な羅列をなぞる。ダイヤの手から奪った銃が落とされ重い音をたてて転がった。熊城と桐生の気配にダイヤが振り返った。夕日に照らされた銀髪と真っ黒な奥知れない目に2人は思わず息を呑んだ。ダイヤの周囲になびく殺気に気圧される。光景は恐ろしいほど静かで、美しかった。ダイヤが自分たちの敵でなくてよかった、と熊城と桐生は心からそう感じた。微かに残り近くにさまよう殺気に気が気でない。いくつもの死線をくぐりぬけてきた2人だがダイヤの異様な空気に耐えるすべは虚しくもなかった。伊達メガネをかけなおし、髪をかきまぜながらダイヤが立ち上がる。
「終わったか」
「ああ」
廃墟を出ると園田が車のそばで待っていた。
「……あんた、GPSでも付けられてんのか」
「俺が呼んだだけだ」
帰りの車の中、ダイヤは外の景色を傍観しながら手元の紙袋を持つ手に無意識に力を入れた。
*** *** ***
「あ!帰ってきたぁ!」
「おかえりダイちゃん!熊ちゃん!零ちゃん!」
「はやくはやく~」
「ただいま」
「お前らすっかり子どもに懐かれてるな」
あじさい園で3人を迎えたのはすでに帰ってきた子どもたちと、そんな子どもたちに群がられるシンと村雨だった。子どもたちは強面を(ガチの殺し屋と元武闘派ヤクザである)ものともせず、むしろ楽しんでるようにもみえる。とりあえず子どもたちが怖がっていない様子にダイヤは安堵した。さっそくケーキの材料をキッチンに運んで子どもたちとケーキを作り始める。
「熊ちゃん、零ちゃん(桐生の名前は零士である)、はいこれエプロン!ちゃんとつけてね!」
「え……」
純真無垢な笑顔で子どもたちから手渡されたエプロンを受け取って熊城は絶句した。当たり前のようにエプロンを着るダイヤを横目に桐生はチェック柄のエプロンに腕を通す。そしてもう一度言う、熊城は絶句した。それはなぜか、熊城の手に渡ったエプロンはそれはそれはかわいらしいものであったからだ。小さい女の子なら誰だってあこがれるプリンセス風に彩られたベリープリティーなエプロン。ピンクをベースにフリルやらリボンが忖度なくあしらわれ、まぁどこからどうみても某お姫様のようだ。これを、俺に着ろと?……熊城はヤクザである。熊城は目に見えて動揺した。熊城にエプロンを貸してあげたそのエプロンの持ち主である少女は目を輝かせながら熊城を見ている。熊城は腹をくくった。
当然、桐生は爆笑した。シンも爆笑した。あまりにも爆笑してその場に崩れ落ちまでもした。村雨は熊城を哀れんだ。それはそれは哀れんだ。村雨も熊城に劣るに劣らないハートずくめのエプロンをしていたからかもしれない。ダイヤは気にもしなかった。明香が帰ってくるまでにケーキを完成させなければ、その一心だった。
「シン、これも切ってくれ」
「俺ばっかに押し付けるんじゃねぇ、お前らも切れ!」
「だってお前がいちばんうまいじゃねぇかよ」
料理ではシンが意外な器用を発揮していた。熊城は生クリームの絞り出しに大苦戦し、シンと桐生は果物を飾る位置でまた小競り合いをしながら、村雨は味見と称した盗み食いを子どもたちに咎められ、やんややんやで強面の大男たちはわいわいしながらダイヤら子どもたちは無事にケーキを完成させたのだった。部屋の飾りつけもだいぶ終わり、息抜きとしてスペシャルズの面々は子どもたちに手を引かれ外へと遊びに出る。戸惑いつつも笑顔を見せる彼らを見送りながらダイヤは1人、キッチンへと戻っていた。
冷蔵庫にケーキはいれた。あいつらもプレゼントのラッピングは済んだ。夕飯の準備、スープ、サラダ、唐揚げも揃っている。
「あっ、ご飯炊いてない…」
今夜はスペシャルズも誕生日パーティーに参加し夕飯も一緒に食べるだろう。なんだかおかしな気分だった。スペシャルズがそろってはじめの殺伐としていた頃、こんなことになるなんて思いもしなかった。想像しようとすらしなかった。なのにこんな、幸せな空間をあいつらと一緒に過ごすことになるなんて。少しあいた窓の隙間から外が見える。子どもたちに振り回される熊城たちを眺めながらお米をとぎ、炊飯器にセットした後、ダイヤは紙袋をそっと開いた。吐き出す息がかすかに震えた。
「やっぱりか……」
マグカップは箱の中で無惨にも割れ砕けていた。ぎざぎざに亀裂がはしりぱっくり割れて真っ二つになっている。なんとか守ったつもりだったが。
「これじゃああげられないな」
そうっとテーブルにマグカップを取り出す。ネコの柄に擦過傷もついてしまっていた。とてもプレゼントにはできない。子どもたちが工作の時に使うボンドを拝借してくっつけてみたはいいものの、やはりひび割れたマグカップは歪で不格好。ダイヤはキッチンの奥にマグカップを置いた。これは自分で使おう。少し沈んだ気持ちに椅子に深く腰掛けてうつ伏せになる。窓の外からころころとした笑い声がきこえる。平和で、穏やかで、優しくて、自分がいるべき場所とは程遠い。遠い、遠い、世界。しばらくして、ダイヤを呼ぶ少年の声がした。
「ダイちゃーーんこっち来てー!!」
「はーい」
身体を起こして立ち上がった瞬間、目の前の視界が真っ赤になった。どす黒い血にまみれた自分の手、連なる屍、うめき声、憎悪、怨念の空気、まとわりつく死のにおい、これが自分の世界。自分の目の前で轢かれた母親、うずくまり泣く少女、意味深な笑みを浮かべて自分を執拗に追い続けるかつての雇い主ーーーぱちりと瞬きすれば元の世界に戻る。詰まった息を吐き出せば眩暈と頭痛がした。指先がひりひりする。
*** *** ***
ダイヤは浮かない気分のまま帰ってきた明香をお風呂にいかせ、最終準備にかかる。壁一面を飾る折り紙や絵、ぶらさがるキラキラの装飾、ハッピーバースデーの飾り文字。みんなが明香のために用意した幸せな幸せな場所。シンが冷蔵庫からケーキを運ぶ。明香を迎え、誕生日パーティーが始まった。
「この唐揚げシンちゃんとおじぃが作ったの?」
「おうよ」
「ありがとう!すごく美味しい!」
「唐揚げもうなくなっちゃうよぉ」
「もう1回揚げてくるか?」
「ケーキもあるから食べ過ぎちゃだめだからな」
「うん!ボクいちご好き!」
「はいはい、ゆっくりね」
夕食を終え、それぞれが切り分けたケーキを楽しむ中、一旦部屋を出ていった村雨が何やら大きな袋を抱えて明香の前に差し出した。
「お嬢、俺からのプレゼントだ」
「え!?すごい……くまのぬいぐるみ!」
「明香おねぇちゃん、くまめっちゃおっきい!!!」
「ね。ありがとうおじぃ」
あのテディベアは村雨からのプレゼントだったのか。村雨に続いてみんなも明香へプレゼントを渡し始める。
「お嬢、これは俺から」
「うわ、たっけぇもんばっかだな」
「こういう日用品が一番使いやすいだろ」
熊城からは化粧品や日用の美容品の詰め合わせ。
「お嬢前に手荒れが酷いって言ってたからな、これ香りもいいしおすすめだって言われてな」
「ありがとう熊ちゃん」
クリーンな美容品売り場で熊城が買い物をしている様を思い浮かべるとどうも絵面が怖いが。
「明香ちゃん、おめでとう」
次にシンが手渡したのはシンプルなハンカチ。
「このハンカチ、私の名前の刺繍がある!」
「それ、俺がやったんだ」
「シンちゃんお裁縫もできるの?ほんと器用だね。ありがとうシンちゃん」
子どもたちにハンカチの刺繍を自慢して見せびらかす明香に桐生がそばに跪いて気恥ずかし気に一輪の花を手向けた。
「桐生お前プレゼントに花とか、ロマンチストだな」
「うるせぇよ、お、めでとう…」
「わぁっ、いい香りだね、これ何の花?」
「フリージアっていうらしいけど、2月の誕生花なんだって」
花に詳しい少女が顔をほころばせた。
「フリージアの花言葉は親愛とか感謝があるんだよ」
「そうなんだ……ありがとう零ちゃん」
桐生は微笑んで明香の肩を軽くたたいた。たくさんのプレゼントに囲まれながら明香の視線がダイヤにうつる。
「ダイちゃん!」
「ん?」
「ダイちゃんは私にプレゼント、ないの?」
「あー…」
ダイヤの脳裏に割れたマグカップが浮かぶがもうあれはプレゼントにはなれない。
「ごめん、今はないや。また今度一緒に買いに行こうか」
「うん」
その時、明香のひざに座っていた少年が慌ただしくキッチンに駆け込んでいったかと思うと、あのマグカップを手に戻ってきた。え、とダイヤが立ち上がる。少年はん!とにまっと笑って明香にそのマグカップを差し出した。
「これ、なに?」
「ダイちゃんから!」
「え?」
「ま、まって!それは違くて、その、落として…壊れちゃったから、」
しどろもどろに言うダイヤの前で明香はマグカップを手に取りじっと見つめる。
「明香、いいよ。ひび割れてきれいじゃないし、また新しいの買うから」
「これがいい」
明香がダイヤを見やった。
「これ、ダイちゃんからのプレゼント、もらっていい?」
「……それでいいの?割れてないきれいなやつじゃなくて」
「うんっ、だって私だけのオリジナルマグカップみたいで嬉しいしネコちゃん可愛いもん。それにダイちゃんが私のために選んでくれたんでしょ?」
「明香…」
「ダイちゃん、スペシャルズのみんなも、今日私のために色々プレゼント買ってくれたりパーティーの準備手伝ったりしてくれたんだよね?みんな、本当にありがとう!!私、今日人生でいっちばん幸せ!!!」
まぶしいな。ダイヤはそう思った。かつて、自分が孤独に追い込んでしまった少女がこんなにも幸せそうに笑えている。もしあの時出会わなければ、少女は孤独にのまれることも、ダイヤが殺しから身を引くこともなかっただろう。でも、あの時出会ったから、少女とダイヤはめぐり逢い、今、こうして幸せを分かち合うことができている。それはスペシャルズにもだ。
ダイヤは不器用ながらも精一杯笑った。今、この瞬間だけでも、幸せでいていいのかもしれない。幸せでいたい。自分にこんなことを言う資格なんてないけれど。
「明香、誕生日おめでとう」
生まれてきてくれてありがとう。出会えてよかった。ここまで大きく育ってくれて、ありがとう。
*** *** ***
その後、2月14日バレンタインデーとして明香にチョコをもらったダイヤらスペシャルズが3月14日ホワイトデーのお返しのために奔走奮闘するのはまた別の話。
おしまい
コメント
1件
ももさん、読んだよ〜!!😭💕💕 映画スペシャルズのif世界線、エモすぎて胸がぎゅーーってなった…! ダイヤが明香ちゃんのためにプレゼント選びに奮闘して、襲われても守ろうとしたマグカップ、割れちゃったのに「これがいい」って言う明香ちゃんの優しさに涙腺崩壊したよ…😢✨ みんなで囲む誕生日パーティーの温かさがじんわり伝わってきて、幸せってこういうことなんだなって思った。 ももさんの愛情たっぷりの作品、本当に素敵でした!続きもめっちゃ気になる…!🌸