ゲゲゲ一家×水木
一家からクソデカ感情を向けられるも一定の距離を保ちたい水木とあわよくば身内(幽霊族)にする気満々の一家によるドタバタホームコメディ。
ナチュラルに岩子さん復活してます。
夏の強い日差しが落ち着き、季節の移ろいを感じる今日この頃。
のんびりと空を見上げて家族と語らうには絶好の機会だと家を飛び出したゲゲ郎は気持ちの良い風に髪を靡かせながら隣の愛しい存在に声をかけた
「のぅ、岩子や」
「なぁに?あなた」
愛に溢れた声が返ってきて安心する。愛しい存在というのは不思議なもので全てが柔く好ましく感じるもの
彼女の笑顔は百薬の長であり
人々を癒す慈雨のようであり
とにかく筆舌に尽くしがたい
なんと尊く美しい花か
「いや、ふと思ったんじゃが」
しかし許せ。今から自分が発する言葉は穏やかで満ち足りた表情を見せる彼女の心を酷く動揺させるものとなるだろう
まさに今の自分のように
「水木は、わしらの事嫌いなんじゃろうか…」
肩をがっくりと落とし涙目で俯くゲゲ郎を見て岩子は弾かれたように言葉を重ねる
「そんなわけないじゃない!水木さんは私達の事、大切に思ってくれてるわ。あなたは誰よりもそれを知っているでしょう?」
「う、うむ…わしもそう思う。思うんだがのぉ…ならば何故…」
ゲゲ朗は、ビシッと10メートル先を指差し慟哭する
「ならば何故!家族の“ぴくにっく”にあやつだけ離れて“れじゃーしーと”を広げておるんじゃ!」
「別にいいじゃねぇか、俺がどこで食べようと」
言いながら自分でこさえてきた弁当を広げる水木は我ながら美味そうに出来たと得意げに笑う
『わしは寂しい!!』と岩子の膝でおいおい泣くゲゲ郎を横目にテキパキとソロキャンを遂行する様は普段の有能ぶりが垣間見えた
「どこの世界に家族が揃っておるのに離れて弁当を食う奴がおるんじゃ!」
「…そんな奴がいるのか寂しいな」
「ええいっ眉を下げるな!おぬしの事じゃ!」
「俺?…俺は家族ではないだろ」
「わあああっ水木のすっとこどっこい」
「おう、喧嘩か?買うぞ」
「違うわああああ」
泣くか怒るかどっちかにしろよ器用なヤツだな…と水木が呆れ半分、関心半分で困っていると案外助け舟はすぐに現れた
「まぁまぁ父さん。ピクニックにお義父さんが来てくれただけでも進歩じゃないですか。今までどんなに誘っても来てくれなかったし…」
後半は愚痴のような響きを感じさせるものの事態を好転させてくれそうな義息子の発言に味方を得た気分だ
「鬼太郎の言う通りだぜ。せっかくの家族水いらずなんだ、近所の知人が一家に混ざってちゃあオカシイだろ?」
「「「知人…?」」」
「岩子さんも戻ってきたんだし、いっぱい家族の思い出作らなきゃな。赤の他人が出る幕はない。」
「「「赤の他人…?」」」
ぴくりぴくりと水木の言葉にそれぞれが引っ掛かりを覚える。無自覚に幽霊族一家の地雷をぶち抜いていく姿は捨て身の特攻を経験したからこその怖いもの知らずか、はたまたド級の鈍感故か。
どちらにせよ起爆スイッチは押されてしまった
「聞いたか岩子よ。わしらは『知人』なんじゃって『他人』なんじゃって」
「ええ。聞いたわあなた!聞いてしまったわ!寂しいわね、水木さんにとって私達ってその程度なのかしら。ああ悲しいわね鬼太郎」
「はい、お母さん。お義父さんは僕達の事そんな風に思っていたんですね。でも僕はお義父さんが大好きですよ、一方的な想いほど辛いものはありませんが、それでも大好きです!」
「…えぇ。泣くなよ…俺はただ家族3人で思い出を」
「「「家族は”4人”です!(じゃ)」」」
「え!?また赤んぼうが増えるのか?なんだよっ、めでたいじゃないか!」
「「「あああああああ!!」」」
平行線しか辿る事を許されないこのデカすぎる感情を持て余しながら幽霊族は、ややささくれ立っていた
ゆぅらり
ゲゲ郎が幽鬼のように音もなく立ち上がる。俯いた先にある顔は真白い髪に覆われて表情がわからない
水木は、あまりの迫力に小さく呻いた
「水木よ、ええ加減にせんとわしらにだって心があるんじゃ。おぬしの純粋故にたちの悪い言葉がグサグサとわしらを傷つける。言ってわからぬと申すなら…」
体に教えるまでよ
「〜っ!俺が、俺が悪かった!謝るから離してくれっ」
「「「いやだね」」」
家族全員で元いた土地を後にし水木が弁当を広げる場所へやってきた3人は、それぞれに満足のいく位置を探して身を落ち着けた
岩子は、水木の右側を陣取り彼の腕に自身の腕を絡めて微笑み、鬼太郎は水木の膝の上に我が物顔で座っている
そしてゲゲ郎は
「頼むからっ!三十路すぎの男を膝に乗せて抱きしめないでくれ!羞恥で死にそうだ…」
「恥ずかしがる必要はないぞ。ここは人間も妖怪もめったに来ん場所じゃ!おおいに”家族水入らず”しようぞ!」
「そ、そうではなくてだなぁ」
深く溜息をついたせいで目の前にある鬼太郎の髪がわずかに揺れる
キューティクルを過分に秘めているであろう艷やかな、まあるい形の茶色が愛おしい
とりあえずは可愛い頭を眺めて気持ちを整理しようとしていたら、ふいにこちらを振り向いた義息子の瞳とぶつかった。
ニコリと屈託なく笑い掛けられる
「水木さん、あなたが大好きですよ」
「え…」
ひどく穏やかな声で呟かれ戸惑う
けして大きくもない声量で言われた言葉はこれまでにない程ストレートに水木の胸を打った
「あ…」
同時に右腕と背中からも力が加わる
「もちろん、わしも水木が大好きじゃ」
「私もですわ」
前、横、後ろからほんのり暖かい体温を感じて涙が滲む
頭ではわかっていた、自分は大切にされているのではないかと。
でも彼らとは血の繋がりもなく同じ時間を過ごせる種族ですらない
『知人』『他人』『家族じゃない』
これらの言葉を言い聞かせていたのは、聞かせたかったのは水木自身である。
「悪かった。」
「ほんとにわかっておるんかのぅ?」
「わかってるよ。俺は、際限なくお前らに甘えちまいそうになる自分が怖かっただけなんだ。そのせいで大事な人達傷付けてちゃ意味ねぇけど」
「水木さんの甘えは甘えに入りませんわ、むしろ私はどんどん甘えてほしいです」
「うーん…善処します」
曖昧に微笑む彼を見かねてゲゲ郎は水木の頭に顎を乗せながら幾分か浮上した気持ちのまま口を開いた
「水木よ腹が減ったんじゃが、わしらは、おぬしを愛でるのに忙しい。わしらの口に水木と岩子の弁当を運ぶのじゃ!今手が空いておるのは、おぬししかおらぬ」
「なっ!」
「これは、ささやかな罰じゃ。やってくれるのぅ?」
耳元でうっそりと呟かれる。腰に腕を回された姿勢であるため全く抵抗出来る気がしない。乱暴に立ち上がれば前にいる鬼太郎にも岩子さんにも怪我をさせかねなかった
「ぐぅ…わ、わかったよ」
気の進まなそうにしつつも箸を持つ水木に、ぱあああああと見事に全員が破顔し期待に満ちた表情で雛鳥のように口をぱかりと開ける
やっぱ、こんな可愛い家族愛さずにはいられないよなぁ
念願の水木からのあ〜んをしてもらえた一家は、それから1週間は脳内お花畑だったという。
おわり
やばい…楽しい…ゲ謎沼恐ろしい…。