Johnは剣を大上段に構え、剣自体の重量を利用してグルッペンの頭上目掛けて剣を振り降ろす。グルッペンは軽いステップで躱し、速度を利用した素早い二連撃を放つ。Johnもそれを上体を軽く傾けて躱し、再び重量を利用した重い一撃を放つ。避けてJohnの剣が直撃した地面は放射状にひび割れている。
(いやだからどんな腕力してんだよ⁉︎⁉︎)
ひび割れると言う割れ方をする以上、地面は相当の硬さを誇る筈だ。それこそ基地の床くらいの。それくらいの地面に直撃したのだから、腕などが痺れる筈なのだが毒などの影響か、そんな表情ひとつ見せず再び剣を構え近付いてくる。
(再び押し込まれば鍔迫り合いに持ち込まれるだろう……だが、私の剣はもう限界に近い。次鍔迫り合いになったらものの数秒で砕かれてしまう。ならば次の一撃で)
「……決める‼︎」
グルッペンはJohnの横薙ぎに振られた剣を上に飛んで回避し、その一瞬の硬直でJohnの肩を斬りつけた。もうコレで両肩が駄目になったから、今まで程素早く剣を振る事はほぼ不可能である。コレで多少の切り傷は負っているとはいえ、剣を振るうのに大した支障も無いグルッペンが有利になった。しかし、グルッペンはJohnの剣を叩き落とすと自分も剣を捨て、マフラーで軽く首を絞めつつ抱き締める。Johnはしばらく抵抗していたが、抵抗する力を失ったのか無駄な抵抗をしなくなった。そして、Johnの左眼に僅かながら、光が戻った。そしてゆっくりとこう言った。
「グルさん……?」
己が忠誠を誓ったたった一人の、人物の名前を。
「トン氏……‼︎」
グルッペンは更に強く抱き締める。
「グルさん……抱き締めるんは良いけど首締めんといて……マフラーで絞められて苦しいねん……」
「あ、ああ。すまない」
そう言うと、グルッペンはトントンのマフラーを少し緩めた。
「ゲホっ……ゲホっ……」
かなり息が詰まっていたらしく、少し咳き込んだが呼吸が落ち着くと、グルッペンの方を見て、ふわりと微笑んだ。
「グルさん……悪いけど……能力で俺の左眼の記憶封じの封印解いてくれへん?」
「判ったゾ。ただここでやるのは危ないからもうちょい待ってくれ」
するとグルッペンはインカムの通信を入れ、誰かに連絡をとり始めた。
「エーミールはまず車を回してくれ。そしてロボロは最終段階決行を各幹部に通達しろ」
『『ハイル・グルッペン!』』
そしてトントンの方に向き直ると、
「トン氏、エーミールに車を回してくれる様頼んだ。だが流石にここまでは来れない。だからもう少し歩いて、エーミールが来れるところまで行くゾ。そして拾って貰ったら、車の中で封印解くからそれまで我慢してくれ」
と言った。トントンはそれにコクリと頷く事しか出来なかった。最早、左眼が焼けるんじゃ無いかと思う程痛むのだ。しかし、ここでまた痛みから逃れる方法を取ってしまったら今度こそグルッペン達の元へ戻れないのだ、そう確信して耐え続けた。
「グルッペンさん!乗って下さい!」
「助かってゾ!エーミール。出来るだけ急いで戻ってくれ」
「判りました。制限速度ブチ破っていいですか?」
「ああ、構わん。兎に角急ぐ事を最優先にしろ」
「了解です」
ブォーン!
「トン氏、遅くなって済まなかったな。その左眼に当てている手、退かしてくれるか?」
「……おん……」
トントンがそっと退かすと左眼が酷く痛むのか、今にも泣きそうだ。
「少し、激しく痛むかも知れないが、ほんの数秒だから耐えてくれ」
「……ん……」
トントンの短い返答を了解と取り、トントンの左眼にそっと手袋を外した右手をかざす。グルッペンの右手に白い光が集まる。
能力
それは極限られた人だけが持つ、理屈では説明のつかないいわゆる超能力に近いものだ。
そしてW国の総統、グルッペン・フューラーから持つ能力は封印などを浄化する、極めて珍しい能力を持っていた。
今グルッペンはその珍しい能力を、己の右腕である書記官の為に使っていた。
「ヴッ……グッ……い”っ……」
「トン氏、辛いな。もう少しだけ頑張ってくれっ!」
グルッペンの右手に凝縮した白い光が一際強く輝いたかと思うと、その光はトントンの左眼へと流れ込み、車内には静寂が戻った。
エーミールが爆速で運転する車はW国の基地を目指して一直線に走ってゆく。
コメント
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グルッペンの能力めっちゃ便利ー!封印って基本的なんでも封印できるのかな?だとしたら最強だぞ… 毎回思うけど表現力高すぎぃ!