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翌日の九時過ぎ、朝食を済ませたシルバとリィファは、シルバの寮を後にした。ジュリアとの合流を済ませてからともに祭日を楽しむ予定だった。
しばらく歩くと職人街が見えてきた。入口の石積みのアーチの真下で、ジュリアが街の様子を眺めていた。
が、やがてくるりと振り向いて二人を見つけた。喜色を浮かべ、右手を上げて跳び跳ね始める。
挨拶を交わした三人は、職人街に入っていった。
街には、いつにない華やかさがあった。頭上には道を挟んで、色取り取りの布が付いた紐が何本も通されている。
靴屋や金銀細工屋などの店先に仮設天幕ができ、その下には祭向けの商品が置かれていた。
人々の賑わいも、いつも以上だった。母親の隣で木の棒に付いた水飴を舐める少女や、人込みを利用して鬼ごっこをする少年たち。皆、滅多にない祭日を謳歌している様子だった。
るんるんのジュリアに先導されて、二人は一つの建物の前で立ち止まった。
道に食み出した仮設天幕の下には木の台があり、精巧な石の装身具が並んでいる。奥には大小が様々な石やトンカチなどの載った机があり、使い古された作業場といった様相を呈していた。
店先には、作業時の服装のトウゴがいた。
「よっ! お父さん! 元気してる?」
朗らかなジュリアが両手を上げると、トウゴも笑顔で真似をした。すぐに二人は、ぱんっと鋭い響きのハイ・タッチをした。
「当然だ、俺はいつでも元気だぞ。三人とも本当によく来てくれた。なんてったって今日は、一年に一回の大チャンスだからな」
愉快げなトウゴに、「どういう意味ですか?」と、リィファが軽く尋ねた。
「ほら、石工ってさ。普段は城壁の修理だとか、いかつい役割ばっかだろ? それも大事な仕事なんだけど、今日だけはジュリアやリィファちゃんみたいな子供を、直接的に喜ばせられるんだよ。技術の粋を集めた、俺の最高傑作たちでな」
自信ありげな声音のトウゴは、視線を装身具へと向けた。
シルバの横では、興味津々な様のリィファが真剣な顔を装身具に遣っている。
「リィファちゃん、入学おめでとう。そういやお祝いがまだだったな。何でも一つ、好きな物をやるよ。ブレスレットはどうだ? 清楚なリィファちゃんに絶対に似合うと思うよ」
トウゴの気さくな調子の言葉を受けて、少し考え込んだリィファはゆっくりと口を開く。
「ありがとうございます。お気持ち、とっても嬉しいです。でもやっぱり、タダで貰うわけにはいきません。それに腕輪は、武闘会で頂きました」
控えめに辞退したリィファの左手首で、透明な石の腕輪がきらりと光った。表面は滑らかで、模様は白から黒の間のグラデーションである。
リィファは武闘会の表彰式で、大会の役員からこの腕輪を渡された。
「去年は賞品はなかったのにどーしてだろね」と、帰路でジュリアは不思議そうに呟いていた。
「皆さんとの思い出の品なので、できるだけ付けておくつもりです。両腕に違う腕輪も変ですし、トウゴさんのブレスレットは……」
申し訳なさそうな面持ちのリィファの台詞は、しだいに勢いを失っていく。
「了解了解。リィファちゃん、そんな暗くなっちゃあダメだぞ。せっかくのお祭りだ。笑顔、笑顔」
元気付けるように声を弾ませたトウゴは、手を口の両端に持っていった。少ししてリィファは、小さく穏やかに微笑んだ。
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