遠征から帰ってきた透は、上着も脱がずにキッチンに突撃してくる。
「ただいま〜〜♡今日も俺のかわいい奥さんは天使〜?」
「透、ちょっと話してもいい?
そこに座って欲しい」
「えっ、なに?俺なんか怒られることした?岩ちゃんに“及川は黙っとけ”って言われたこと?」
「それは日常だよね」
「そう、日常だね」
苦笑いする透。
とりあえず上着を脱ぎながら、犬みたいに後ろをついてくる。
「ねぇねぇ、なに?もったいぶらないでよ。俺、不安でしっぽ丸まってるんだけど?」
「実はね……妊娠してたっぽい」
透、上着を半分脱いだ状態で停止。
右腕だけ袖に残ったまま動かない。
「……今、なんて?」
「だから、妊娠したの」
5秒。
「……………………………俺の……?」
「他に誰がいるの」
「いや、それな!?俺!!!!!」
急に全力で自分を褒め始める。
「いやぁ〜〜!さすが及川徹!ここぞという時にスパイクを叩き込む男!
天才には勝てないけど!!でも結果は出す!!!!」
「いやなんの試合?」
「俺の遺伝子、ちゃんと働いてたんだなぁ〜♡偉い!」
透、テンションが異常に高い。
上着半脱ぎのまま飛び跳ねている。
「透、服」
「待って今それどころじゃない!!!
俺!!パパなんだって!!!
ちょっ、ちょっと待って心の準備!!!俺、父親顔できてる!?」
「そんな顔ある?」
「あるよ!!父親っぽい眉毛とかあるんだよ!!!」
鏡を見に走る。
そして自分の眉毛を触りながら、
「……え、優しそう。俺、優しそうやん」
「いつも優しいよ」
「ふぇっ……(照)」
急に犬みたいに尻尾振りだす勢いで喜び、
戻ってきて急に真剣な顔。
「……ねぇ、🌸。その……お腹には俺と君の子がいるってことでしょ?」
「うん」
「……誰にも触らせないからね?」
「いやまだ産まれてないよ」
「影山とか岩ちゃんとか、絶対触らせないからね」
「触りに来ないでしょ」
「わかんないじゃん!!ほらあいつら才能で寄ってくるから!!」
嫉妬深さが暴走しはじめる。
「ねぇねぇ、俺、パパって呼ばれるの?
透パパ? パパ透? 何がいい?
“とーたん”でもいいよ?」
「それ透が呼ばれたいだけだよね」
「バレた♡」
そして、ふっと真顔になり、
静かにお腹に手を当てる。
「……すっごい。
俺、君と家族になるために生まれてきたんだと思ってたけど…
ほんとにそうだったんだね」
そして最後にまた地雷を踏む。
「ねぇ、名前なんだけどさ、
“徹Jr.”ってどう?絶対かっこいいよ?」
「やめようね」
「なんでぇぇぇぇぇ!?俺の夢ぇぇ!!」
「はいはい」







