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冒険者ギルドで爆発事故――
……のようなものがあったので、今日は単独の自由行動になった。
改めて考えると、最近はルークやエミリアさんとずっと一緒にいたから……何だか少し、新鮮な気分だ。
一緒にいるのが嫌というのではもちろん無いけど、一人きりっていうのは、違う意味で気楽だからね。
……さて、今日は何をしようかな?
まだ朝だし、宿屋には19時までに戻れば良いし――
……いや、違う違う。
昼過ぎには宿屋に戻って、錬金術の確認を色々していかないと。
とはいえ、昼食にはまだ早いから……それまでは何をしようかな?
「天気も良いし、少し歩いてみよっと」
一人つぶやき、てくてく歩く。
宿屋の朝は毎日慌ただしいのに、昼前の街は何と穏やかなことか。
本当、慌ただしくしていた人はどこに行ったのやら――
「……あ、そうか。
鉱山都市だもんね。そりゃ鉱山だよね」
この街の最大の産業は採掘業である。
鉄やら銅やらの鉱石は街の近場で採掘しているらしいから、ちょっと覗いてみようかな?
歩けばそれなりの運動になりそうだし、まさにミラエルツならではの光景だし。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鉱山の場所がよく分からなかったので、街中にいた鉱山夫に話し掛けてみた。
ちょうど鉱山に向かうところだったようで、私はそれに付いて行くことにする。
……一応、爆弾の素材はあるかな。
いや、ちょっと確認しただけ……。
「しかしこんなお嬢ちゃんが、鉱山に興味を持つなんてなぁ」
「私は錬金術師でして、鉱石にも興味があるんです。
ミラエルツには旅の途中で寄ったのですが、是非にと思いまして」
「へー、錬金術師なのかぁ。ポーションくらいは作れるのかい?」
「ポーションは得意ですよ。
ああ、案内してくれるお礼におひとつ、差し上げますね」
そう言いながら、アイテムボックスから初級ポーションを取り出す。
「うお、しかも収納スキル持ちか。はー、すげーなぁ……。
しかしこのポーション、本当にもらって良いのかい? 安くはねぇだろ?」
「いえいえ、折角ですし」
「それじゃ、ありがたく。何かあったら使わせてもらうよ。
ちなみにお嬢ちゃん、名前は?」
「私はアイナと言います」
「アイナちゃん、な。俺はガッシュだ。
この街にいつまでいるかは知らねぇが、何かあったら頼ってくれよ!」
「はい、ありがとうございます。
ところでガッシュさんは、この時間でお仕事には間に合うんですか?」
「はっはっは! もう間に合わねぇから、のんびり向かってるんだよ!」
……なるほど。
少しでも遅刻するなら、いっそ大きく遅刻しても問題ない……という理屈か。
「ただ、鉱山の近くまで行ったら俺は走るからな。
出来るだけ誠意を見せておかないと、後で何を言われるか分からねぇから」
「世渡り上手ですね!」
「インテリ風に言えば、そんな感じかな! はっはっは!」
……何か豪快で好きだな、この人。
まさにミラエルツの男……みたいな感じ?
まぁ、もちろんタイプとかそういうのでは無いんだけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それじゃアイナちゃん、俺は走るぜ。ポーションありがとな!」
鉱山に近付くと、ガッシュさんはそう言って走り始めた。
「ありがとうございました!」
私の声に、ガッシュさんは走りながら右手を上げてくれる。
おかげでここまで無事に来れました、ありがとうございます。
ガッシュさんが向かった先を眺めてみると、山の斜面に洞窟のような穴が掘られていて、その中に道が続いていた。
いわゆる坑道、というやつだろう。
もう少し近付くと……大勢の人が出入りしているのが見えた。
ふむふむ、あんなに重そうな鉱石をああやって運んでいるのか。
あんな力仕事をしてるなら、そりゃご飯も進むよね。
坑道の中にもちょっと入ってみたいけど……さすがに仕事の邪魔になっちゃうよね。
しばらく考えた結果、今回は素直に諦めることにした。
……それにしても、静かな場所で、たまに聞こえる鉱山夫たちの喧噪。
天気も良くて暖かいし、もう少しここでまったりしていこう。
座れそうな草むらを探して、腰を下ろして――
「……はぁ。
お日様と風が気持ち良いねぇ……」
のんびり、のんびり。
ひとりでピクニック気分だ。
うん、良いじゃない。
これで温かいお茶でもあったら――
「……あ、いや。普通に淹れられるんでした」
錬金術でお湯を作りだして、アイテムボックスからお茶のセットを取り出す。
お茶を飲みながら、のんびり、のんびり……。
あー、こういうの、幸せだなぁ……。
ルークやエミリアさんと飲むお茶も楽しいけど、ひとりで飲むお茶には別の良さがある。
ずっとひとりは寂しいけど、やっぱりたまには良いものだ――
……そんな風にまったりしていると、突然、鉱山の入口から怒鳴り声が響いてきた。
「おい、てめぇ! まだそんなところでチンタラしてやがるのか!!」
ひぇっ!? ご、ごめんなさい――
……って、私じゃないか。遠いしね、そりゃ違うよね。
怒鳴り声の方を見てみると、大男が引き続き大声を上げている。
大男の前では、細身の男がひたすらに謝り続けていた。
「ああ、あんなに大声で……可愛そう……」
しばらくすると、細身の男はようやく解放された。
そしてそのまま作業を続けていたが、その動きに何だか違和感を覚えた。
「うーん? どうしたのかな、あの人……」
右腕を使わず作業をしているようで、遠目で見ていても、作業スピードが遅いことが伝わってくる。
怪我でもしているのかな?
そう思いながら、何となく鑑定をしてみると――
──────────────────
【右腕可動障害(極)】
右腕の稼働が難しい状態。
動かすことが出来ない
──────────────────
……なるほど。怪我とかじゃなくて、そもそも動かないのか。
でもそんな状態で、怒られながらも仕事をするなんて立派だなぁ……。
そういえば酒場で会ったジェラードという優男も、右腕が動かないんだったっけ。
さすがに同一人物じゃないよね……? そう思いながら、改めて鑑定をしてみる。
彼の名前は『ハルバー・クリフ・レリス』というそうだ。うん、そりゃ別人だよね。
あんなにキザなジェラードが、こんなところで働いているわけが――
ドズウゥウゥン……ッ!!!!!
「――え?」
不意に、大きな揺れが辺りを襲った。
地震……?
いや、揺れはその1回で収まったから、地震ではないかも……?
しばらくすると、坑道の入口から煙が出てきた。
何か、事故でも起こった……?
数人の男が出てきて、大声で話し合っている。
どうやら怪我人が出たようだ。
そんな中、1人の男が街の方へと走り出した。
怪我人がいるなら、私も手伝えるよね?
坑道の入口に行くよりも、街に向かい始めた人に話し掛ける方が早そうだ。
私は急いで走り始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すいません!」
「――ッ! な、何だテメェは!!」
男に声を掛けると、敵意満々で返事をされた。
ええ、何でそんなに!?
「あの、鉱山で何かあったんですか? 怪我人が出たなら私が――」
「ちっ、死ね!!」
……へ?
男はナイフを出して、勢いよく斬り付けてくる。
「ひゃぁっ!?」
動きに反応して後ろに下がるも、私の右手からは何やら違和感が――
……急いで見てみれば、そこには一筋の赤い線、自分の血の筋が目に入った。
ちょ、ちょ、ちょ?
え――――っ!?
「大人しくしてろ、死ね!!」
男が私に振りかぶる。
あ、これまた死んだわ――
……悠長な思いが脳裏をよぎる。
そんな中――
「危ないっ!!!!」
その声と同時に私は宙に浮いて、そして地面に叩き付けられる。
今度は何事――?
慌てて起き上がると、少し遠くにはナイフを持った男が。
そして私の側には、細身の鉱山夫がいた。
……この人が、ギリギリのところで私を助けてくれたようだけど――
「き、君! 大丈夫かい!?」
鉱山夫はナイフを持った男と対峙したまま、起き上がった私に声を掛ける。
「な、何とか……。ありがとうございます!」
「話は後さ。
ここは僕が引き付けるから!」
鉱山夫はちらっと私の顔を見た。
そのとき、彼と目が合ったのだが――
「「あ」」
二人して、驚きの声を上げた。私はこの人を知っている。
彼は酒場の優男、ジェラードだった。
……あっれー?