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「ジェラード……さん!?」
私は思わずその名前を呼んだ。
「だ、誰かなそれは! 僕の名前はアルリーゴだよ!」
えー!?
思わず名前を鑑定する。
そこにはやはり、『ハルバー・クリフ・レリス』と出ているのだが――
「ハルバーさんですら無いんですか!?」
「えっ!?」
ジェラードは驚いた顔で私の顔を見たが、すぐさまナイフを持った男に視線を戻した。
「な、何を言ってるんだい。僕はアルリーゴだってば!」
「分かりました、ジェラードさん!
今日無事戻ったら、ジェラードさんのお誘い受けますから!」
「え!? それは本当かい!?」
ジェラードは爽やかな顔をしながらこちらを振り向いた。
「……あ」
「やっぱりジェラードさんじゃないですか!!」
「くっ……そんな子供だましにッ!!」
はい、ジェラード確定。
「そ、そんなことより君! まずはこの場だ、この場を何とかしないと!」
「くははっ! お前みたいな男に何が出来るッ!!」
ナイフを持った男は、ジェラードに猛然と襲い掛かる。
しかし――
「……甘いよ。
そんな隙だらけの構え、誰に教わったんだい?」
ジェラードはそれを軽く避けて、男の首筋に左手で手刀を入れる。
「かはっ!?」
鮮やかなものだ。
ただの一撃で、ナイフを持った男を気絶させてしまった。
……『何とかしないと』も何も、あっさり自己解決してるじゃないですか。
「うわぁ! 凄いですね、ジェラードさん!!」
「ふふふ♪
……あ、いや、違うって! 僕はアルリーゴ!!」
「分かりました、ジェラードさん!」
「……ああ、もう。
それよりも君! 手に怪我を!」
ジェラードに言われて、そういえばと気付く。
改めて確認すると、斬られた手の甲からは血が筋になって流れている。
「わわわ、服が汚れちゃう!」
「服どころじゃないだろう!? その傷、結構深いから――」
……それもそうだね、服どころじゃないや。
「それじゃ念のため、中級ポーションで治してしまいます」
「え?」
私はアイテムボックスから中級ポーションを取り出して、傷口に振りかけた。
傷口は光に包み込まれて、あっさりと治っていく。
「はい、ご心配お掛けしました! もう大丈夫です!」
「……ああ、そう言えばお供を二人連れていたもんね。
どこかのご令嬢なのかな、中級ポーションを持ってるだなんて……」
「これ、私の自作なんです。錬金術師なので」
「あ、そうなんだ?」
「それよりも! この気絶してる人、誰なんですか?」
「え?」
「地面が揺れてしばらくした後、この人が街に向かって走り始めたんですけど」
「鉱山の関係者かな……?
いや、それにしては見覚えが無いな……」
「そうなんですか?
……そういえば、ジェラードさんは何でここに?」
「こんなところでピクニックしている女の子がいたから、遠目で気になっていてね」
「はぁ……。
普通、さすがに鉱山の方を心配しません?」
「はははっ。僕にとっては100人の男よりも、1人の女の子さ!」
ジェラードは爽やかな顔をして言い切った。
まぁその性格のおかげで、今回は助かったんだけど……。
「それじゃ、この人を連れて鉱山に戻りましょう。何だか怪しいですし」
「……そうだね。
でも僕は、この通り右腕が使えないから……こいつを抱えていけないんだよね」
「引きずって行けば良いんじゃないですか?」
「なるほど。多分悪いヤツだろうし、それでも問題ないか」
「そうです、そうです。
怪我の恨みです、それくらいは大丈夫です」
「はははっ。君は何だか逞しいね♪」
……そんな自覚は無いけどなぁ。
でも、悪い人なら適当に扱っても大丈夫だと思うよ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい、アルリーゴ!! てめぇ、どこに行ってやがった!!」
坑道の入口に着くと、ジェラードは早々に怒られていた。
……そうか、この鉱山ではアルリーゴって名乗っていたのか。
「あの、すいません!
アルリーゴさんは鉱山から逃げ出した、怪しい男を捕まえていたんです!」
「うん? お前さんは?
……いや、怪しい男だと!?」
大声を上げる鉱山夫の眉間に、さらに深いシワが刻まれる。
「はい、そこの気絶している人です」
私が指差すと、鉱山夫は気絶している男の顔を調べ始めた。
「誰だぁ、こいつ……。
おい、誰かこいつを鉱山内で見たことがあるか!?」
「……そういえば、いたような?」
「用事があるって、坑道の奥に行ったヤツじゃねぇか……?」
「俺、話し掛けたけど無視されたぞ……」
鉱山夫たちから、いくつかの証言が上がってくる。
「ふん、嘘じゃねぇようだな。よし、アルリーゴ、よくやった。
コイツが起きたらしっかり聞き出してやる。おい、縄でふんじばっとけ!!」
そう言うと、縄を持った鉱山夫たちは怪しい男をぐるぐると縄で巻いていった。
これで一安心かな?
男の正体はまだ分からないけど……。
「よし、コイツのことは後は任せてくれ。
それよりも怪我人がたくさんいるんだ!
お嬢ちゃん、街に連れて行く前に応急手当が必要なんだが、包帯くらい巻けるかい?」
「包帯は巻いたことはあまりありませんが、ポーションなら持ってますよ」
「そうか、だが見様見真似で巻けるだろ! ちょっと手を貸してくれねぇか!?」
「分かりました。ちなみにポーションで治しちゃっても良いですか?」
「それはありがてぇんだが、人数が多いんだ。
30人以上はいるから――」
「それくらいなら持ってますよ。余裕です」
「……は?」
「怪我された方は、ここに集まっているんですよね?
それじゃ、ここで出しちゃいますね」
私はアイテムボックスから――
……怪我の度合いからして初級では足りなそうだから、中級ポーションを40個取り出した。
中級ポーションであっても、私の在庫には抜かりが無いのだ。
「お、おう……。すげぇ、収納スキル持ちか! こいつは助かるぜ!!」
「いえいえ。では、分担して配っていきましょう」
「分かった。おい、みんなで手分けだ!!」
「「「はい!!」」」
鉱山夫たちはポーションを一斉に手に取り、怪我人のところに運んでいった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――それで、全員無事なのか?」
陣頭指揮を執っていた鉱山夫が、周りの男に聞いた。
どうやらこの鉱山夫はここの責任者らしい。
「ガッシュとセドリックがいないようです!」
「なんだって? もしかして、逃げ遅れたのか?」
「鉱山長! 俺はガッシュと同じところを掘っていたんだが――
……そういえば、逃げる途中でセドリックが倒れていたんだ。
ガッシュはセドリックを助けていたのかもしれねぇ」
「ちっ、それじゃ助けに向かうぞ! お前とお前、俺と一緒に来い!」
「「はい!」」
ガッシュさんは逃げ遅れたのか……。
それも、誰かを助けるために? うーん、漢気だね。それじゃ私も――
「すいません、私は錬金術師です。
お医者さんのようなことも出来るかと思うので、一緒に連れて行ってください」
「お前さんが? ……服、汚れちまうぜ?」
「服なんて洗えば大丈夫です。お願いできますか?」
「……すまんな。
それじゃ、念には念を入れてお願いできるかい?」
「はい、喜んで!」
私はお節介モードを全開にして、鉱山長と鉱山夫たちの後ろを付いていくことにした。