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#王子
すっこ
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碧星_Aoi
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薄いカーテン越しに、やわらかな朝日が部屋へ流れ込んでいた。
静かな寝室には、長かった夜の名残を溶かしていくような淡い明るさが広がっている。
詩乃はゆっくりと目を開けた。
昨夜は何度も乃亜の熱を測り、汗を拭き、温くなったタオルを替えた。少しだけ休むつもりが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
腕に触れる温もりに気づき、視線を落とす。
すぐそばで、乃亜が小さな身体を丸めるようにして眠っていた。
詩乃は起こさないよう、そっと額へ手を当てる。
昨夜のような焼けるような熱さは感じない。
それでも安心するにはまだ早いと、体温計を脇へ挟んだ。しばらくして、静かな寝室に電子音が響く。
表示された数字は、37.3℃。
「……下がってる」
思わず安堵の声が零れた。
昨夜からずっと胸の内側を締めつけていたものが、ようやく少しだけ緩んだ気がする。
その声が聞こえたのか、乃亜の瞼がかすかに震えた。
「乃亜?」
呼びかけると、ゆっくりと目が開く。
まだ眠たそうにぼんやりとしているものの、熱に浮かされていた昨夜とは違い、表情はずっと穏やかだった。
「お水、飲める?」
ストローのついたコップを差し出すと、乃亜は小さく頷いた。
詩乃に支えてもらいながらストローへ口をつけ、少しずつ水を飲んでいく。
たったそれだけのことが、今はどうしようもなく嬉しい。
「うん。飲めたね」
詩乃がほっと笑うと、乃亜はコップから口を離し、そのまま安心したように身体を預けてきた。
寝室の入口では、いつの間にか幸人が立っていた。
昨夜のような苦しそうな呼吸はなく、自分で水も飲めている。その様子を確認すると、幸人もわずかに肩の力を抜いた。
何も言わず、二人を起こさないようにして静かに部屋を後にする。
詩乃はその姿に気づかないまま、乃亜の髪を優しく撫でていた。
***
午前中になる頃には、乃亜の熱もさらに落ち着いていた。
まだ本調子ではないらしく、ときおき眠たそうに目を伏せ、動きもいつもよりゆっくりしている。
それでも自分から水を飲み、詩乃が差し出したゼリーも少しずつ口にできるようになっていた。
そんな二人の様子を見に来た一恵が、リビングへ顔を覗かせる。
「熱はいかがですか?」
「だいぶ下がりました。朝は37.3℃で、さっき測った時も上がっていなくて」
「それはよかったです」
一恵は安堵したように頷き、乃亜へ目を向けた。
ソファに座っている乃亜は、詩乃の服の裾を小さな手で握っている。
意識して掴んでいるわけではないのかもしれない。
それでも、詩乃が少し身体を動かせば指先に力を込め、離れてしまわないよう確かめるように握り直していた。
一恵はそれを見て、そっと目を細める。
以前なら、母親が近づいただけで身体を強張らせていた子が、今は自分からその服を掴んでいる。
その変化について何かを口にすることはせず、一恵はただ穏やかな表情で二人を見守っていた。
***
昼を過ぎる頃には、乃亜の顔色もずいぶんよくなっていた。
しばらくソファで大人しくしていた乃亜だったが、少し元気が戻ってきたのか、ふいに自分から立ち上がろうとする。
けれど病み上がりの身体には、まだ十分に力が戻っていなかった。
足を床につけて立ち上がった途端、小さな身体がぐらりと傾く。
「乃亜」
すぐに気づいた詩乃が手を差し出した。
「ゆっくりでいいよ」
その声に、乃亜が顔を上げる。
以前なら、差し出された手に怯えたような目を向けていた。
けれど今は違った。
乃亜は迷うことなく、自分からその手へ小さな指を重ねた。
ぎゅっと握る。
詩乃も、その手を包み込むように握り返した。
「大丈夫。ちゃんといるからね」
安心させるように笑いかけると、乃亜の身体から少しだけ力が抜けた。
そのまま詩乃の手を頼りに、ゆっくりと一歩を踏み出す。
少し離れた場所から、その様子を幸人が見つめていた。
助けを求めることも、誰かを頼ることも苦手だった乃亜が、今は何の迷いもなく詩乃の手を取っている。
まるで、それが当たり前のことになったかのように。
昨夜、熱にうなされていた時もそうだった。
乃亜は何度も詩乃の服を掴み、その声を聞けば少しだけ身体の力を抜いた。
今も、握った手を離そうとはしていない。
けれど、離さないのは乃亜だけではなかった。
詩乃もまた、その小さな手を大切なものに触れるように包み込んでいる。
幸人は、無意識に小さく息を吐いた。
どうしてここまで変わったのかという疑問は、まだ消えていない。
それでも今、目の前にあるものまで疑い続けることが、少しずつ難しくなっていた。
コメント
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詩乃が乃亜を一晩中看病してるシーン、もう胸がいっぱいになったよ…😢💕 熱が下がって「下がってる」って呟く声、その安堵がこっちにも伝わってきて思わずホッとした。乃亜が自分から詩乃の手を握るようになったの、前まで誰も怖がってた子がここまで変わったんだなって思うと感慨深い…。幸人くんがその光景を見て「もう疑い続けることが難しくなっていた」って、それもまた成長だよね。優しくて温かい回だった。大切に読ませてもらったよ🌸