テラーノベル
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-光を放つ者-
「…また、それ?」
重い空気の中で、ベースのやつが投げやりな声を出す。俺の目の前には、昨日一晩かけて書き上げたばかりのスコア。
一 音一音、そこに込めた意図も休符の一つに込めた吐息も、全部俺には鮮明に見えているのに。
「ここ、三連符の裏で入ってほしいんだ。じゃないと、サビの爆発力が死ぬから」
「細けーよ、そんなの誰も聴いてねーって。もっとノリで楽しくやろうぜ」
「楽しく…?」
俺の喉の奥が、熱く焼けるような感覚になる。
楽しい?違う。演奏している自分たちが楽しむのも大事だけど、ノリで適当にする楽しさとは違う。俺がやりたいのは、そんな生ぬるいもんじゃない。
脳内で鳴り響いている、この世界をひっくり返すような完璧な和音。それを具現化するために俺は身を削って言葉を紡いでいるんだ。
「…合わせる気がないなら、もういいよ」
「はぁ?なんだよその態度。お前のワンマンバンドに付き合わされるこっちの身にもなれよ。天才様は一人でやってればいいじゃん」
ガシャン、と楽器を置く音がして、仲間だったはずの背中が次々のドアの向こうへ消えていく。
残されたのは、安っぽいスタジオの芳香剤の匂いと、俺が書いたゴミの同然のような楽譜。
…結局、誰にも届かないんだ
俺が見ている景色を、俺が聴いている音を共有できる人間なんてこの世にはいない。
他人が混ざれば混ざるほど、俺の音楽は濁っていく。
不純物が混じって、角が丸くなって、何処にでもある退屈な音に成り下がってしまう。
「…一人でいい」
暗い自室で、DAM画面と向き合う毎日。
クリック音だけが規則正しく刻まれる世界。
ここなら、誰も俺を邪魔しない。
俺のこだわりを細かいと笑うやつも、俺の熱量に怯えて逃げ出すやつもいない。
マウス一つで、完璧なドラムが鳴る。
鍵盤一つで、理想のベースが、刻まれる。
誰の機嫌も伺わなくていい。誰に説明する必要もない。
これが「純粋な音楽」だ。これが、俺が守りたかった聖地だ。
…それなのに。
……なんで、こんなに静かなんだろう
完成した曲をヘッドホンで聴き返すと、そこには完璧な「正解」が並んでいる。
1分の隙もない、非の打ち所がない音。
だけど、どこか冷たくて無機質で。
まるで行き先を失った光が、鏡張りの部屋で反射し続けているだけのような、そんな感覚。
「………っ、あ」
ふと、ノートの余白に書き殴った歌詞が目に入る。
『誰か、気づいて』
……違う。そんなこと思ってない。
僕は一人で完結できる。一人で最高のものを創れる。
そう自分に言い聞かせながら、僕はまた新しく立ち上げたトラックに冷たい音を重ねていく。
next→❤︎500
コメント
2件
第2話、読みました。主人公の「一人でいい」という強がりと、ノートの端に書き殴った『誰か、気づいて』のギャップに胸がぎゅっとなりました。完璧な音を積み上げれば積み上げるほど静かになっていく感覚、すごく伝わってきます。この先、彼の音楽がどんなふうに変わっていくのか、気になります。
なの

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unknown
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白黒猫

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