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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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朝食を取ったあとはみんなでデレクの町に転移する。


子供たちには昨日と同じように指示を出していき、


今日もお小遣いを渡そうと革の巾着袋を出していると、横からナツに手を掴まれた。


「そう毎日小遣いは要らないよ。腹が減ったら帰ってくればいいんだからね。あんたは子供を甘やかしすぎだよ!」


「お、おう」


――怒られちゃった。


すこし過保護すぎたかな。


あとのことはナツさんにお任せします。


アーツに会う為、俺はシロを連れてモンソロの町へと転移した。


会う約束したのは昼からである。


今日は時間があるので、前から寄ろうと思っていたシベア防具店に顔を出した。


「おぉ~久々じゃん。やってる~」


相変わらずのモヒカンであるが、馴染みというのは嬉しいもんだね。


ここへ来たのはワイバーンの鞣し革を卸すためである。


取り敢えずは1頭分を出してみる。


モヒカンはその革をマジマジと見て、


「これは、また見事な鞣し方だなぁ。捨てるところがほとんどない。これなら金貨2枚で買い取るぜ。どうだ!」


俺が頷くと、モヒカンはカウンターから金貨2枚を取り出し渡してきた。


職人の腕が疼くのだろうか?


ワイバーンの革を手にとり、何やらニヤニヤしているモヒカン。


――気持ち悪りーぞ、世紀末!


「これは今まで世話になってるからサービスな!」


そう言って、カウンターへもう1頭分をドスンと置いた。


「はぁ――――――っ!?」


モヒカンが呆気にとられている隙に、


「じゃあ、また来るから!」


シベア防具店をあとにした。






時間には少し早いが、俺たちは冒険者ギルドへ向うことにした。


するとギルド前には既にアーツが待っているようだ。


(デカいから、遠くからでもすぐに分かるなぁ)


すれ違う冒険者たちから声をかけられると、気軽に手をあげて答えている。


デカいだけではなく、人気もあるんだよな。


(人がいいからねぇ)


そんなアーツに声を掛け、近くの食堂へ一緒に入った。


まだお昼前ということもあり、店内に人はそれほど多くない。


看板に出ているランチを3つ頼み、一つはこれにと、シロ用のフライパンを差し出した。


注文を入れて待つことしばし。


出てきたのは、肉ともやしの炒め物に黒パンとスープが付いたごく一般的なランチメニューだ。


「ちょっと待ってくれ!」


運ばれてきた料理に手をつけようとしていたアーツを止める。


俺は懐から胡椒の入った容器を取り出し、スプーンですくって炒め物とスープにパラパラとかけてやった。


怪訝な表情をしているアーツ。


俺は何事もなかったかのように掌を上にして、


「どうぞ、食べてみて」


料理を食べるように促した。


「…………?」


アーツはその料理をひと口、ふた口と食べて目を大きく見開いている。


――どうやら旨かったようだ。


それからは会話をするのも、もどかしそうに料理を口に運んでいた。


こうなってしまっては致し方がない。先に食事を片付けますかね。






食後に紅茶を頼んで、落ち着いたところで今回の件を切り出した。


デレクの孤児院へ移すスラムの子供たちの件である。


アーツも興味を示し、うんうんと頷きながら俺の話を最後まで聞いてくれた。


「そうか孤児院か。さらには自活の道まで。……素晴らしい。是非私にも手伝わせてくれ!」


俺の計画には大賛成。支援も約束してくれた。


それから……、


「毎年のことなんだが、春を迎えるまでに大体半分になるんだ……。無力なんだ……」


アーツは寂し気に そう呟いていた。


………………


お迎えにくるのは8日後。


それまでに、なるべく多くの子供たちを説得するようにお願いしておいた。


また近いうちに看板を立てにくるからと、その場は別れた。






子供たちの受け入れ態勢も万全に整え、お迎えする日がやってきた。


こちらデレクも現地のモンソロも天候は良好、この寒さ以外は問題ない。


馬車も5両準備してもらったし、走らせる経路も確認済みだ。


――よし、行こう!


現地ではシスターマヤをはじめ、アーツ達がスタンバっている。


例の炊き出し広場に子供たちを集めてくれているはずだ。


俺たちは誰も居ないことを確認。


モンソロの北門を出たところすぐの林に馬車5両を転移させた。


馭者は熊人族のみなさんが務めているので慌てたりする者もいない。


あとは敏速に行動し、スラムの子供たちを運んでもらうだけだ。


………………

…………

……


子供たちを乗せた最後の馬車が北門を潜り抜ける。


事情を知っている衛兵さんが子供たちに手を振っていた。


街道を少し進んだのち、決められていた林の中へと入り転移する。


借りていた5両の馬車は全てが無事にデレクの町まで戻ってきた。


教会前に停車した馬車からは子供たちが元気よく降りてくる。


今回、保護されたのは1歳~10歳までの子供が43人。


子供についてきた親が8人。頑張って働こうという意欲のある大人が14人であった。


先ずは全員に浄化を掛けたあと、孤児院の建物に入り食堂へと案内する。


準備していた肉と豆が入ったスープを出していくと、待ちきれない様子の子供たちはがっつくように食べていく。


次第にお腹が満たされていくと、緊張していた子供たちの表情も和らいできたように見える。






次はお風呂だな。


よれよれの服を引っ剥がし、順番に洗い場へ送り込んでいく。


身体を一通り洗って湯舟に浸からせていくのだが、


ここで病気やケガのチェックも同時におこなっていき、ヒール (治療魔法) を掛けていった。


(やはり皮膚病の子が多いなぁ。既にしもやけになってる子もいる)


掻き毟って悪化している子も何人かいる。


お尻なんかは酷いものだ。トイレの葉っぱすら買えないからね。


中には全身が痣だらけの子もいた。


どうしたの? と聞いてみたら……、


いつも水飲み場に居る片腕のおやじに、細い木の棒で叩かれていたそうだ。


「ぼく、なにも悪いことしてないのに……」


その子はぼやくように言っていた。


いくら理不尽な事をされても、子供ではどうにもできないよな。


やれやれと思いながらも治療は続けていく。


そうかと思うと、


「おにいちゃん、ありがとう!」


と元気に言ってくれる子もいるし。


――頑張りまっせぇ。






洗い場にぞろぞろと子供が流れてくる。


これで何回目だぁ? さすがに疲れてきた。


まぁ子供はこれで終わりかな。


(はぁ~? 大人もやんの~)


大人は知らん、勝手に入ってくれ。


病気とケガは自己申告な!


治してはやるけど、特別あつかいは今回限りだ。


あれっ、シロはどこ行った?


「…………」


あのやろー。湯舟でぷかぷか浮いてやがる。


いい気なもんだな。


ちょっとはお手伝いしろよ!) シロだけに……






さて、俺もそろそろ戻るとしようか。


あとはシスターマヤと熊人族のお手伝いさんに任せておけば大丈夫だろう。


俺はシロを連れてナツのログハウスへ帰ってきた。


もう、みんな集合している。


お茶を片手に談笑していたようだ。


子供たちの顔はイキイキとして、ナツは朗らかに笑っているのだ。


充実した日が送れたのだろう。


クマ親子と別れた俺たちは王都のツーハイム邸に戻ってきた。


ふぅ~~~、何とかなったな。


それもこれも、皆の協力があったからこそなんだよなぁ。


………………


ぺしぺし! ぺしぺし!


『いく、はやく、たのしい、おきる、おいしい、あさ』


うっ、ううん、朝か。


あれれっ? きのう夕食を取ったあとは…………?


――よく覚えてない。


おそらくは一気に疲れが出たんだろうな。主に気疲れがね。


ぺしぺし! ぺしぺし!


はいはいはいはい、起きます、起きますから~。


額をぺしぺしするのはやめて頂けますかねぇ、シロさんや。


横で寝ていたメアリーも起こし、着替えを済ませて部屋の扉を開ける。


「「おはようございます。ゲン様」」


廊下で待機していたフウガとキロから声がかかる。


二人して片膝を突きこうべを垂れている。


まあ、上にはワイバーンのローブを羽織っているので寒くはないだろうが、


毎日こうして、俺が出て来るのを待っているのだ。


――忠犬か! いや狼なのだが……。






廊下に出ると、俺は赤いマントを羽織った。


背中にはツーハイムの紋章が入っている。


――かっこいい!


かっこはいいけど、ちょっと目立つんだよなぁ。


何故こんな事になっているのかと言うと、原因はお隣のこの方。


真っ赤なサラマンダー・ローブを身に纏っていらっしゃるメアリー嬢。


季節は冬本番を迎え、最近は朝の冷え込みもぐっと厳しくなってきた。


そこで豊富に有ったワイバーンの革を使い、


デレク (ダンジョン) に頼んで俺と周りの者にローブを作ることにしたのだ。


そして出来あがったのはチャコールグレーのワイバーン・ローブ。


なかなかシックな一品である。


さっそく、そのローブを羽織り散歩に出たのだが……、


「メアリーもそれがいい!」


メアリー嬢が駄々をこねだしたのだ。


いやいやいや、サラマンダーのローブの方が絶対良いに決まってるから。


懸命に説得するのだが、プルプルと顔を横に振るばかり。


そうして困ってしまった俺は、


『じゃあ、お揃いでサラマンダーのローブを作るか』


とも思ったのだが、


悪戯心も手伝って ”たっ○・みーさん” 張りの赤いマントにしてしまったのだ。


「えへへへへ、ゲンパパと一緒だぁ!」


メアリーは笑顔で納得してくれた。


「「「ゲンパパ。かっこいいよぉ!」」」


その言葉を子供たちから聞けただけでも作った甲斐があったというものだ。


正義のヒーローがつけるような真紅のマント。


背中には、フェンリルであるシロを模ったツーハイム家の紋章が入っている。


(このマントに恥じない生き方をしていきたいものだね)






みんなと一緒にデレクの町へ転移する。


今朝は代官屋敷の前に出てみた。


「「「わぁ――――っ!」」」


迷宮入口より上方にあるここからは、デレクの町が一望できるのだ。


朝焼けに染まる街並みを見下ろしながら……。


この町は走り出したばかり。


やらなくてはならない事も、やってみたい事も山積みだ。


だからといって、慌てることはないよな。


じっくりと腰を据えて地道にやっていこう。


町と共に大きくなっていけばいいのだし、俺はそうあるべきだと想うのだ。





俺がシロから貰った第二の人生は、まだ始まったばかり。


だから、まだまだ続いていく俺とシロの物語。


――――




長きに渡って【俺とシロ】をご覧いただきましてありがとうございます。

次回より続けて【俺とシロ(second)】を投稿いたしますので、チャンネルはそのままでお楽しみください。

投稿は1日置きになる予定です。よろしくお願いいたします。 マネキネコ φ(ΦωΦ )

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