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ーーー⋯ 雨だ
天気予報で、この雨はしばらく続くと言っていた。
五月雨という美しい言葉があるけれど、
降り続ける雨と光の差さない灰色の空を仰ぎ見る時、意味もなく物憂げになる瞬間がある。
いつもは閉じている僕の奥底の感覚が、雨音と共にまるでしとしと侵食して、心の中に流れ込んでくるように思えて。
ーーどうしてだろう。
夢が叶えば、怖いものなんてないと自分に言い聞かせ続けた、あの時。
それから随分時は過ぎ去って、
綺羅びやかな目映い世界に身を置いても、この孤独感はいつまでも居座り続けて、僕を侵食していく。
「⋯⋯分かってるよ。」
僕はデモを完成させ、少しだけ一息つこうとソファーにもたれた。
それはまるで深い沼のように、疲労という海へ身体が沈み込んでいく。
身体の奥からゆっくりと息を吐いてみる。
ああ、ちゃん生きてる。ちゃんと動けてる。
⋯大丈夫。
大丈夫。
僕は僕でいられてる。
まだ、がんばれる。
雨で朧気に包まれている街を遠目に見ながら、僕は確かめるように傍らに置いてあったギターを手に取り、弦をひく。
音は正直だ。僕の心を鏡のように映し出してくれる。
その音を耳にして、また自分自身の感覚を再確認する。
雨音に弾かれるように奏でる弦に、すっと精神が落ち着くのを感じた。
この前、
眠れなかった僕は、深夜に若井にLINEをした。
もしかしたら起きてるかもしれないし、寝ているならそれはそれでと。
〈まだ起きてる？〉
〈うん、大丈夫。寝れないの？ 〉
若井は返してくれた。
あいつはいつもそうだ。
こっちが試したことに、ちゃんと返してくれる。
おれは、 いつだってどこかで期待してしまっている。
だから、試してしまう。
“ネェ、ダキシメテヨ。”
「⋯⋯分かってるのに。」
思わず、自傷の笑みが浮かんだ。
彼にこれ以上期待してはいけないのに。
これは、 僕の中にある醜い泥のような我儘だ。
僕は小さく蹲った。
今日、来るっていったな⋯
ほんの仕事の合間に。
「元貴に渡したいものがあるんだ」
彼はそう深夜のLINEで伝えてた。
”ネェ、ハヤクキテ。”
なんて、言えないね。
雨はいよいよ強くなり、弦の音をかき消していった。激しい雨は街を霧に覆って濡らしていく。心做しか、指先が冷えてきた。
僕はギターをまた元に置いて、少し開けていた窓を閉める。
朧気に霞む灰色の街を遠目に眺めた。
息を、吐く。
おれの身勝手さで、欲求で、
大切ななにかを失うことの方が、
ずっと、ずっと怖い。
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