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「……てかさ、手紙なんて書いてあったの?」
一目惚れして、勇気を出して乗り込んできたあの子に、何とか思い出を作らせてあげたい。でも「返事はいらない」なんて、やっぱり寂しすぎる。
「……ん? 普通の告白だよ。いっちゃんも告白され慣れてるから、なんとなくわかるでしょ?」
「まぁ……そうだけど。こっちにも色々事情があるんだよ」
うさちゃんは転校のことを書いたんだろうか。それとも秘密のままにするつもりか。
首を捻るあいつをジッと見つめて考える。俺は余計なことを言いすぎる癖がある。どうにかして、自然に聞き出せないか。
俺の視線がうるさかったのか、いつきが諦めたように口を開いた。
「……俺に対する気持ちとか、いつ好きになったかとか、そういうこと。……あ、聞きたい? 俺がいっちゃんのことをいつ好きになったか」
「いやいいわ! 全然興味ねぇ! 本気かどうかもわかんねぇのに」
俺はまだ半信半疑だ。こないだ脅してきたかと思えば、今日は純粋を装ってモジモジしやがって。「いい奴かも」なんて興味を持った途端に、「嘘だよバーカ!」と一生ネタにされるのだけはお断りだ。
「……あー、やっぱそうだよね。そんな感じしてた」
「……どんな感じだよ。逆に気になるわ」
「『中学の頃からあんなに女取っ替え引っ替えしてたのに、なんで今、俺!? 男だぜ?』……みたいな感じ」
声真似まで混ぜてくるあたり、本当に腹が立つ。こいつ、絶対俺のこと本気じゃねぇ。
「わかってんじゃん。なんで俺なの? 男の、俺なの?」
こうなったら今日、ここで本性を引きずり出してやる。茶番はもう終わりだ。
「……色々楽じゃん、男同士の方が。気づいちゃったんだよね。告白断る時、『男が好き』って言うと、女の子たちも喜ぶし」
「は? どういう意味だよ」
恋愛を「楽さ」で選ぶ? 好きの先に、もっと別の……その、身体の繋がりとかがあるんじゃねぇのかよ。
「……面倒じゃん。なんかあった時とか。でも、男だと絶対そういうの失敗しない」
あー、マジでこいつ嫌い。
そんな、仏様みたいな顔でよくもそんなえげつないことが言えるな。
「まぁ、そうだけど……なんか、そういうの中心で付き合うの嫌だわ」
「……ねぇいっちゃん。今、俺とのそういうの想像した!?」
「はぁ!?!? してねぇわ!!」
危ない。こいつ、こうやって俺の思考を誘導しようとしてるのか。怖すぎる! ちょっとでも理解を示したようなことを言うもんじゃない。
撤回だ。うさちゃんとこんな奴を仲良くさせようとした俺が馬鹿だった。
「やっぱお前、一番嫌いだわ」
「まぁ、俺もすぐに好きになってもらえるとは思ってないよ」
ふふ、と小さく笑ういつき。拒絶されても傷ついた顔一つ見せない。本当に底が知れない。
「……じゃ、今日もフットサル行くからもう帰るね」
「あ……おう」
腰掛けていた机から立ち上がり、鞄を手にするあいつ。結局、先週と変わらない時間じゃないか。どれだけ俺のことを好きだと言ったところで、結局フットサルを取るんだな、お前は。
「……はぁ。本当、なんなんだよ。いつまで続くんだ、これ」
一人残された教室で吐き捨てる。もうクラスの奴にバレてもいい。結局うさちゃんと仲良くしているのは俺だし、あいつとうさちゃんの間には何の進展もない。本当のことを言ったところで、誰も信じねぇだろ。
校庭を歩くあいつの後影を確認してから、俺も鞄を手に取った。帰る方向が同じだから、追いつくと気まずいんだよな。
♢♢♢
週明け。
朝からいつも通り三人でわちゃわちゃと楽しく時間を過ごした後、俺が席に着いた途端、神崎しゅうとが俺の机をバンッ! と叩いた。
「おはようございます。あの、話があるんですが」
睨みをきかせて怒っている。
……ちっちぇ。かわいい。全然怖くない。
ニヤけそうになるのを必死に抑えて立ち上がる。こいつが怒っているということは、やはり「あいつ」関連か。
「……外、出る?」
「望むところです」
「……おう」
素直についてくるあたり、クラスメイトには聞かれたくない話なのだろう。俺、何かやばいことしたか?
「で、なに?」
人気のない場所まで歩いて振り返る。くりくりとした大きな目で俺を見つめる姿は、まるでチワワだ。
「いつきくんを返してください!!」
「は?」
「いつきくんを返してくださいって言ってるんです!」
なぜこいつは俺にだけ敬語なんだ。あいつやりゅうせいとは、楽しそうに関西弁のタメ口で喋っているくせに。
「……あ、俺ら話すの、今日が初めてか」
「そうですけど」
「いや、同級生に敬語っておかしくね?」
「……でも、俺、関西弁なんで。結構キツイですよ? いいなら言いますけど」
あ、なんか優しい。いい子じゃん。俺のためにわざわざ敬語でマイルドにしてくれてたんじゃん。
「いいよ。で、何? 俺、いつきくんを取った覚えなんてないんだけど」
俺がそう言った瞬間、しゅうとの鍵が外れた。
「はぁ!? 何言うてんねんお前! お前ら、最近から付き合っとるやろうが!お前と付き合ってからいつきくん、フットサル中腑抜けになって、元々下手やったのにもっと下手くそになっとるんやぞ! どうしてくれんねん、お前!!」
「ちょっと待って!! 関西弁こっわ!!!!」
可愛い顔面から飛び出したのは、テレビでしか見たことのない弾丸のような罵声。
チワワどころじゃない。ヤクザだ。これ、中身は完全にヤクザだ。