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「……ということで、別れてもらえませんか? いつきくんと」
スッとブレザーの襟を整え、ひきつった笑顔で言い放つしゅうと。
待て待て。俺、こんな二重人格みたいな友達を持つ奴と、金輪際関わりたくないんだけど!
「わかった。別れる。っつうか、俺は一方的に告られただけで返事もしてねぇし、付き合ってるのかどうかも微妙なんだよ。そもそも放課後三十分くらい話しただけで、あいつが腑抜けるようなことなんて何もしてねぇ!」
言い訳するように早口でまくしたてると、なぜかしゅうとの顔が歪んでいく。なんなんだ、お前が望んだことだろ。
「……しゅうと、大きい声したけどどうしたの? 大丈夫?」
「しゅうちゃん、チャイム鳴ったよ。ほら、まだ鞄出しっぱなし」
背後から現れたいつきとりゅうせいが、心配そうにしゅうとを覗き込む。
「……話はまた、改めて」
「……おう」
やはり、こいつらには聞かれたくない話だったらしい。というか、なぜあいつは俺たちが「付き合っている」なんて知っていたんだ。
りゅうせいに手を引かれ、しゅうとが教室へと戻っていく。……いや、お前も一緒に帰れよ。気まずすぎるだろ。
「……付き合ってるって、言ってくれたよね?」
不意に、真横で声がした。
うわ、こっわ。全然笑ってない。それ、本当に好きな相手に見せる顔か? 少なくとも、好きになってもらいたい奴がしていい顔じゃない。
「……話は、また改めて」
そそくさとその場を逃げ出し、自分の机に戻る。「どうしたの?」と癒やしの笑顔で聞いてくれるともやを見て、泣きそうになった。俺、もう嫌だ。この世界、男としか付き合っちゃダメなルールなら、ともやと付き合いたい。今すぐ、ぎゅうっと抱きしめてほしい。
「俺、ともやが好きだよ」
「え!? なんで!? 今!?」
「とりあえずハグして」
「こ、こんな、みんなの前で!?」
もういいよ。誰が見ていようと。
ガラッとドアを開けて入ってきた先生が「なんでだよっっっ!!」と絶叫ツッコミをかましてきたが、知るか。
「あー……生きるのだるっ」
「朝、あんなに楽しそうだったじゃん」
屋上で二個目の弁当を突きながら、ともやが呑気に言う。いいな、お前は毎日幸せそうで。
「この世が、俺とともやとうさちゃんだけの世界だったらいいのに」
「……本当大丈夫? 保健室ついていこうか?」
「確かスクールカウンセラーがいたはずだよ」と本気で心配してくれるともや。……そうだな。いっそ相談しに行こうか。
そういえば、あいつに「話はまた改めて」なんて言ってしまったんだった。
あいつの連絡先なんて知らないし、わざわざ弁解するために声をかけるのも癪だ。
しゅうとが気を利かせて、「あいつ、ほんまにめっちゃ別れるって言ってたねん」とでも伝えてくれねぇかな。関西弁の使い方よくわかんねぇけど。
「いっちゃん! ちょっといい?」
今日の騒動をうやむやにして、一刻も早く帰ろうとしていた放課後の靴箱。今度は、りゅうせいに捕まった。
またかよ。お前ら、本当にあいつのことが好きだな。
「いっちゃんさ、今度の金曜、フットサル来ない? いつものメンバーが最近バイト忙しくてさ、人数足りないんだよ」
「フットサル?」
拍子抜けした。またあいつのことで詰め寄られるのかと思っていたのに。
「え、いいじゃん! 俺も行きたい!」
隣でともやが身を乗り出す。
「いいよ、ともやも来てよ。人数多い方が楽しいし」
りゅうせいの柔らかい物腰と、ふわっとした綺麗な笑顔を久々に間近で見た。中学以来か。抜群のスタイルと整った顔立ち。小学生の頃はよく女の子に間違われて、変態が家までついてきていたなんて事件もあったっけ。
「あー……俺はいいかな。サッカーはもうやんない」
「サッカーじゃないよ! フットサル! 遊びだよ?」
「大丈夫、俺が連れていくから!」
「じゃあ、連絡先交換しよ」
しぶしぶスマホを取り出し、りゅうせいのアドレスを登録する。まだみんながスマホなんて持っていなかった頃、同じチームの仲間で、休み時間まで必死にボールを追いかけていた。あの頃、何があんなに楽しかったんだろう。
「……やった。友達が増えた」
「えー、俺ら元々友達じゃん」
「本当? じゃあ、他のことでもまた誘っていい?」
「いいよー」と盛り上がる二人。ちょっと待て。ビジュアルの系統は逆だが、優しくて顔が良くて、お前らめちゃくちゃお似合いじゃないか。りゅうせいは相変わらず綺麗だし、女だったら速攻で付き合って欲しいレベルだ。
「イチャイチャしてんじゃねぇよ!!」
「やば、今日のいっちゃん情緒不安定」
「本当いっちゃん、ともやのこと好きだなぁ」
スマホをポケットにしまい、りゅうせいが優しく微笑む。……え、本当にいつきくんの話はしねぇの?忘れてんの?
「あー……いつきくんは? 帰った?」
「ん? うん。バイトあるからって。いつきくんは頑張り屋さんだからね。あ、今度一緒に食べに行っちゃう?」
「え、何屋さん?」
「イタリアン。いつきくん、めっちゃ料理上手いんだよ。厨房から見えるいつきくん、かっこよすぎてマジで惚れちゃう」
興奮気味に話すりゅうせいと、興味津々のともや。
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……ちょっと待て。
フットサルにしろイタリアンにしろ、結局全部「あいつ」繋がりじゃないか。
俺、はめられてないか?