テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……あの、特別なことなんてしなくていいので! 僕のこと、毎日可愛いって褒めてくれるだけでいいんです!」
俺が黙り込んだのを「迷ってる」と勘違いしたのか、焦ってとんでもない妥協案を付け足してくる。
おいおい、これ放置しといたら、もっとすごいセリフが聞けるんじゃねえの……?
「……可愛すぎて、昇天してました」
「……バッカじゃないの」
結局、俺の告白がどう着地したのかははっきりしない。
ただ、一つだけ言えるのは――今、俺とゆうたさんの心は、これ以上ないほど重なっているということだ。
「……ゆうたさん。今から、うちに来ませんか?」
駅へと続く夜道。繋いだ手の温もりを確かめるように握り直すと、隣を歩くゆうたさんが意外そうに眉を上げた。
「え、いいんですか?」
「……俺、新しい夢がいっぱいできたんです」
「……聞きたいです」
「……尊敬するゆうたさんみたいに、好きなことを仕事にすること。それから、好きな人……ゆうたさんと毎日同じ家に帰ること。 ……俺ももういい歳ですし、そろそろ自分を幸せにしてあげたいなって」
少しだけ勇気を出して言葉にすると、ゆうたさんは視線を正面に戻したまま、短く応えた。
「……へぇ。それは、とっても素敵な夢ですね」
「あ、照れてます? すっげぇ棒読みでしたよ、今」
茶化すように覗き込むと、彼は観念したように息をついた。
「……僕は今、いつきさんの『ペット』みたいなものなので。拒否権はないというか」
――あ、そっか。だからさっき、あんなに無防備に擦り寄ってきたのか。
待って。ペットで無抵抗って……俺、可愛がり放題じゃない!?
「あ、じゃあ、これ。渡しときますね」
「……え? 鍵? 早くない?」
戸惑う彼の手に、銀色の鍵を押し付ける。
「これからずっと、俺はゆうたさんの帰る場所なので。いつでも、帰ってきて下さい」
「……こんなにすぐ人を信じちゃうなんて、先が思いやられる」
呆れたような声。けれど、その指先はしっかりと鍵を握りしめている。
「……じゃあ、今日は一緒に帰りましょう。で、シャワーも一緒に浴びちゃいましょう」
「それ、絶対にまた離してくれなくなるやつ……」
ゆうたさんが苦笑しながらも、俺の手を強く握り返す。
誰かと一緒に、笑いながら家路につく。
そんなささやかで、ずっと憧れていた夢が、今夜最高の形で叶おうとしていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
8