「お疲れー。」
控室に入ると、すでに涼ちゃんが来ていた。
「お疲れ、若井。」
「いやー、昨日は大変だったね。あの後二人どうしたの?」
「え…。」
ギクッいう擬音語が浮かび上がりそうな表情の涼ちゃん。
「えっと、別に、なにも?元貴の家で飲んだんだけど、僕酔っぱらってすぐに寝ちゃって…。」
んー…すがすがしいほどの嘘☆
え?待って。涼ちゃんここまで嘘下手だっけ?
「元貴になんか言われた?」
「え、別に何も・・・。」
「喧嘩した?」
「喧嘩とかしてないよ!…強いて言うなら僕はなんて無力なんだって思った。」
「哲学?」
「元貴の家で飲んでたんだけど僕すぐ酔って寝ちゃったんだよね。それで夜中一回起きたら、元貴曲作りしてたみたいで…。無理してないか心配で…。」
「曲作り…ねぇ。」
なるほど。元貴が感情を高ぶらせる何かはあったっぽい。
それが何かは元貴から送られてくる音源でわかるだろう。
「まぁ、元貴が曲作り終わった後が俺たちの出番じゃん?あいつの求めるもの一緒に作り上げていこう。」
「うん…そうだね!」
元気を取り戻した涼ちゃんはいつもみたいに笑顔を見せた。
「あ、ねぇ若井。若井って今付き合ってる人いたっけ?」
「今はいない。作る暇ない。」
「だよね。」
「え?涼ちゃん好きな人できた?」
「え、い、いや、別にっ。そういうんじゃなくてっ。」
否定するが真っ赤になってる時点でそれはもう肯定だから。
「珍しいじゃん。涼ちゃん意外とそういう話ししないし。なんか新鮮。」
「だから違うんだって!」
「はいはい。友達の話とか?」
「もー…。」
頬を膨らませても俺には効きません。
「なんていうか、本当に人を好きになる感覚ってどんなだろうって。」
これまた哲学ですか?
「まぁ人それぞれだと思うけど、常に一緒にいたいとか、幸せにしたいとか、悲しませたくないとかなんじゃない?俺も別に恋愛脳じゃないし、まだそこまで人に出会ってないから分からないかも。」
「そうだよね…。僕もいまいちわかんないんだよね…。」
「想像だけどね、涼ちゃんは小さな『好き』をたくさん配るタイプの人なんだと思うよ。」
「チャラいってこと?」
「違うって。例えるならピンポン大の『好き』を全員に配るって感じ。」
ティッシュ配りみたいなジェスチャーを交えると、涼ちゃんは笑った。
「対して元貴は中と小しかなくて、配る人はかなり限られてる。」
「なんとなくわかるかも。」
本気になった元貴の『好き』は重いだろうなぁと思ってしまう。
「今まで一定の大きさしか見てなかった涼ちゃんは、少し大きいサイズの『好き』を見つけて「ナニコレ?」状態なんじゃん?馴染むまで手に取ってよく観察したらいいよ。どうすればいいかはそれから決めればいい。」
「なるほど。勉強になります!若井先生!」
元気よく手を上げる涼ちゃん。ここMロックスだっけ?
「でもさ、涼ちゃん。」
「ん?」
「少し大きめの好きを元貴に見つけたのは本当なんでしょ?」
「……え“?!」
驚く涼ちゃん。わかりやすすぎ
「な、なんでわかったの?!」
「いや、昨日までそんな話してないのに今日いきなりそんな話するから。二宮さんや菊池さんとはそんな感じなかったし、何かあるとしたら俺が帰った後二人でなんかあったんじゃないかなって。」
「本当に何かあったわけじゃないんだけど、なんか変なんだよね僕・・・。」
「メンバーだからとか、性別とか関係なく、とことん考えてみたら?」
「う、うん…。」
撮影終了後メイクを落としてもらって楽屋に戻ると、マネージャーが
「なんかスマホめっちゃブルってたよ?ちゃんと機内モードか電源消しといて。」
「マジ?ごめんなさーい。」
電源消したつもりだったけどマナーモードになってたみたいだ。
マネージャーに預けてたスマホ受け取り、中を確認すると
「は……?」
元貴から音源と歌詞が送られてきていた。
「どうかした?」
「元貴から新しい曲5個送られてきた。」
これ、涼ちゃんが言ってた夜中に作成した分だろうか。
てか昨日の今日・・・いや、今日だけで5曲作ったのかあいつ・・・。
「5曲か。すごいね相変わらず。そうだ、チーフマネージャーからスケジュールの連絡来てたからそれ関連じゃない?近くバンドメンバーで音合わせするって。」
「マジ?!いつ?」
「えっと、1週間後かな。」
「鬼畜かな?」
とりあえず歌詞だけざっと見る。
「うわぁ……。」
もう、“うわぁ”という感想しか出てこない。
そこへ、遅れて涼ちゃんが戻ってきた。
「どうしたの?変な顔して。」
「元貴から5曲送られてきた。」
「5曲?」
「涼ちゃんが飲んで潰れた時に作ったやつじゃない?」
「え?!あの時5曲も作ってたの?!ってかもう完成したの?!」
音を確認してないが、歌詞の感じからしてポップやバラードやロックといろんな種類があるようだ。
しかし、すべてに共通するのは
“片思い”
主人公が片思いを楽しんでる曲、切なく片思いを歌い上げてる曲、絶対振り向かせる的な恋愛模様を描いた曲、などなど。
しかも、俺のように状況を知っている人が聞けば主人公が元貴で相手は涼ちゃんってモロバレな曲。
(…元貴ここまでわかりやすかったけ?)
涼ちゃんもマネージャーに預けてたスマホをもらって確認していた。
(流石に涼ちゃん気づくんじゃ…。)
中と小の好きしか持っていないはずの元貴から『特大』が送られてきたんだ。
流石の涼ちゃんでも…。
「すごいね!全部曲調違うんだ?!」
イヤホン付けて音を確認する涼ちゃん。
「うわぁー…ロック調のやつキーボード難しそうだなぁ…。」
頭の中で譜面を描いているのか、目を閉じてキーボードを弾く動作をしている。
あ、コレ大丈夫なやつだ
※)3/1一部修正しました
コメント
4件
若井先生のピンポン玉の好きを全員に配る、めちゃ分かりやすい!と大納得でした🤭💛
ですよね~w涼ちゃんはやっぱりきずかないよね~🫠ひろぱのあ、これ大丈夫なやつだ っていうのにすごい笑ってしまったw✨