数日後、バンドメンバーが練習スタジオに集合した。
今回は一回目ということで雰囲気や方向性を決めるための練習。
僕も一応各曲に合わせて変わるキーボードやピアノなど練習してきてはいるが、
ここから180度方向転換することもある。
それはすべて元貴次第。
「涼ちゃん、ここピアノもう少し強めに弾いて。」
「わかった。」
「若井、この前送ったコードあったろ?あれ生きで。」
「一回ボツった奴か。わかった。」
「あと・・・――――。」
元貴は各パートを回り的確に指示を出していく。
(本当にすごいや、元貴は。)
バラバラだった音が一つにまとまって音楽になっていく。
学生時代吹奏楽部でも感じてたこの空気感、僕はたまらなく好きだった。
一回目の練習が終了して皆が帰る準備をしている中、僕はマネージャーの所に行った。
「明日もスタジオ使えませんか?」
「練習するの?」
「できれば…。」
「OK。スタジオのスケジュール確認してくる。」
マネージャーがスタジオの外へ行ったのと入れ替わりに元貴がやって来た。
「涼ちゃん、明日もスタジオで練習するの?」
「うん。空いてたらね。」
「ならうちでしない?」
「元貴んちで?」
元貴の家には丸々防音設備を施してる部屋がある。
マンション自体も楽器OKなところだから、たまに元貴の家で練習させてもらったりする。
「キーボードもうちょっと詰めたいんだよね。」
そこへ、マネージャーが戻ってきた。
「スタジオ空いてたよ。」
「あ、涼ちゃん明日はうちでやるからスタジオキャンセルで。ってことで涼ちゃん、明日うちね。」
「わかった。」
元貴の家は自分の気持ちを自覚した時以来だから、なんかドキドキする。
次の日、元貴の仕事終わりに合わせて家に行った。
「お邪魔しまーす。」
「一息ついたらさっそく始めよう。」
元貴の家にあるキーボードの前に座り、指示される中で色々メロディーを奏でていく。
「うん。いい感じ。ありがと、涼ちゃん。」
「ううん。こちらこそだよ。元貴から直接雰囲気伝えてくれたから比較的早く落とし込めたかも。」
「ねぇ、涼ちゃん。」
「なに?」
「今回の5曲どう思う?」
「いい歌だよね。どれも恋の曲だけどそれぞれ違ってて、色んな人に色んな角度から刺さるめちゃいい曲だと思う。」
元貴は微妙な顔をした。あれ?なんか間違ったかな…?
「涼ちゃん的にはどれが一番好き?」
「んー…、バラードかな。叶わぬ思いを抱きつつも相手の幸せを願って。気づかれなくてもいい、ただ幸せを祈るのだけは許してほしいって…。曲調も相まってなんかグッときちゃうよね。」
どうしても重なってしまう。自分の思いと。
きっと僕のはこんな綺麗なものじゃないけど
でも
元貴の幸せを祈ることだけは許してほしい…
「…涼ちゃんさ。」
「うん?」
「好きな人とかいる?」
「え…。」
この前若井とそんな話をしたのでドキッとした。
もしかして若井、元貴に話した?
「えっと…。元貴がそういう話僕にするの珍しいね?」
「なんか、バラード選んだ時の表情が自分と重ねてる気がして…。」
言いにくそうに言う元貴。本当、鋭いよね。
「元貴。確認なんだけど、その好きって恋人同士になりたいとかの『好き』なんだよね?」
「うん。そういう『好き』。」
「そうだねぇ…恋人同士になりたいとかではないんだけど、最近気になってる人はいるかなぁ…。」
「え!いるんだ!?」
元貴の目が飛び出すんじゃないかってくらい見開かれる。
「だ、誰?!」
前のめりになって聞いてくる。そんな姿が珍しくて、小さく笑った。
「元貴だよ。」
「え?」
「最近働きすぎじゃない?とか、ちゃんと食事してるかな?とか、ちゃんと寝れてるかな?とか。」
「それなんか違う。俺のこと考えてくれるのは嬉しいけど。」
「違わないよ。」
流石の元貴も僕の気持ちには気づいてなかったみたい。
そりゃそうか。
僕だって自覚したばっかりでよくわかってないのに。
「僕、元貴が好きみたい。」
にっこりと笑って言うと、元貴は固まった。
「ふふ、ごめんね驚かせて。」
言ってしまった。
でもきっと元貴なら嫌悪感抱かずに「そっか」で済ませてくれる気がした。
「恋人同士になりたいとかじゃない。ただ、僕が元貴を好きってだけで・・・。」
「涼ちゃん。」
「なに?」
「泣くくらい俺が好きなの?」
「え…?」
頬を伝う涙に、言われて気が付いた。え?泣いてる…?
「ご、ごめんっ。」
涙を見られたくなくて、とっさに立ち上がろうとしたら腕を掴まれた。
「元貴、離して…。」
「ねぇ涼ちゃん。泣くくらい俺が好きなの…?」
「ちがっ、これは…。」
僕の腕をつかんでいた元貴の手がするりと手の甲をすべり、僕の手を取った。
「俺はね、涼ちゃん…。」
「い、言わなくていいっ。ごめん、忘れて!」
「絶対忘れない。」
元貴は真っすぐに僕を見る。視線が絡み合い、外したいのに外せない。
「俺も涼ちゃんが好き。」
手の甲に“チュッ”とキスを落とされた。
「もちろん、こういうことしたい『好き』。」
「も、もと、き…?!」
「涼ちゃんと恋人同士になりたいの『好き』。あんなことやこんなことしたい『好き』。」
指一本一本にキスを落としていく元貴。体中が熱くなる。
「ちょ、ちょっと待って、待ってっ。頭が追い付いてないから…っ。」
「難しく考えなくていいよ。俺ら両想いだったんだよ!」
「…嘘でしょ?」
「なんで嘘つく必要あるの。」
「だって、元貴はみんなに好かれてて、必要とされてて、僕みたいなのじゃなくもっと可愛い子の方っ。」
「ストップ!ストーップ!!」
「!?」
「ねぇ、俺の気持ち無視しないでくれる?」
低い声。これは怒ってる…。
「ご、ごめん…。」
「俺は涼ちゃんがいいいって言ってんの。藤澤涼架がいいって言ってんの。」
「…っっ。」
溢れ出る涙を止められない。
だって、応えてくれるとは思ってなかったから。
「泣かないでよ、なんか俺が悪い事してるみたいじゃん。」
苦笑いしながら、袖で涙をぬぐってくれる元貴。
「だって…、だって…。」
「ねぇ、涼ちゃん。」
「…な、に…?」
「俺と付き合ってくれますか?」
優しく微笑む元貴に、僕は返事をした。
「よろしくお願いします。」
本編は以上となります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
グダグダ長くなりそうなところを急ハンドル切ってしまった感が拭えませんが…(汗
小話があと2,3本入る予定です。
【日常】終わったらそのうち“りょつぱ”も書きたいなぁとか思ってます
結局自分涼ちゃん右推しなもので・・・
コメント
2件
連載お疲れ様でした🥹✨ このお話、めちゃ好きでした♥️ 周りの人達の想いも交錯しまくってるのに、もっくんとりょうちゃんが気付いてないのがまた良かったです👍笑 次のお話も楽しみにしています!