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「ぃよっしゃーーー!! 生きて帰ってきたのよー!!」
”ぅおう、テンションたっか”
”さっきまで泣きそうだったのに”
”そんなに嫌だったんだ”
エルトフェリア一行は、イディアゼッターが開けた空間の穴を通ってきた。パフィがとても嬉しそうに叫んでから、アリエッタを撫でまわしている。
「エテナ=ネプトの層を回避出来たからねぇ……」
「あそこはパフィが一番苦手なリージョンですから」
13層はエテナ=ネプトを模した層。星の間を生身で高速飛行する仕組みが整備されていない状態だったので、自力で飛んでいく必要がある。しかも着地時の衝撃を全く緩めないので、自力で空を飛ぶ能力かエテナ=ネプト人の『流星煌』のような能力を持たないと、衝突時に砕け散ってしまう。転移してから動かなかった理由の半分は、ネフテリアとピアーニャによるその辺りの適格な懸念のお陰でもあった。
あとの半分は……、
”まさかおっぱ…フィさんがあんなに駄々こねるとは……”
”相当怖いっていうか嫌なんだなぁ”
「よしよし」
「うえーん。アリエッタありがとうなのよ~」
パフィが必死で進行を妨げていたのだった。既にパフィの中ではエテナ=ネプトの存在自体がトラウマになっているようだ。
そんな訳でイディアゼッターが追い付いたと同時に最深層への進行を止め、1層のジルファートレスから少し離れた場所に空間移動してきたのだった。
「殿下! 起きてください! あの子達が帰ってきます!」
「うぅ……ニオぉ……そんなはしたな……はっ!? 俺は一体……」
「どんな夢見てたんですか。ニオ嬢達が1層に戻ってきましたよ」
「は? え? は? 何でだすぐに出迎えねば!」
「その前に血を処理しないと! でんか!」
「ち? うおおあああ!?」
自分で作り出した血の池から復活したばかりなので、全身にべっとりと赤い血がこびり付いている。このままではニオとアリエッタを怖がらせてしまうと思い、慌てて隣で倒れているサンクエット王子を起こし、急いで水の魔法を使って洗い流していった。
ついでに周囲も水浸しにして、赤い池を流しておいた。
「正装でなくていいだろうか」
「持ってきてませんよ」
「くっ、アリエッタ嬢に会うというのに何故用意していないんだ!」
「ここには訓練しに来たからです!」
2人の王子は慌てて可能な限りの身だしなみを整えていった。
その間、兵士たちはジルファートレスにいる者達を起こして、連携しながら可能な限りジルファートレス内を清掃していく。アリエッタとニオに凄惨な事件現場を見せて怖がらせたくない、甘やかして好かれたい、あわよくば美女達と仲良くなりたいと、ライブを見ていた全員が思っていた。
「よし、迎えに行くぞ!」
『はっ!』
掃除ついでに受付も済ませた王子一行は、気合を入れて外へと向かう。
なお、兵士達が2人の王子とアリエッタ達の関係性を掃除しながら説明していたので、王子達は生暖かい視線に包まれながら出発した。
ジルファートレス内が大急ぎで大掃除されている間、エルトフェリア一行はその場から動けないでいた。
「だいじょうぶか?」
「ぅ……ぁ……」
なんとネフテリアがボーっとしていた。しかも頭の上の花からオーラが立ち上っているように見える。
”何が起こってるんだ?”
少し前から少なくなったコメントも、心配そうにしている。
ネフテリアが突如動かなくなり、ピアーニャが話しかけても反応しなくなっていたのだ。明らかに頭に咲いている花が原因である。
「おいミューゼオラ」
「……さぁ?」
ミューゼは心底困った顔になって目をそらした。どうやら魔法をかけた本人も知らない様子。
悩んでいると、ネフテリアの背筋が真っ直ぐになり、両手を広げて天に掲げ始めた。すると、花からオーラが消え、代わりに空気中から何かを吸収し始める。
「……光と魔力を吸収しているようです」
”まさかの光合成”
「テリアが本当に植物になったのよ」
「えっと、そんなつもりじゃなかったんだけど……えっと……」
ネフテリアに花を生やした犯人は焦っている。一応グラウレスタで魔法は試しているのだが、野生動物は逃げてしまい経過観察をしたことが無かったので、この現象を見たのは初めてなのだ。
「そんな魔法をヒトに向かって使わないでくださいよ」
「ごめんなさい……」
イディアゼッターに叱られ、ミューゼはしょんぼりと落ち込んだ。それを敏感に察知したアリエッタが、急いでミューゼにしがみついた。ミューゼからの好感アップには余念のないアリエッタであった。
「あと、魔力を吸収しているのが原因なのか定かではないですが、ヴェレストが寄ってきていますね」
「またメンドウな……」
「動かしたらどうなるか分からないから、このままテリアを守るのよ」
「りょーかーい」
「ここならわたしも戦えるよ!」
「わっわかりました! 全力を尽くします!」(お給料もらえなくなっちゃったら困るし!)
「ニオはゼンリョクだすんじゃないっ」
突如ネフテリア防衛戦が行われる事になった。イディアゼッターの言った通り、すぐにヴェレストが1体現れる。羊型のモイジープである。
「よっ」
ズバッ
パフィが斬って、
「えいっ!」
ズドン
メレイズが上から串刺しにし、
「【魔力球】!」
ドゴゴゴゴァッ
ニオが巨大な魔力の塊で後ろの森ごと吹き飛ばし、
「キャーーーーーッ!」
吹き飛ばした本人がビックリして悲鳴を上げて終了。
”メレイズちゃんだけでよかったじゃん!”
”なんで森ごと消し飛ばしてんの……”
13層まで行ったメンバーに対して1層程度のヴェレストでは、もはや誉め言葉よりもツッコミしか出てこない。
一斉に攻撃しても危険なので、ピアーニャの指示で担当する方向を決めた。
ミューゼ、パフィ、メレイズ、ニオを光合成中のネフテリアの周囲4方向に立たせ、上空はピアーニャが担当する事になった。アリエッタはとりあえずミューゼにくっつけている。
森を少しばかり吹き飛ばしたお陰で、至近距離からの不意打ちを食らう心配がない。散発的にやってくるヴェレストは、順調に撃破出来ていた。
「モンダイなさそうだな。これならコウタイでやるか」
「それがいいのよ。テリアがいつ動くか分からないのよ」
というわけで、ミューゼが壁を作り、ネフテリアを四方から囲った。あとは迎撃と休憩を交代しながらのんびり過ごすだけ。困ったらジルファートレスまでピアーニャが飛んでいけばいいのだ。
準備が整ったところで、アリエッタがミューゼから手を離した。
「いやちょっとマテ。おまえはうごくな」
「だいじょうぶ! ピアーニャまもる! あたし!」
「ダイジョウブじゃない! たのむ! やめて!」
(こんなに不安そうにして、ここはお姉ちゃんとして頑張らないとな!)
残念ながら、アリエッタのやる気はバッチリである!
その時、いくつもの獣の声が聞こえた。どうやら複数のヴェレストが近づいてきているようだ。
「くそっ、こんなときに」
アリエッタを説得している暇は無い。ピアーニャは逃げるように壁の外に出ようとした。しかしアリエッタに回り込まれた。
「だいじょうぶ!」
「じゃないっ! どいてくれええ!」
パフィはちょうど壁の裏側にいて、ミューゼはネフテリアの様子を見ている。メレイズはアリエッタの好きなようにさせたがる。ニオは論外。そうなると頼れるのはただ1人。
「ゼッちゃん!」
「うっ……アリエッタさん、こちらへ」
見守りはするが、エルツァーレマイア関係には可能な限り関わりたくないイディアゼッターしかいない。
「めっ! あぶないピアーニャ!」
「あ」
「おいまてえええ!」
アリエッタが制止の声を聞かずにピアーニャより先に外に出てしまった。慌てて追いかけるピアーニャとイディアゼッターだが、外に出ると既にアリエッタと巨鳥のヴェレストであるアシュカーが対峙していた。
「おいにげろアシュカー!」
「消されますよ!」
”助けるのそっち!?”
当然ヴェレストにもアリエッタにも、言っている事は通じない。
そのアリエッタの両手にはカードが握られている。少し怖いのか震えてはいるが、しっかり臨戦態勢になっていた。そしてカードを前に掲げる。
『吹き飛ばせ【たつまき】!』
技名を叫びながら戦っているのを見て羨ましくなっていたアリエッタは、思いついた発動文句を叫びながらカードを発動。カードの前から竜巻が前方に伸び、ヴェレストを大きく吹き飛ばした。
カードに描かれている絵は、魔法に憧れたアリエッタがそれっぽく想造した『魔法陣』。渦巻は竜巻をイメージした模様である。まだ『魔法を使う』事がアリエッタの常識として固着していないので、威力も形も安定しないようだが。
アリエッタは、飛んでいくヴェレストを見ながらちょっぴり反省していた。
(「吹き飛ばせ」より「回れ」の方がよかったかな?)
その間に何体ものヴェレストが同時にやってきたので、一旦【進入禁止】で足止めする。
(これじゃキリがないなぁ。検証ついでにやってみるか!)
”まだやる気だ”
”うわ幼女強い”
”安全に戦うせいで、ピアーニャ様も下手に手出せないしなぁ”
ピアーニャとイディアゼッターがどうするべきか迷っている間に、アリエッタが次なる行動を起こす。
カードの束の中から、あるカードを取り出した。そして迷わず上に掲げて発動する。
すると、アリエッタが光の柱に包まれた。すぐに光が消え始め、アリエッタの姿が再び見え始める。ピアーニャが何やら違和感を感じるが、それが何かを考える余裕がない。なにしろ今目の前で起こっている事は初めてみる事象なので、何が起こるか分かったものではないのだ。
光の中から除くアリエッタの目がヴェレストを睨みつけ、カードを持った手で光を払った瞬間、「ブチィッ」と何かが切れる音がした。