テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ヴェレスアンツの1層を、王子達は走っていた。アリエッタ達がネフテリアを防衛するようになる前に出発したが、ライブ視聴者によって現状を伝えられ、合流を急いだのだ。
”もう少しですよ王子様”
「助かる! っフゥッ 無事でいてくれアリエッタ嬢……! ゼェ……」
”無事もなにも……”
”心配するのが逆なんだよなぁ”
「はぁっ、はぁっ、ニオ嬢はか弱いのだ! ハァッ、心配にもなる!」
”そりゃ異常なまでにか弱いけどさ”
”破壊力は人類トップクラスだけど?”
「少しペースを落とした方がよろしいかと」
「心配なのは分かりますが、疲れ切っては助けられませんよー?」
『ぐっ』
2人の王子は2人の少女を助ける為、魔法を使ってまで全力で走っていた。その後ろからは、兵士達が楽々ついてくる。まだ若い王子と常日頃訓練を続ける兵士の差が如実に表れ、王子達はちょっと悔しそうな顔になっている。
”まぁ、そろそろだから気を付けてくれ”
「あれか!」
「うおおおおお!」
目標を見つけた瞬間、王子達は跳び上がった。そのまま魔法を撃っても良かったが、万が一当たらなかった時、向こう側にアリエッタかニオがいたら…と考え、上から位置を確認しながら撃つ事にしたのである。隙だらけになるが、そこは兵士達にサポートを頼んである。
「【火の弾】!」
「【風の刃】!」
使える魔法も初歩的で制御も甘いが、命中したヴェレストはあっけなく倒れる。ここは1層なのでヴェレストも大きいだけで、それほど強くはない。
ヴェレストを1体ずつ仕留めた王子達は、空中から現状を確認。丁度光の柱が消える瞬間だった。
ブチィッ
「!?」
「なんだ?」
鋭い音と共に光の中から現れたのは、銀髪の美少女。ファナリア人からみて14歳くらいだろうか、背丈はミューゼよりは少し低く、すらりと伸びた足が短いスカートの下で堂々と主張している。そして胸はミューゼよりも少し大きい程度だが、幼さが残る顔立ちのせいか、見た目よりも大きく感じてしまう。そしてひと際目立つノシュワールの耳と尻尾。
その背後では、ピアーニャとイディアゼッターが目を点にしている。つまり美少女の正体は、
『アリエッタ嬢!?』
「ふんす!」
「なんか成長してるまするうううう!?」
言動がおかしくなる程イディアゼッターが驚愕。ピアーニャは呆然としたまま。
アリエッタ達から見て横、少し離れた場所に王子達が着地した。
「ピアーニャ総長!」
「これはいったい!」
声をかけてくると同時に、壁の中からミューゼも顔を出した。
「ネフテリア様がクネクネ踊り始めました!」
壁の中から「ホーーーーーッ」というネフテリアの奇声が聞こえてくる。
さらにパフィも裏側からやってきた。
「何かあったのよ? 誰なのよ!?」
「いっぺんに来ないでください!」
”どこを見ても重要案件”
”いやもうどうすんだこれ”
”コメント出来てない奴ら、驚きすぎて声出てないだけだろ”
収拾がつかなくなる前に、イディアゼッターは目の前のアリエッタの事に集中する事にした。どうせミューゼもアリエッタの事の方が気になっているので、ネフテリアの事は軽く放置である。
「アリエッタさんが成長しました」
『えっ!』
その一言だけで、全員がアリエッタを注目。背が極端に伸びているが、服はそのままなせいで、かなりキツそうになっている。スカートがかなり短く見えるのも、ただ小さすぎるワンピースを着ているせいである。
その時丁度、アリエッタが目の前のヴェレスト達に攻撃をしかけた。
『回れ【竜巻】!!』
ちゃっかり技の発動の言葉を言い直し、同じ攻撃を仕掛けた。すると、先程よりも大きな竜巻が発射され、森どころか大地を抉りながら飛んで行った。もちろん通った後には何も残らない。
(回れもイマイチかなぁ? う~ん……)
アリエッタには目の前の綺麗になりすぎた戦場よりも発動の言葉の方が大事なようだ。俯いて考えたせいで、山まで抉っている事に気づいていない。
「アリエッタ?」
「ぅ?」
集中していても、ミューゼの声は聞き逃さない。振り向きながらミューゼの元に駆け寄った。
その時、アリエッタのスカートの中から何かが落ちた。
”なんだ?”
「っと、アリエッタ嬢、ハンカチ落としまし……え?」
アリエッタの事には敏感になっているミデア王子が、すかさずそれを拾いに近寄る。落とし物を拾って渡すのは仲良くなるキッカケのお約束……なのだが。
それを見たミデア王子の顔がみるみる赤くなり、ガクンと膝から崩れ落ち、動けなくなってしまった。
どうしたのかと近づいたサンクエット王子も、すぐにその正体に気づき、顔を赤くした。
”ちょっ、それパンツ!”
”さっきのブチッって音、パンツがちぎれた音だったのかよ!”
”そりゃあんな急成長したらサイズ合わなくなるわよねぇ……”
そんなとんでもない落とし物をしてしまった事に、アリエッタは気づいていない。ミューゼに自分の姿を見せる事に夢中だった。ミューゼの顔との距離が近い事にも感動している。
「ミューゼ! あたし、おおきい!」
「本当にアリエッタなの? うわぁこんなに美人さんになっちゃってーむふふ」
一瞬どうやって成長したのか気になったが、何かを期待するような上目遣いの笑顔を向けられ、それも吹き飛んだ様子。
「エルさんそっくりなのよー。たまらんのよー。食べごろなのよー」
”こらこら……まぁこれは確かに女でもクるものがあるわね……”
”さっきまで小さい可愛い子だったギャップのせいもあると思うけど、これは……ゴクリ”
”女達まで獣に変えるとか、なんて恐ろしい子”
「えへへ」
”尊…ぐふっ”
”うわー! 掃除する前より血みどろにいいいい!!”
ジルファートレスの方は再度大惨事に見舞われていた。
しかし大惨事の渦中にあっても、見逃せない事が男達にはあった。
”光妖精! はやくしろ!”
”間に合わなくなっても知らんぞー!”
”今すぐアリエッタちゃんを下から映すんだ!”
「おいこらぁっ!」
あまりに酷いコメントを見て、ピアーニャが我に返った。流石にアリエッタの乙女を大多数に公開するわけにはいかない。慌てて光妖精の撮影を停止した。
”王子頼む! 動いてくれぇっ!”
”光妖精にアリエッタたんの撮影を命じるんだ!”
「まてえええっ!」
視聴者は急いで王子達のライブに移り、アリエッタのローアングルを切望した。しかし迂闊にも想像してしまった王子達は色々な意味で赤く染まり動けない。
「むっつりオウジどもはコッチでなんとかするから、ソッチはたのむゼッちゃん!」
「え、はい」
「そんな事よりあんまり派手に壊さないでくれるかなぁっ!」
この混乱の中、グレッデュセントまで泣きながら現れた。
「ややこしいので一旦引っ込んでいただきたい!」
ポイッ
イディアゼッターはすかさずグレッデュセントを空間の穴に放り込んだ。
”捨てたァ!”
”神様ってなんなんだろう”
気を取り直して、アリエッタをひとまず小屋の中にいれようと近づく。そこへメレイズが飛び出してきた。
「テリアおねーさんの花が膨らんできたよ! えっ誰? きれー!」
「ああもう次から次へとっ」
何やら気になる事を言っているが、アリエッタのスカートの中が危険なので、それどころではない。
アリエッタが思いっきり地形を変えたお陰で、ヴェレストが近寄ってくる気配は無いので、強引に壁の中に全員を押し込むことにした。
王子達と兵士達には周囲を見張ってもらい、光妖精もシャットアウト。
「ひぃ、ひぃ……」
「だ、だいじょうぶか?」
「何故このような事に……」
今の一連のやり取りだけで、精神的に疲労困憊である。
「ねぇ見てニオ! アリエッタちゃんが大きくなった!」
「え?」
メレイズが留守番していたニオに、成長したアリエッタの事を紹介した。
振り向いたニオは一瞬固まって、
「ゐ゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
ぱたり
思いっきり叫んだ後、気絶した。畏怖対象が大きくなった事で、本能的な恐怖が限界突破したようだ。
「なんで?」
意味が分からないメレイズは、首を傾げるしかない。
外からはニオを心配するサンクエット王子の叫び声が聞こえる。イディアゼッターが慌てて説明に向かった。
そんな絶叫に反応したわけではなさそうだが、丁度その時、ネフテリアの頭で膨らんだ花から、大きな玉がポトリと落ちた。
「あ、種が」
「……あれ? わたくしどうしてたっけ?」
ミューゼがそれを理解すると同時に、ネフテリアが正気に戻った。
「え、何このエロいノシュワールっ娘。え? アリエッタちゃん? え?」
正気に戻ったのにアリエッタを見ただけで大混乱。
「アリエッタについてはこの後聞き出すところですっ。それよりも頭大丈夫ですか?」
「なんでミューゼは、わたくしを頭おかしい人みたいに言うの?」
種を産み落とした花は役目を終えたのか、魔力となって霧散した。
想定外な事態になって流石に悪いと思ったミューゼは、正直に花の事を説明。大まかだがこれまでの経緯を正直に話した。
全て聞き終えたネフテリアは、神妙な顔で目の前にある大きな種を両手で持ち上げた。大きさは赤ん坊の頭程かと思われる。
「そっか……つまり、この種がわたくしとミューゼの子……」
「混乱しすぎて逆に落ち着いてるのよ……」
産み落とした種を、とても愛おしそうに撫でるネフテリアであった。