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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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週末は雪斗とずっと一緒に過ごした。私が寂しくならない様に側に居てくれていたんだと思う。

実際、私はとても救われた。


湊からは何の連絡も無かった。もう私とは関わりたく無いのかもしれない。


それならもういい。私は少しずつ湊を思い出す時間を減らせるように努力しよう。



月曜日に出社すると、会議室に集まるようにと指示が出た。


カフェラテを飲む間もなく慌てて会議室に向かう。

部屋の中には、部長と雪斗、彼の隣に真壁さん。ほかには数人の社員がいた。

皆、営業部だが業務に接点はない。

私の後からふたりが入室し席に着くと、会議が始まった。



「新しい課を作る」


部長が良く通る声で宣言した。


「従来の仕事を行う一課と二課の他に新しく三課を作り新たな仕事の獲得に向け活動して行く。ここに集まって貰ったのは三課に異動して貰うメンバーだ。正式な辞令は一週間後だが――」


十五分ほどで説明会が終わり、部長が部屋を出て行った。

皆、戸惑っているようで周囲がざわざわしはじめた。

もちろん私も戸惑っている。

営業部に来たばかりで、大した実績がない私が新規事業のメンバーだなんて。戦力になれるのか不安になる。


貰ったばかりの資料を眺めていると、耳慣れない声で名前を呼ばれた。


「秋野さん」


私に声をかけたのは、部長を挟んで雪斗の反対側に座っていた男性だった。

長身で、穏やかな顔立ちをしている。

名前は有賀さん。彼は二課で雪斗と同じ役職に就いていたはずだが、私はこれまで関わりがなかったので、声をかけられたことに少し驚いた。


「秋野さん、これからよろしく」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


立ち上がり、頭を下げる。


「三課では秋野さんに俺のアシスタントをして貰うことになるんだ。実際の業務は来週からだけど、その前に少し話しておきたい」


「あ……そうなんですね。承知しました。有賀さんが都合のよいときに声をかけて下さい」


「ありがとう。じゃあ午後に」


有賀さんは爽やかな笑顔でそう言うと、会議室を出て行った。


新たな仕事にチームと変化が続くけれど、有賀さんが良い人そうでよかった。癖がなくて仕事がやりやすそうだ。


でも、今抱えている仕事はどうするんだろう。


各課で調整とは言っていたけれど、大変そうだな……などと考えながら会議室を出て廊下を歩いていると、雪斗が追ってきて、近くのプレゼンルームに連れ込まれた。


「ど、どうしたの?」


こんな大胆な行動をして、誰かに見られたら怪しく思われる。しかし雪斗はそんなことは気にも留めた様子もなく告げる。


「お前、有賀には気をつけろよ」


「えっ?」


一体、どういうこと?


「美月を新課のアシストにしようと、部長に推薦したのは有賀なんだ」


「……そうなの?」


だから異動したばかりで実績がない私が新規事業チームに配属になったんだ。


疑問が解けてスッキリしたけれど、雪斗は不機嫌な顔をした。


「関わりがなかった美月を指名するなんて、不自然だ」


「それは確かに……雪斗が推薦するのならわかるけど」

「俺は美月をメンバーに入れる気は無かったんだ」


「どうして?」


「新しい仕事に慣れて来たばかりだし。それにお前、今いろいろと大変だろ?」


「でも、有賀さんのことは先に教えてくれたって良かったのに」


「週末はそんな雰囲気じゃ無かっただろ?」


雪斗は何かを思い出しているのか、一瞬ニヤリとした。


「濃厚な休日だったからな」


濃厚って……その言い方は何だか嫌だ。話題を変えよう。


「雪斗は有賀さんが信用できないの? もしかして以前に何かあったの?」


「別に何も無い。けど美月が三課に異動するなら、最初から俺のアシスタントにすれば良かった。有田とペアになるなんてな……」


雪斗が眉間にしわを寄せた……もしかしてヤキモチ焼いてる?


……そんな事、有る訳ないか。と、思ったのと同時に雪斗の手が伸びて来て、頬に触れた。


「……浮気すんなよ」


そう言いながら顔を近付けて来る。


ま、まかさ……ここ会社なんだけど。


「ま、待って……っ!」


逃げようとするより早く唇を塞がれた。


それから先は強い力で抱き締められて……雪斗の気が済むまで好きにされてしまった。


雪斗は力の抜けた私を解放すると満足そうな顔をして部屋から出て行った。


私はクラクラした頭のままその後ろ姿を見送って……。


しばらくしてからハッと我に返り自分も急いで席に戻った。




「ねえ、営業二課の有賀さんって知ってる?」


昼休み、注文したオムライスが来るの待つ間に、成美に聞いてみた。


「知ってるよ、有名だもん」


「そうなの? どんな風に?」


「みんないい人だねって言ってるよ。仕事も出来るし面倒見もいいし。藤原さんほど派手に目立ってはいないけど結構人気だよ」


「確かに良さそうな人だった」


「美月、関わりあるの?」


「実は配置替えが有って……」


成美に今回の新規事業の事について話すと、なぜか凄く乗り気な反応をした。


「凄いね美月、チャンスだよ!」


「チャンスって……私はアシスタントだし、昇格する訳じゃないよ」


「そうじゃなくて、有賀さんのアシスタントになったのがチャンスだって言いたいの」


「どうして?」


「アシスタントなら常に行動を共にする訳でしょ? 有賀さん独身だし上手くいけば恋が芽生えるかも」


「そんなこと有る訳ないでしょ?」


雪斗と似た様な発言をする成美に、呆れてしまう。


「どうして? 私はいいと思うけど。美月に良い彼が出来たらいいなと思ってるし」


成美が心配そうに眉を下げる。

そう言えば成美には雪斗との事、話していないんだった。


でも、雪斗との関係を考えると言い辛い。


「美月にも早く新しい恋が見つかるといいのに」


「……そうだね」


新しい恋か……前にも言われたけど考えられない。したいとも思えない。


でもそれは湊への未練じゃ無い気がする。


今、頭に浮かんだのは湊じゃなくて雪斗だった。



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