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車道を大型トラックが走り去ると、風がビュウと鳴った。排気ガスが鼻にひっかかる。喉の奥が苦い。
「大人って、やっぱり違うよね」と健太は言った。
「でも、先生は同じだって言ってるよ」と美緒。
彼女の無表情な目は、どこか校長先生を連想させた。別な言い方をすると、無難な大人の目だ。美緒はそんな顔、どこで憶えたのだろう。
「でも、背中も、歩き方も、話し方も違くない?」と健太が言うと、美緒は目玉を上にあげた。
「ま、あそうだね」
健太は革靴の、片方のかかとを踏んずけた。
「そんなことして叱られても知らないからね」と美緒が言う。
「服装で叱る大人なんて、もういないよ。僕の権利なんだってさ。成績だけは別みたいだけど」
「健太君って、不良みたい」
「何で」
「だって、そんなカッコするし。反抗ばっかりしてる」
「反抗?」
信号が青になった。美緒は濃茶色の鞄をぶらぶらさせながら、先に歩き出した。
「でも美緒ちゃん、やっぱ大人ってずるいよ」健太は小走りに追いつく「平等って言いながら、自分は楽な靴履いてるし、何か気に触ること言うと成績下げようとするし」
「そんなこと、俺に言われても困るよ」
「あれ、美緒ちゃんも自分のこと俺っていうの」
「最近はね」
「でも、大人は男の人でもときどき『私』っていう人いるよね」
「知ってるよ」
病院の角を曲がるとコンビニが見えてきた。話し方矯正教室の広告が見える。
「ねえ美緒ちゃん。大人言葉も子供言葉もないっていうじゃん、学校で」
「言うね」
「でも大人の言葉って、分かんないな」
電線が縦横無尽に走る民家の谷間の電柱で美緒と別れた。