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キャブがいつも通り2人を起こすためダインの家を訪れた。
あ、ちなみにキャブとは武器屋のおっちゃんの名前。
武器屋のおっちゃんのフルネームはキャブ・ヤッチ・ノンオ。愛称、武器屋のおっちゃんである。
武器屋のおっちゃんがダインの家を訪れると
「うおっ」
驚いた。ヲノがもう目を覚ましていた。
「どうした。珍しい」
「いや、昨日ダインから今日新しいマナトリア狩りに行くって聞いたら早く起きちまって」
バキバキの目のヲノ。
「おぉ。そうか。よかったな」
そのヲノを他所にいつも通りグースカ寝ているダイン。いつも通りヲノは思い切り耳を塞ぎ
武器屋のおっちゃんは思い切りフライパンを叩き、ダインを叩き起こす。
いつも通り並んで歯を磨いて顔を洗って、武器屋のおっちゃん特製の朝ごはんを3人で食べる。
「そうだ。ヲノが言ってたけどよ。新しいマナトリア浄めに行くんだって?」
「おお。そうそう」
「なに浄めに行くんだ」
「それが教えてくんねぇ〜のよ」
「んふふ〜」
「どこ行くんだ。それくらいいいだろ。場所言ってもヲノは素人なんだからわかんないだろ?」
「まあ、そうか。今日はムアニエル平原に行ってくる」
「ムアニエル平原か」
「ムアニエル平原?」
「ムアニエル山(ざん)は知ってるだろ?」
「あぁ。一番デカい山な」
「この前まで行ってた、ムガルルとかスポーレを浄めてたとこがムアニエル山の麓の森な」
「あ、そうなんだ」
「そ。で、その麓の森の近くの広場がムアニエル平原」
「あ。そうなんか」
「今日はそこへ行きまーす」
「はぁ〜い」
まるで遠足に行く生徒と教師のような会話をし
朝ごはんを食べ終え、防具を装備し、武器を持ってダインの家を出た。
「気ぃ〜つけてなぁ〜」
武器屋のおっちゃんが手を振る。
「おぉ〜!そっちもなぁ〜!」
「こっちは気ぃ〜つけることなんもねぇ〜!」
「それもそっか」
と笑うダイン。遠くのダインの家の扉の前で笑う武器屋のおっちゃん。
ヲノも照れくさいが武器屋のおっちゃんに手を振る。武器屋のおっちゃんも笑顔で手を振り返してくれる。
「いやぁ〜。もう3人で暮らしちゃう?もうちょい広い家借りて」
楽しそうなダイン。
「まあ…ありかもなぁ〜」
思ったことが思わず口から溢れるヲノ。
「おぉ?ヲノも乗り気かぁ〜。じゃあ、本気で考えないとなぁ〜」
今のダインの家に慣れてきてるからなぁ〜。居心地良くなってきてるし
と言うとまたダインが調子に乗りそうなので言わないでおいた。
2人で通りを歩いていると、向かいから他の人が着ている服とは異質な
近未来のデザインの白い服を着た2人組が歩いていた。
その2人組は道行く人に声をかけられ、笑顔で話したりしている。
「お。ニュートラルキーパーさんだ」
ダインが呟く。ニュートラルキーパー(Neutral Keeper)とは「NK」と略されたりもする
法を犯す者を取り締まったり、怪我などをした人たちを治療する施設で働いたり
火事や事故などを早期解決する人たちの総称である。街中で歩くのも警備や警戒、仕事の一環。
法を犯していない市民からすれば、ただ単に気のいいお兄ちゃん、お姉ちゃんたちが歩いているだけだが
法を犯している者からすればヒヤヒヤである。
そしてもう1人、法は犯していないもののヒヤヒヤしている者がダインの隣にいた。
そう、ヲノである。読者の皆様、もしくは視聴者の皆様はお忘れかもしれませんが
ヲノはこんなんでも一応、この世界で3本の指に入るほどのお家柄
名家、メモトゲの末っ子、ヲノ・テキシ・メモトゲなのである。
いわばとんでもない家出息子。見つかったら連れ戻されるのはほぼ確定。
新しいマナトリアに会いに行く!なんてのは夢と消える。
さらに厄介なことにニュートラルキーパーの警邏担当は
大概、生まれつき読心術が備わっているニッポンジンが多い。
さらに、たとえばムスコル族が多い地区には同じムスコル族は原則配属されない。
なぜなら同族だとしたら、情などによって罪を見逃してしまう可能性もあるためである。
なので、生い立ちも生い立ちなのでないとは思うが
もしヲノと同じ種族、ベーサーのニュートラルキーパーだとしたら
「あぁ、同じ種族だし、いいよ。今回だけ見逃してあげる」
ということになる”かも“しれないが、同じ種族でもないし、相手は読心術が使えるニッポンジン。
頼む。こっち来ないでくれ
と思ったが、大通りは一本道。必然的にこちらへ歩いてきた。
「どうする?道逸れるか?」
と小声でヲノに聞くダイン。
「いや、変に進行方向変えたらバレる。ニッポンジンと鳥人だ。鳥人は変化に鋭いし、目が良い」
「そっか」
ということで素知らぬ顔でニュートラルキーパーの横を通り過ぎることにした。しかし
「あぁ!ダインさん!」
顔見知りだった。
「あぁ…おぉ!どうもです!」
「どうです?Limpiador(リンピアドール)のほうは。変わらずで?」
「そーですね。変わりはないーっすね」
こいつはオレの知り合い。こいつはオレは知り合い
と言い聞かせていた心を読み
「こちらの方はダインさんのお知り合いで?」
「あぁ!はいぃ!そうなんですよぉ〜」
不自然が過ぎる
と思うヲノ。ニッポンジンは一度言葉を交わすとその者に対して読心術が使えるようになる。
なのでまだヲノの心を読まれる心配はない。
「こんにちは」
とニッポンジンのニュートラルキーパーが挨拶してきた。ここで挨拶しないのも不自然である。なので
「こ…こんにちは」
と小さくではあるが挨拶をした。
「ごめんなさい。こいつヒト見知りで」
「あ、そうなんですね」
心を無にするヲノ。ただジッっとニュートラルキーパーの白い靴を見つめる。
白だから汚れ目立つな
と思ったのを読んで
「そうなんですよね。白だと汚れやすくて」
と靴を動かすニッポンジンのニュートラルキーパー。ビクッっとするヲノ。
「だから毎日自分で磨くんですよ」
「ニッポンジンはいいでしょ、手先器用なんだから。
私たちなんて手先こんなんだから洗うのだって一苦労ですよ」
と言う鳥人のニュートラルキーパーの足には靴はない。硬そうな爪のままである。
「って、お前は靴ないだろ!」
「そうだった」
と言って笑うニュートラルキーパーの2人。ダインも笑う。ヲノは変わらず下を向いたまま。
「これからお仕事ですか」
「そうですね。こいつが」
ダインが大きな手をヲノの頭に乗せる。
「Limpiador(リンピアドール)の駆け出し?なもんで、自分が教えてるところなんですよ」
「へぇ〜。でも珍しい時期にデビューですね」
「あぁ〜…。そう。なんか知り合いが、ずっとこいつにNKを目指させたかったらしくて
でもこいつはLimpiador(リンピアドール)になりたい!って訳で意見が対立して
んで、こいつの父親が母親に2ヶ月で才能が開花したら
Limpiador(リンピアドール)の道目指させてやってくれって言って
一応Limpiador(リンピアドール)で生計立ててるオレのとこに来たって…わけですよ!」
どうだ!完璧だろ!と言わんばかりのドヤ顔をニュートラルキーパーに向けるダイン。
もはや話も右から左に流して、ただニュートラルキーパーの白い靴と硬そうな爪だけを見るヲノ。
「そうなんですね」
ヲノの背負うブレードを見るニュートラルキーパーの2人。
「おぉ。ブレード。いいですねぇ〜。私たち鳥人はブレード持ちは珍しいんですよ。
大概、短剣の二刀流かコピシュとショテルの二刀流が主流なんですよねぇ〜。憧れます」
「自分はダインさんのハンマーに憧れるなぁ〜。
やっぱムスコルじゃないとこんだけデカいハンマーは扱えないですもんね」
なんて話をしているとニュートラルキーパーの鳥人の女性の肩に
1匹の白ベースにピンクと黄色のカラフルな柄の鳩が留まる。
「お、どーしましたか?」
「ホロッ。ホロ」
と首をカクカクと動かしながら話をするような仕草のカラフルな鳩に
「うんうん」
と話を聞く鳥人のニュートラルキーパーのお姉さん。変わらず話を右から左に流して
ただニュートラルキーパーの白い靴と硬そうな爪だけを見るヲノ。
「なるほど。メモトゲ家の御坊ちゃまがお呼びのようです」
「え。オレを?」
「いや、私も。2人を呼んでいると」
「マジかよ。なんかやらかした?」
「さあ。身に覚えはないけど。とりあえず行かないと」
「だな。乗せてってくれ」
「セクハラっすよ。走ってください。
ではお2人とも、気をつけてお仕事行ってきてくださいね。失礼します」
と言って鳥人のニュートラルキーパーのお姉さんは羽ばたいて行った。
「あっ。くそっ。あ、お2人とも、気をつけて。
あ、もし飲みの席一緒になったら話聞かせてくださいね!失礼します!
くそっ。階段上らないってだけで羨ましいのに!」
と言いながらニッポンジンのニュートラルキーパーのお兄さんもメモトゲ城へと走っていった。
「ふう。間一髪だったな」
目の前に足がなくなったのにも気づかず
さっきまでニュートラルキーパーの白い靴と硬そうな爪があった
通りの石のタイルをただただ見つめているヲノ。
「おい!おい!」
ヲノの腕を肘でつつくダイン。我に返るヲノ。
「おぉ。言った?」
「言った」
「ふぅ〜…。危ない危ない」
と言いながら2人で歩き始める。
「どうだった?オレの咄嗟の嘘。なかなかだったろ」
「ごめん。心読まれないように話なんも聞いてなかった」
「おいぃ〜!マジかよ?あんなに必死で思考巡らせて考えたのに?」
「すまんすまん」
「いやぁ〜。でもあんなに頭を回転させたのはいつ以来だ?」
「そんな使ってなかったのか」
「そうだなぁ〜。学校って学校は行ってないしなぁ〜」
「それにしてもニュートラルキーパー厄介だなぁ〜」
「厄介とか言うなよ。立派に仕事してるんだから」
「そうなんだけど。…今のオレの立場から言うと厄介この上ないんだよ」
「まあな。でもあの鳥人のお姉さん。綺麗な人だったなぁ〜」
「顔見てないからわからん」
「ニッポンジンのお兄さんは〜…可もなく不可もなく。スタイルは良かったな」
なんて話をしながら歩いた。
「そういや、ニュートラルキーパーが言ってた“御坊ちゃま”ってお兄さんとか?」
ダインがヲノに聞く。
「そうだろうな。オレなわけないし。目の前にいたし」
「それもそうだ。お兄さんって何人いるの?」
「兄は2人。姉が1人」
「お姉さんもいるのか。美人?」
「自分の姉を美人と言うか?」
「知らん。姉ちゃんいないし」
「…ダインは?ご兄弟は」
「兄ちゃんが1人だ」
「へえぇ。お兄さんは?」
「なにしてるかって?実家で力仕事してるかな」
「ご実家にいるのか」
そんな少しだけ身の上話をしながら歩いて、歩いて、歩いて。
「遠くねぇか?」
「まあ。ムアニエル山(ざん)の麓の森が割とデカいからな。その奥だから、まあ、歩くわ」
と文句を言っていると目的地、ムアニエル平原へ出た。
ムガルルやスポーレと戦ったムアニエル山の麓の森の拓けている場所とは違い
見渡す限りの原っぱ。木の後ろに隠れたり、木を盾にしたり
背後を取られたりなどはない、だだっ広い原っぱ。
「スゲェー」
思わず言葉が漏れるヲノ。それほど雄大な大自然。
「狩りに適してねぇな。寝転がりてぇ」
「まあな。だが、見ろ」
ダインが指指す。そこには優雅に歩く立派な角を持つ鹿と角のない鹿ががいた。
「おぉ。立派な角で」
「あれがカカシジだ。立派な角があるのがオス。角がないのがメスだ」
「なるほどな」
「大概カカシジは群れ、家族、カップル、または仲の良いコミニティーで行動する。
単独のカカシジはまず珍しい。単独のカカシジは注意したほうがいいが…まずいないから大丈夫だろ。
あとカカシジは基本的に攻撃はしてこない」
「は?」
肩透かしに合ったようなリアクションのヲノ。
「いや、そーゆーことじゃない。あまり交戦的じゃないってことだ」
「あぁ。そーゆーことか」
「そうだ。こっちが攻撃をしない限りは向こうから攻撃してくることはまずない。
さっきも言った通り、カカシジは大抵メスと一緒にいる。そのメスを守るために戦うんだ」
「なんか、カッコいいな。申し訳なくなってくる」
「まあな。だが…マナトリアだ。浄めてやらないとな」
と言いながら地元の石を手に取る。
「今から石を投げる」
ヲノからしたら
岩じゃね?
という石を右手で上に投げてキャッチ、上に投げてキャッチを繰り返す。
「メスにあてる」
「さすがに可哀想じゃね?メスはなんもできないんだろ?」
「まあ見てろ」
ダインがフルスイングでメスのカカシジに向かって石を投げる。
メスのカカシジに向かって一直線の石。しかし、その石が途中で粉になった。
「え」
粉砕にしたのはオスのカカシジの角。優雅に歩いているときは
美しい華麗な角だったが、石を粉砕したときの角はゴツゴツしたものに変化していた。
そして鋭い眼光をヲノとダインに向ける。
「メスにはあたらない。オスが守るからな」
「なるほど」
オスがカカシジが体を反転させてゆっくりとこちらに歩を進めてきた。
ダインとヲノもハンマー、ブレードを構えてカカシジに近づく。カカシジの角が脈打つように蠢いている。
「筋肉でできた角だ。動きは素早い。ムガルルほど攻撃は荒々しくないが、気をつけろ」
「おう」
カカシジが間合いを詰めて、立ち止まり、前足の右脚を軽く曲げ
つま先をだけが地面に触れるような形で立つ。
「来るぞ」
右脚を挙げたかと思いきや、体を前屈みにしてヲノとダインに角を向け、突進してきた。
土埃が舞うほど力強く地面を蹴り、物凄い勢いで突進してくる。
ヲノとダインはそれぞれ左右にカカシジの突進をかわす。
「はやっ」
「はえーぞー」
勢いを落として体を反転させるカカシジ。
カカシジは体の大きさから強さを判断したのか、ヲノに視線を向けた。
「お。来るか?」
カカシジはお辞儀をするように頭を地面スレスレまで下げた。
「おぉ。男としての戦う前の礼儀か?いいね」
ヲノもお辞儀をした。しかしカカシジはお辞儀のつもりなんて更々なく
地面についた角の筋肉量を増やし、地面に埋まっていた大きな岩を角に乗せ、ヲノの頭上に放り投げた。
「お辞儀じゃなかったのね」
ローリングしながらかわす。さっきまでヲノがいた場所に、ヲノと同じ高さくらいの岩が落下していた。
「おぉ怖」
「隙だらけ」
ダインが後ろからカカシジにハンマーを右から左へと振る。
しかし前脚2本で逆立ちするようにしてダインの攻撃を華麗にかわすカカシジ。
「後ろに目でもついてんのか」
宙に浮かした後ろ脚でダインを蹴るカカシジ。そこまでダメージはないが、攻撃をもらったダイン。
「大丈夫か!」
「これくらいへーきだ!」
軽やかに後ろ脚を地につけるカカシジ。その立ち姿は華麗で、余裕そうな雰囲気。
「これはこれは。おもしろい相手じゃんか」
ヲノは嬉しそうにニヤッっと笑った。