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「子供達は、喜んでいるようでしたね?」
「ええ、流石はエルメラといった所でしょうか?」
「イルティナ嬢の指示が良かったというのもあるのではないでしょうか?」
「いいえ、私の力なんて微力ですよ。魔法を使ったのは、エルメラなのですから」
子供達へ魔法を見せるのが一段落ついてから、私はドルギア殿下と話していた。
ちなみにエルメラは、客室で休んでいる。子供の相手はかなり疲れたらしく、横になって休みたいそうだ。
そんな彼女の邪魔をしてもいけないので、私とドルギア殿下は庭でお茶にしていた。子供達がエルメラから習った魔法で無邪気に遊んでいるのを見ながら飲むお茶は、なんというかいつにも増して美味しいような気がする。
「シャボン玉の魔法……懐かしいですね。僕も子供の頃、見たことがあります」
「ええ、私も実際に見るのは久し振りです。昔は毎日のようにああいった魔法で遊んでいたような気がするのに……」
「……イルティナ嬢も、魔法は学んでいたのですよね?」
そこでドルギア殿下は、少し遠慮がちに質問をしてきた。
その質問に、私は苦笑いを浮かべる。私にとって、その話はずっと避けてきたものであるからだ。
ただ今なら、それらのことを受け止められるような気もする。せっかくの機会なので、話してみるのもいいかもしれない。
「ええ、エルメラと一緒に学んでいた時はありました。ただ、エルメラは知っての通り、類稀なる才能を有する魔法使いですから……それを間近で見ていたら、なんだか魔法を学ぶ意味なんてないような気がしてしまって」
「そうですか……」
魔法を学ぶということを、私はいつからか忌避するようになっていた。
それはひとえに、私の心の弱さが要因であるといえる。
今になって後悔しても遅いことではあるが、もっと魔法を学んでおけば良かったと思う。そうすればもっと、世界が開けていたかもしれない。
「……イルティナ嬢は、後悔しているんですか? 魔法を学ばなかったことに関して」
「ええ、そうですね……」
「それなら、今からでも遅くはないのではありませんか?」
「……なるほど、言われてみれば確かに」
ドルギア殿下の指摘に、私は少し固まってしまった。
しかし彼の言う通りだ。一度挫折したからといって、それで全てを諦める必要なんてないだろう。私にはまだチャンスがある。後悔しているなら、今から学び始めればいいだけだ。
「まあ、エルメラ嬢に相談すれば良いのではありませんか? 彼女ならきっと、魔法に関して色々と教えてくれますよ?」
「それもそうですね。でも、エルメラの貴重な時間を私のために使わすのは……」
「いいえ、きっとエルメラ嬢も喜ぶと思いますよ?」
「そ、そうでしょうか?」
「ええ、そうです」
ドルギア殿下は、何故かエルメラを頼った方がいいと力説してきた。
彼がそう言うということは、そうした方がいいのだろうか。私は少し疑問を抱きながらも、ドルギア殿下の言葉を受け入れるのだった。
◇◇◇
「魔法を習いたい、ですか?」
「ええ、お願いできるかしら?」
ドルギア殿下の勧めもあったので、私はエルメラに魔法を教えて欲しいと頼むことにした。
ドルギア殿下が王城に帰った後のお茶会で、思い切って切り出してみることにしたのである。
私の言葉に、エルメラは目を丸めている。やはり唐突な提案であるため、すんなりと受け入れてもらえることではないようだ。
「……まさか、お姉様からそんなことを提案されるなんて思っていませんでした。一体どういう風の吹き回しですか?」
「魔法を学ぶのをやめたことを今頃になって後悔しているのよ。あなたと張り合うとかではなく、一つの知識として学ぶべきものだと……」
「張り合う? 張り合っていたのですか?」
「え? ええ、まあ、それは一応、姉だもの」
エルメラは、私の言葉にさらに目を丸くした。
それはきっと、張り合っていたことに対する驚きだろう。規格外の自分と張り合うなんて、意味がないことだとか、思っているのかもしれない。
しかしどれだけ規格外であっても、エルメラは私にとっては妹だ。張り合わないなんて、無理な話である。姉である以上、妹の見本になりたいものなのだ。
「なるほど……まあ、そうですか」
「エルメラ? どうして少し嬉しそうにしているの?」
「いえ、まあ、別にそんなことはないですよ? いや、お姉様はやっぱりお姉様で、そういう所が好きだなぁとか……」
「え?」
「あ、いえ、なんでもありません」
エルメラは、とても表情を柔らかくしていた。
さらには、滅多に言わないようなことを口にしている。
彼女が私のことを愛していることは、なんとなく伝わっていたが、口に出されると面食らってしまう。こんな妹がこんなに素直になるなんて、一体どういう風の吹き回しなのだろうか。
「……もちろん、魔法に関しては御指南しますよ。それは私にとっても、学びになりますからね」
「そうなの?」
「ええ、人に教えられるようになってこそ、一人前というものです。私はこれでも魔法そのものの発展を願っていますからね。私の偉大なる才能を後世に残していくためにも、指導の面にも力を入れたいのです」
エルメラは、私の提案に明るい回答を返してくれた。
それは私にとって、とてもありがたいことである。
「ありがとう、エルメラ。頼りになる妹がいて、助かるわ」
「頼りになる妹……ふふ、そうですか?」
「ええ、エルメラは私にとって、とても大切な妹よ……って、口にするのは、やっぱり少し恥ずかしいわね?」
この妹は、とても規格外だ。だが姉想いの良き妹であると思う。
悩んだ時もあったが、エルメラが妹で本当に良かった。今は素直に、そう思うことができる。それが何よりも幸福だ。
「……」
「あら?」
私が笑顔で言葉をかけた後、私の視界からエルメラが消えた。
それが彼女が倒れたのだと気付いたのは、少し遅れてからである。急にどうしてしまったのだろうか。
「エルメラ?」
「だ、大丈夫です。ちょっと許容量の限界が」
「限界? いや、そんなことよりもどこか怪我していない?」
「私の体は魔法で守られています。これくらいではなんともありませんよ。無問題です。お医者様に診てもらう必要もありません」
「そう……でも診てもらっておいた方がいいわ。万が一ということもあるのだし」
エルメラは、すぐに立ち上がって笑顔を見せてくれた。
しかし、急に倒れるなんてやはり心配だ。念のためお医者様に診てもらっておいた方がいい。エルメラが嫌と言っても、連れていくとしよう。