お姉様がドルギア殿下と結婚したことは、喜ばしいことだと認識している。
もちろん、ドルギア殿下には色々と至らぬ点がある訳だが、それでもお姉様の夫として認めてあげてもいい。今は私も、そう思っている。
婚約が決まった頃は、色々と思う所があった。その頃のことを考えると、私も随分と丸くなったものである。
年寄り臭い言葉ではあるが、当時は若かったということだろう。
血気盛んな若者という時期は、既に終わっている。私も一人前の淑女として、今は振る舞っているつもりだ。
「時が経つのは早いものですね……おっと、これも年寄り臭い言葉でしょうか」
部屋の整理をしていた私は、魔法によって記録した写真を眺めていた。
お姉様とドルギア殿下の結婚式の写真を見ていると、少し腸が煮えかえって来る。
仲睦まじそうに口づけを交わす瞬間なんて、一体誰が何のために収めたものなのだろうか。こんな瞬間を切り取る必要性なんて、ないと思うのだが。
「やっぱり今からでもなかったことになりませんかね……」
写真を見ていると、なんだか少しイライラしてきた。
どうしてお姉様はドルギア殿下と結婚したのだろうか。そもそも原因がなんだったのか、私は改めて考えなければならないのかもしれない。
「そういえば、お姉様の元婚約者の……貴族の、伯爵家? いや、子爵家とかでしたかね? まあ、どうでもいいことですねその辺りは。とにかく、そこの次男だか三男だかが馬鹿だったせいで、こんなことになったという訳ですか」
もう名前も顔も覚えていないが、お姉様の元婚約者の誰がことの発端ではある。
面倒くさいので、全てはその男のせいということにしておこう。ドルギア殿下がいけ好かないと思ってはいけない。私は自分を律することができる大人なのだから。
やはり私も、ここ数年で目まぐるしく成長しているといえる。まあ、私は天才なのでその成長速度はすさまじいものではあるのだが。
「そういえば、この頃にはお姉様もそれなりに魔法を使えるようになっていましたね。ふふ、やはりお姉様は多才な方……」
お姉様はある時から、私に魔法を習っていた。
その結果今では、かつてお姉様を襲った貴族の令嬢の魔法使いくらいには、魔法が上達している。
私のおかげだとか本人や世間の人は思っているようだが、あれは間違いなくお姉様の努力の賜物だ。それを理解しているのは両親やドルギア殿下くらいだろうか。
「……あら?」
そんなことを思っていると、部屋の戸が叩かれる音が聞こえてきた。
とりあえず私は、アルバムをしまう。部屋の片づけは概ね終わっているので、人を招いても特に問題はなさそうだ。
誰が訪ねて来たかは、大方予想はついている。期待しながら部屋の戸を開けると、思っていた通り、愛おしい子達がそこにはいた。
「叔母様? 今はよろしいですか?」
「こんにちは、叔母様」
「あら二人とも、今日はどうしたのですか?」
◇◇◇
イルディオ・アーガントとトルリア・アーガントの兄妹は、私にとって愛するべき存在である。
というよりも、全人類が愛するべき存在といえるかもしれない。二人は世界の宝だ。国宝とかそういうものに登録した方が良いのではないだろうか。
私の権力を使えばそれくらいできるのだが、それはお姉様に止められてしまった。曰く、そんな下らないことに権力を使うものではないらしい。
確かに権力者が無闇に権力を使うのは良くないことではあるだろう。そういった所にすぐに気付くお姉様の聡明さを私も見習いたい所だ。
ちなみにドルギア殿下には、本人達もそんなことをしても喜ばないと言われた。
しかしそんなことはやってみなければわからないことである。いくら父親だからといってわかったようなことを口にするのはやめてもらいたい。
「叔母様、先日教わった空間を操る魔法について、少し聞きたいことがあるのです」
「私は、反射魔法について聞きたいです」
「ふふ、二人とも今日もよく学んでいるようですね」
「はい。母上に聞いたのですけれど、そういうことは叔母様に聞いた方がいいと言われて……」
「お父様も、自分にはよくわからないって言って」
「そうですか」
お姉様は、的確な判断ができる人だ。空間に操る魔法などを理解していない訳ではないだろうが、自分で使える私が説明する方が話は早い。ここで私を頼るのは、まったく持って悪いことではないだろう。
だがドルギア殿下は、もう少し自分で教える努力をしてもらいたい。そんなことで父親がきちんと務まっているのだろうか。甚だ疑問である。
「お父様、叔母様はお母様の師匠で素晴らしい魔法使いであるっていつも言っています。尊敬するべき魔法使いだから、私も叔母様のようになりなさいって」
「……」
「叔母様?」
「いいえ、トルリアは可愛いですね」
「え? あ、ありがとうございます」
ドルギア殿下には至らぬ点はあるものの、娘が目指すべき目標として私を提示していることは、見事だといえる。
私も勘違いしていたと言わざるを得ない。このエルメラが、自分の失敗を認めよう。ドルギア殿下は、父親としてそれなりにやれているようだ。
「あ、イルディオも可愛いですからね?」
「叔母様、ありがとうございます。でも僕は、可愛いよりもかっこいいと言ってもらいたいです」
「あなたはかっこいいですよ、イルディオ」
「えへへ、ありがとうございます」
まあイルディオやトルリアも、ドルギア殿下のことは慕っているようだし、やはり今からお姉様との仲を引き裂くなんてできないだろう。
こういう風に思えるようになったのは、間違いなく目の前にいる二人のお陰だ。ああ二人は、なんと可愛いのだろう。やはり国宝に登録しておいても、損はないのではなかろうか。
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