テラーノベル
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コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。看護師さんか、それともお見舞いに来てくれた人…?
淡い期待を抱きながらどうぞ、と声を掛けると静かにドアが開いた。
そこに居たのは制服姿の女の子だった。
彼女は僕を見るなり今にも泣き出してしまいそうな声で小さく僕の名前を呟いた。
彼女は赤根葵さん、僕の幼なじみらしい。
名前を聞いたとき、一瞬聞き間違えかと思った。
赤根さんはベッドの横の椅子に座り穏やかに話し始めた。
「茜くんは一言で言うなら、優等生…かな? 」
「生徒会に入ってて、みんなから頼られてて。誰にでも優しくて、明るくて…..、かっこいい人だったよ」
優等生、誰にでも優しい、明るい人
流石にそこまで言われると少し気恥しい。
おまけにこんな美人な人からかっこいいとまで言われる僕はそんなに凄い人だったんだろうか。
「な、なんか大袈裟に褒めてない?」
「遠慮しないで、変に気を使わないでいいんだよ?」
すると彼女は小さく目を見開いて驚いたような顔をした。
まずい、何か変なこと言ってしまったかもしれない。
「あぁ、ごめん…。思ってた反応と違ってちょっとびっくりしちゃっただけ。気にしないで」
そう言って彼女は首を少し傾けて可愛らしい笑顔を浮かべた。
『思ってた反応と違った』って記憶を無くす前の僕ならどんな反応をしたんだろう。
それから少し話した後、「また来るね」と言って赤根さんは帰っていった。
ヘッドボードにもたれかかって窓の外を見つめる。
正直ホッとした。
僕がとんでもない人間だったらどうしようかと思ったが、少なくとも周りから頼られるレベルの人間だったらしい。
お昼過ぎにもう一人女の子がお見舞いに来た。
彼女は八尋さんで、赤根さんの親友兼僕のクラスメイトらしい。
「元気そうでよかった〜」
そう言ってプリントを届けてくれた彼女にも同じ質問をした。
「茜くんがどんな人だったか?うーん…」
「朝に来た葵って子いたでしょ?茜くん、葵のことすごく好きだったんだよ!」
葵…、葵って赤根さん?
僕が赤根さんを好きだった…?
「え、僕が!?」
「そう!もう周りが呆れるくらい、何回振られても絶対諦めないの」
「葵のためなら火の中水の中!って感じ」
「もうみんなその光景に見慣れちゃって、それが逆に面白いんだよね〜!」
あぁ、そういうことか。
赤根さんが『思ってた反応と違った』と言ったのは、これが原因なんだろう。
好きな子にかっこいいと言われても何の反応も示さなかった僕に違和感を感じたのかもしれない。
でも一つ、引っ掛かりがあった。
まるで理想像のような優等生の僕と、自己犠牲さえも躊躇わない、病的にただ一人を想い続けた僕。
この二つが自分の中で上手く結び付かない。
どちらも本当の僕だったのなら、今の僕はどちらを選べばいいんだろう。
少なくとも、この二つを両立出来る程今の僕は器用じゃない。
面会時間の終了まであと30分。
もう今日はお終いかと思っていたが、本日三回目のノックが聞こえてきた。
昨日目が覚めたばかりで面会三回って…..
なかなかのハードスケジュールだぞ。
「どうぞ」
「えっ」
…えっ、って何?こっちがえ?なんだけど。
部屋間違えたとか?
数秒経ってからカラリと音を立てて引き戸のドアが開かれた。
一目見た瞬間、綺麗な人だと思った。
淡く煌めく金色の髪、空の色を閉じ込めたような澄んだ瞳、全てが完璧に整った顔立ち。
「王子様」という言葉がこれ以上似合う人は居ないんじゃないかと思うくらい。
制服を着ており、左腕には生徒会とかかれた腕章をはめている。
当の本人はポカンとした顔でこちらを見つめていた。
部屋を間違えたならさっさと出て行ってほしいが、一ミリたりとも動かないので仕方がない。
「…..あの、どなたですか…?」
「え、あぁ、そっか記憶無いんだっけ」
僕の質問には答えずに「いや〜驚いたよ」とひとりごとを呟きながら、ベッド脇の椅子に腰掛けた。
どうやら僕のお客さんだったらしい。
「僕は源輝、学年は君の一つ上だよ。」
一つ上の先輩がお見舞い…?
僕と特別仲が深かったんだろうか。
「…僕と先輩は仲が良かったんですか?」
「仲は…そんなに良くなかったかな〜」
「君は僕のこと嫌いだったしね」
仲が良くなかった?僕は嫌いだった?
ならなんでこの人はお見舞いなんかに来たんだ?
頭の中がハテナでいっぱいになっている僕を楽しんでいるかのようにニコニコと笑いながら言葉を続けた。
「君、生徒会で副会長だったんだよ。あ、ちなみに僕は生徒会長ね。」
つまり、生徒会で一緒だったという訳か。
副会長が入院しているのに、会長がお見舞いに行かないとなると周りの目が気になるところ。
それで今日ここに来たんだろう。
好きで自分を嫌っている人のお見舞いなんか行かないだろうし。
居るとしたらそれはただの変人だ。
「なんかすみません、色々と…」
「あぁ、別に気にしなくていいよ、僕が好きで来てるんだし」
まさかの変人だった。
まじかよこの人、どういう感性してるんだ。
顔は良いのに残念な人だな。
こんな残念な人に聞くのもなんだか気が引けるが、会長、副会長ということはそれなりに関わる機会も多かった筈だ。
「…先輩にとって僕ってどんな人でしたか?」
「うーん、そうだな〜…」
「結構生意気な後輩だったよ。僕に反抗するし、たまに敬語使わないし。」
「でもそれが面白かったんだよね〜、他の人はみんな僕に対して同じような反応しかしないからさ」
「僕は結構好きだったよ」
…やっぱりこの人変わってる。
嫌われている自覚があるのに好きだなんて。
「ていうか、蒼井何で眼鏡付けてないの? 」
「眼鏡?」
眼鏡ってもしかしてアレのことだろうか。
目が覚めた時にサイドテーブルの上に置いてあった眼鏡。
掛けてみたはいいものの、何故かその眼鏡には度が入っていなかった。
ただの伊達眼鏡を付ける必要も無いと思い、棚の引き出しにしまっておいたのだ。
「あの眼鏡、度が入ってなかったので」
「捨ててないよね?」
「捨ててないですよ。棚にしまってあります」
すると先輩はホッとしたような顔で、どこか寂しげな笑みを浮かべた。
「入院してる間は外しててね」
「…?はい、わかりました」
もともと付ける理由もないんだけどな。
わざわざそんなことを言ってくる先輩が不思議で、理由を聞いてみると、
「だってそっちの方が似合うもん」
と言われ拍子抜けした。
その時、備え付けのスピーカーから聞き覚えのある音楽と共に面会時間終了のアナウンスが流れた。
どこで聴いたのかはわからないのに聞き覚えがあるなんて、なんだか不思議な感じがする。
やはり断片的でも所々、記憶は残っているんだろうか。
「そろそろ帰らなきゃ、じゃあね蒼井」
「はやく怪我治すんだよ」
そう言って爽やかな微笑みを向け部屋を出ていった。
その王子様のような笑みに不覚にもドキッとしてしまった。
落ち着け僕、相手は男。 しかもあの顔が良いだけの残念な源先輩だぞ。
昨日の今日で三回も面会に来られて疲れているのかもしれない。
うん、きっとそうだ。そうに違いない。
コメント
4件
記憶喪失ネタってよくわからなくて好きでも嫌いでもなかったけど、記憶喪失だと客観的に自分の知らない自分を知ることができるのか…、!!また一から関係を作っていく過程が楽しみです!!
わ新しいストーリー…‼️ 記憶失くしてる状態でも輝くんにどきっとしちゃってるの最高です🫶🏻 更新楽しみにしています~!!(՞. .՞)💬