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……しばらく悩み抜いた挙句、ようやくひとつの発想が生まれた。
「そうだ!
もしかしたら、魔物の身体に抗体があるかも!」
「コウタイ……ですか? それは何でしょう」
「身体の中の異物を取り除こうとする――
……えぇっと、元気になろうとする力!
ルーク、倒した魔物ってどうしたの?」
「はい、すぐそこに。
暗くてよく見えませんが、この先に放置してあります」
ルークは暗がりの向こうを指し示した。
しかし私には、夜の闇で何も見えない。
「……むぅ。
ちょっと一緒に来てもらって良い?」
「はい、では私が前を歩きますね。アイナ様は足元にお気を付けて」
私はルークと一緒に暗がりに進み、魔物の側に近寄ってみる。
近寄ってようやく分かったのだが、そこには体長5メートルはあろうかという大蛇が横たわっていた。
「うわぁ……。
こんなの、よく倒したね……」
「大きさの割に動きは速かったのですが、こちらは人数がいましたからね」
ルークは何ということも無しに言った。
場馴れしている感じがひしひしと伝わってくる。
「ちなみに魔物って、倒したらどうするもの?
そのまま放っておくの?」
「必要なものがあれば、身体を解体してそれを確保します。
残った部位や、そもそも解体をしない場合は地面に埋めるのが一般的ですね」
魔物の身体が腐ると、瘴気や邪気などを出すようになるらしい。
最悪の場合はアンデッド化してしまうのだが、その対策として一番簡単なのが『単純に埋める』ことなのだという。
「へぇ……。アンデッド化、ねぇ……」
私からすると、とってもファンタジーな世界である。
しかし出来るだけ、怖いジャンルは見ないでおきたいのが本音のところだ。
「この大蛇も、明日の朝に埋める予定でした」
「確かに、夜中に埋めるのは一苦労だもんね」
そう言いながら、私は大蛇に近付いていく。
もし大蛇の中に疫病の抗体があれば……抗体は無くても、何かしら薬の素材になるものがあれば――
……そうは思うものの、大蛇を前に何をどうすれば良いのかなんて分からない。
でも、こういうのって血の中にありそうなんだよね……。
「ねぇ、ルーク」
「はい、何でしょう」
「この瓶に、大蛇の血液を採ってくれない?」
「血液、ですか? はぁ、少々お待ちください」
ルークは不思議そうに瓶を受け取ると、剣で大蛇に傷を付けて血液を採集してくれた。
「こちらでよろしいですか?」
「うん、ありがとう。……うわぁ、毒々しい色」
頼りない灯りを照らしてみれば、それは青黒い色をしていた。
瓶に入っているとはいえ、あまり手には持っていたくない代物だ。
……なんて悠長なことも言ってられないか。
とりあえず、かんてーっ!
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【汚染された大蛇の血液】
様々な病原体で汚染された大蛇の血液
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鑑定の結果が、何だか怖いなぁ……。
……『様々な』って、一体どんな感じなのかな……。
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【様々な病原体】
疫病375型、疫病8172型、疫病8173型、疫病8174型
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……。
この大蛇、病気持ちすぎッ!!
……っていうのは置いておいて、この血液で作れるものは何か無いかな?
もしくは何かヒントになるもの……。
私はユニークスキル『創造才覚<錬金術>』に意識を傾けてみる。
えぇっと……あ、何か作れそう!
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【抗菌薬<375型>】
疫病375型を永続的に治癒する薬
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【抗菌薬<8172型>】
疫病8172型を永続的に治癒する薬
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【抗菌薬<8173型>】
疫病8173型を永続的に治癒する薬
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【抗菌薬<8174型>】
疫病8174型を永続的に治癒する薬
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――って、そのものズバリが来たッ!!
「出でよ抗菌薬ッ!」
バチッ!
いつもと違う感じの掛け声で、私は即座に薬を作り出す。
早速、かんてーっ!
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【抗菌薬<8172型>(S+級)】
疫病8172型を永続的に治癒する薬
※追加効果:即効性(大)
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よしよし、良いデキ!
私は早速、ルークに声を掛ける。
「ルーク、薬が出来たよ!
さっきの人に飲ませに行こう!」
「え、本当ですか!? さ、さすがアイナ様!」
私たちは、用心棒たちの元まで走っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すいません、そちらの方の状態はいかがですか?」
私が戻ると、怪我人の息は荒く、とても苦しそうだった。
「ああ、毒治癒ポーションの効果がやっぱり出なくてな……。
かなり苦しがっているんだが、一体どうしたら良いのか――」
「薬を調合してきましたので、ちょっと失礼しますね!」
「え、薬? この症状、毒じゃないのか?」
驚く用心棒を制して、呼吸が荒くなった怪我人の口に薬を流し込む。
「むぐ……。
ごほっ、ごほっ……。……はぁ、はぁ」
飲ませてしばらくすると、怪我人の表情は和らいだ気がした。
これでどうかな……、かんてーっ。
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【状態異常】
衰弱(小)
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疫病が消えて、衰弱に変わった。
衰弱……かぁ。
後は休んでおけば大丈夫かな……?
「今は衰弱していますが、病気の方は治しましたのでもう大丈夫です。
後はポーションで、怪我も治しておきますね」
「おお、それは助かった……。
……え? それよりも今、病気って言ったか?」
「はい、あの大蛇が悪い病気を持っていたみたいです。
病気というか、疫病だったんですけど――」
……あれ?
そういえば確か、空気感染する感じだったよね?
一応、ここにいるみんなも鑑定しておこうかな。
……。
…………。
………………。
「――って、全員感染してるじゃないですか!!
ちなみに私も!!」
「「な、なんだってー!!!?」」
このあとすぐに薬を作って、みんなに飲ませてまわった。
危ない危ない、油断大敵……というやつだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――ようやく、ひと段落。
大蛇と戦っていない人たちを鑑定したところ、近付かない限りは問題は無さそうだった。
しかし心配する人は多く、そういった人には薬を飲んでもらうことにした。
……ギャーギャー言われるのも面倒だったし。
「いやぁ、それにしても嬢ちゃんは凄かったなぁ!」
怪我人を看病をしていた用心棒の一人が、豪快に笑って言った。
「いえいえ、そんなことは――」
「はい、アイナ様はとてもすごい錬金術師なのです。
ここにいらっしゃらなかったら、全員どうなっていたか分かりませんね」
……ちょっと!?
ルーク君、何を言ってるのかな!?
「嬢ちゃんは錬金術師だったのか。
状況を見て即座に薬を作るなんて、本当に信じられねぇよ!」
「そうでしょう、そうでしょうとも!」
ルークが満足そうに頷く。
こらこら、いい加減にしなさい。
――と。
それはそれとして、気になることがあったんだよね。
「どなたか、あの大蛇が何か知っていた人はいますか?
さっき、『何でこんなところに』って声が聞こえたんですけど」
「ああ、それは俺だな。
あの大蛇はここから北の……ガルーナ村近くの沼地に住んでいる魔物なんだ。
その沼地から出てくること自体、かなり珍しくてな」
「へぇー、そうなんですか……」
……うん?
何か引っ掛かるぞ……?
「ガルーナ村の近くってことは……。
その村って、もしかして疫病が……流行っていたり?」
私が投げた素朴な質問は、周りの空気を凍り付かせていく。
――あれ。
もしかしたら……もしかする、のかな……?