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「疫病の件は感謝しておりますが、行き先を変えることは出来ません」


乗り合い馬車の責任者は、きっぱりと言った。


ここから北のガルーナ村で、疫病が流行っているかもしれない――

……そんな憶測から、寄り道は出来ないかと聞いてみたところだ。


結果は前述の通り、検討の余地もなくあっさり却下。


仮に疫病が流行っていたとしても、村の方で対応が出来ていれば無駄足になるだけだし……。

そもそもこの責任者も雇われの身だろうから、勝手なことは出来ないだろうし……。


「見たところ、ガルーナ村と縁があるヤツはいなさそうだしな。

敢えて首を突っ込む義理もねぇ、ってことか」


用心棒の一人は、小さく言った。


そりゃそうだ、自分の身を危険にしてまですることではない。

この用心棒だって、乗り合い馬車の仕事を途中で降りるわけにもいかないだろうし。


「分かりました。無理を言ってすいませんでした」


「いえいえ、こちらこそ何と言って良いものやら……。本当に申し訳ございません……」


話が何も進まなそうだったので、私は早々に諦めることにした。



「……実際のところ、こういうときってどうするの? 村の対応としては」


焚火の前まで戻り、ルークに話し掛ける。


「小さな村で疫病が見つかった場合、まずは近隣の街に助けを求めることになるでしょう。

聖職者や薬師、錬金術師といった専門家を集める必要がありますので」


「なるほど。

それじゃ私たちが行ったところで、完全に無駄足になる可能性もあるよねー」


「……そうですね」


「うーん。

疫病の心配をして行ったとしても、何もかもが解決していたらちょっとマヌケだからなー」


「……はい、そうですね」


「ところでガルーナ村って、何か名物ってあるの?

美味しいお料理とか、何でも良いんだけど」


「特には無いと思いますが……。

以前、クレントスの広場で木彫りの置物を行商していたのを見たことがあるくらいです」


「木彫り?

それって、可愛かった?」


「可愛いというか……何というのでしょうか。

ちょっと口では説明出来ませんね」


「えー? 口では説明出来ないのー?」


「はい、難しいです」


「口で説明できないなら、見に行くしかないじゃない?

もー、しっかりしてよ!」


「申し訳ありません。そうですね、見に行くしかありませんね」


「私、すごい気になってきたんだけど。

急いでガルーナ村に向かわないと!」


「そうですね。私もお供いたしますよ!」


そこまで話すと、私とルークはお互い吹き出して笑い合った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「それでは私たち、ここで降りますね」


時間は朝9時。

連れ立った乗り合い馬車を外から眺めながら、責任者に挨拶をする。


「本当に、ガルーナ村に行くんですか?」


「はい、木彫りの置物を見にいってきます」


「は……? 置物……?」


責任者は呆けた顔で私たちを私たちを見つめる。


「はい、置物です。

素敵なものがあるって聞きましたので」


はぁ……と、なお混乱した眼差しを向ける責任者。


「あ、そうだ。足りないとは思うのですが、昨日の薬代です。

私どもにはこれくらいしか出来ませんが、どうか受け取ってください」


そう言われて渡されたのは、金貨2枚。


おお、臨時収入!

金貨3枚分のお金しか無かったから、本気で助かります!


「それではお気を付けて。

また機会がありましたら、馬車のご利用をお待ちしております」


「嬢ちゃんたち、気ぃ付けてな!」

「面倒掛けて済まなかったなー!」


責任者と用心棒たちの言葉を残して、乗り合い馬車は去っていった。

乗客たちは何も言わなかった――というか、出来るだけ無関係を装っていたい感じだったかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




ほどほどに急ぎ足、といったペースで進んでいく。

全力で走ってもすぐに息を切らしてしまうので、現実的な速度で進んでいるところだ。


とはいえ――


「……ルークだけだったら、もっと速く進めるんだろうけどね」


何せ、体力がまるっきり違うわけで。

私は健康体だと言っても、鍛えている人から見れば全然なわけで。


「この付近はそれなりに安全とはいえ、昨晩の大蛇のような例もありますからね。

アイナ様を置いて先に行くなど、絶対にあり得ません」


ルークはきっぱりと言う。

そりゃもちろん、私だってこんなところで独りにされるのは嫌だけど。


でも、魔物が出ないと分かっていれば――


……穏やかな陽気のもと、自然豊かな景色がめいっぱい広がっているからね。

こんなときでさえなければ、ピクニックみたいな感じでウキウキして歩けたんだろうな。


それにしても、広い空。

自由に飛びまわれたら気持ち良いよね……と思ったところで、何となくルークに聞いてみる。


「そういえば、ドラゴンって見たことある?」


神様はいるって言っていたけど、どれくらいの認知度なんだろう?


「ドラゴンですか?

見たことは無いですが、A級以上の冒険者には討伐依頼がいくこともあるそうですよ」


「え? 討伐しちゃう感じなの?」


「危険と判断されたドラゴンはそうなります。

人間に敵対しないドラゴンもいるので、すべてのドラゴンを討伐する……ということは無いですね」


「それじゃ、ドラゴンって頭良いんだ?」


「それもピンからキリまで……でして。

知性と理性を持つ『竜王』という存在もあれば、獣のように暴れる『暴竜』というものもいます。討伐対象は後者ですね」


「ふむふむ、『竜王』かぁ。すごい存在なんだろうなぁ……」


「そうですね。

人間で言うところの、S+級冒険者……みたいなものでしょうか」


なるほど、それは分かりやすい例えだ。

その種族の中の、頂点のひと握り。まさに英雄や王、といった存在なのだろう。


ちなみに英雄といえば……英雄シルヴェスターは、確かS+級冒険者なんだっけ?


「ところで、ルークの冒険者ランクってどれくらい?」


「今はD-級ですね。

いや、頑張ればもう少し上だとは思うんですが、仕事で忙しくて」


「あはは。それじゃ、これからは上げられちゃうね!」


「機会があれば、ですね。

私はアイナ様をお護りするのが使命ですので」


護ってくれるのはありがたいんだけど、そればっかりでも……ね。


ドラゴンで思い出したのは、例の神器……『神剣デルトフィング』の素材のひとつに『氷竜の魂』があったことだ。

名前からして、作るとしたら恐らくはドラゴン討伐が必要になるのだろう。


まぁ『神剣デルトフィング』を作るかはまだ分からないけど、他の神器を作るにしても、似たような素材が必要になりそうだし……。


……何にせよ、私の旅はいつか過酷なものになりそうだ。

それまでに、私もルークも力を付けないとね……。


「機会を見つけて、私たちも冒険者ランクを上げてみよっか」


「アイナ様が望むのであれば、全力を尽くしましょう」


ルークは迷わず、力強い返事をしてくれた。

冒険者ランクを上げるための旅ではないから、今は漠然とした目標にしておいても問題は無いか。


「でも、それは王都に着いてからかな。

それまでは一旦忘れて、出来ることから進めていこー」


「はい、分かりました」


ひとしきり話した後は、少し疲れてきたこともあって口数が減っていった。

ルークもそれを察して、声を掛けるのを控えてくれる。


……そんなこんなで休憩含めて4時間ほど。

昼過ぎに、ようやくガルーナ村が見えてきた。


さて、果たして今はどんな状態なんだろう?


できることなら心配も虚しく、何事もなければ良いんだけど。

何もなかったら、木彫りの置物を見て帰るだけだし……ね。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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