テラーノベル
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次の日のヒカリは、本当に分かりやすかった。
距離が近い。触れる。視線を外さない。
昨日までのよそよそしさが嘘みたいに消えて、その上をいく「彼女」だった。
私は戸惑いながらも、止めなかった。
だから、少し増えた距離も、その延長だと思った。
帰り道、二人きりになるのは久しぶりだった。
駅前のコンビニに寄って、ヒカリがアイス、私ががホットスナックを取った。袋をぶら下げたまま、店の前で少し立ち止まる。
「半分こでいいですか」
「いいよ」
歩きながら、バイトの店長の愚痴を二言三言。シフトがきついとか、言い方が雑だとか、それだけで笑う。
会話が途切れても、気まずくならない。
歩幅が揃っていることに、後から気づいた。
前は、こうやって帰っていた。
それだけの事実が、やけに懐かしかった。
ヒカリが急に立ち止まる。
「先輩」
呼び止め方が、いつもより低い。
「付き合ってるなら」
一拍置いて、続く。
「キス、していいですよね」
疑問形だった。
ちゃんと、選択肢がある聞き方だった。
「……え」
頭が一瞬、真っ白になる。
キス。付き合ってる。そういう順番なのか、と遅れて理解する。
「……キ、キス?」
「嫌なら、しません」
ヒカリはそう言いながら、距離を詰めてこない。待っている。私の返事を。
逃げる理由が、見つからなかった。
付き合っているのは事実だ。
それ以上の意味は、まだ考えていない。
「……いいよ」
言った瞬間、ヒカリの目が大きく開いた。
驚きと、喜びと、確認が一気に混ざった顔だった。
「……これは冗談じゃないですよね」
黙ったまま頷いた。
ゆっくり、ヒカリが近づく。
私は反射的に目を閉じた。
ヒカリは、顔の前で少し止まった。逃げないか、後悔していないか、確かめるみたいに。
それから、とても優しく、キスをした。
短くて、静かな接触だった。
熱も、強さもない。ただ、確かだった。
離れたあと、ヒカリは何も言わなかった。
私も、言葉が出なかった。
付き合うって、こういうことなんだと、理解してしまった夜だった。
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