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〈前回までのあらすじ〉第一章のおさらい
20XX年、約200名を乗せた大型旅客機が墜落した。旅客機が墜落した先はとある大陸で、生き残ったのは旅客機に搭乗していた男女6名。年齢も国籍も職業もバラバラな彼らは、大陸を探索しながら助けを求めることにした。
そこで、一行は謎の屋敷を見つける。人が居ることを信じて屋敷を訪ねてみると、そこには屋敷で働いている使用人・ウィズが居た。ウィズの案内により、6人は屋敷の主の息子・レグと出会った。レグと会話をしていた時、レグの父であるカーティスが重傷を負ったとの連絡が入り、一行はカーティスの居る村へと向かうことになった。
村に住んでいる踊り子の少女・デイジーの案内により村にある救護テントに到着した7人。そこには、重傷のカーティスと患者の治療で忙しなく働くレグの母・リストアが居た。カーティスから事情を聞くと、カーティスが重傷を負ったのは村に突如現れた融合怪物のせいだということが判明した。そこで、7人は融合怪物を討伐することになり、レグの案内で村の中にある鍛冶屋に向かった。
それぞれ武器を見つけ、戦闘への準備を整えていると、突然地響きのような轟音が鳴り響く。外を確認すると、そこには大きな融合怪物と、その周囲に小さな融合怪物達が居た。それぞれが武器を手に取り、戦闘が始まる。しかし、敵を倒すことができず、合流したデイジーと共に二手に別れて探索をすることになった。
探索中に見つけた洞窟には血痕があり、何やら不穏な空気が漂っていた。そんな中、4人は地底湖のある空洞に足を踏み入れた。そこには融合怪物が居たのだが、何やら様子がおかしかった。その融合怪物を倒すと、突然地面が揺れ地底湖の底から道が現れた。地底湖の先にも空洞があり、4人がそこに足を踏み入れると、とある瓶が見つかった。その瓶の中には紙が入っており、どうやら地底湖の水は融合怪物にとっての毒になるそうだ。すると、突然何体もの融合怪物が現れ、4人はそれを倒し他の4人と合流することにした。
地上では他の4人が大きな個体と戦っていた。戦闘中に突然現れた謎の球体の力も借りていたが、状況はあまり有利とは言えず、逆に少し不利なのではと感じさせるほどだった。その時、アルバートが大きな個体からの攻撃によって倒れてしまった。ギリギリで洞窟を探索していたチームが合流し、敵に毒の入った瓶を投げつけた。
◇ ◇ ◇
小鳥のさえずり、木々のざわめき、太陽の光。静かであたたかい自然が出迎える森の中を、胡朱は歩いていた。昨日村で起こった戦闘の激しさからは考えられないほど、今日は打って変わって落ち着いている。胡朱はそんな感想を抱いた。
森を少し歩くと、白い建物が見えてくる。その建物に居る、という連絡をよこしてきたのは、胡朱達と共闘した踊り子のデイジーだった。昨日の戦闘で大怪我を負ったアルバートを病院まで送り届けてから、ずっと病院に居るそうだ。確かに、アルバートが目覚めたという報せは未だに入っていない。どうやら、あれから急いで処置を施したおかげで一命は取りとめたそうだ。しかし、それっきり目を覚まさないんだという。胡朱が病院に足を運んでいるのも、アルバートの状態を確認するためだ。
病院に入ると、病院特有の薬品のにおいが鼻をつく。このにおいにはいつまで経っても慣れないな、と思いながら、胡朱は明かりの灯されている病室を進んだ。受付で面会を希望しているという旨の話をし、言われた通りに階段を上る。2階の廊下に置かれているソファには何人かが腰掛けており、そのほとんどが病院指定の病衣を身に纏っている。確かに、胡朱が村の救護テントで見ただけでも何人もの人が怪我を負っていた。おそらく、一晩明けてこの病院へと移されたのだろう。胡朱はその中に、病衣を着ていない見知った顔の人物を見つけた。
「デイジーさん? 病室にいらっしゃるはずでは……」
「あ、おはよう。……実は、中々目覚めないから出てきたところなの。様子、見てみる?」
ストレートのロングヘアに左だけ巻いたお団子。胡朱に連絡をよこした少女、デイジーだった。デイジーは、胡朱を見つけると小さく手を振って胡朱の元へと駆け寄っていく。そして、アルバートが眠っている病室を指さしながらそう言った。
「……あれ、他の皆は? まだ来てないの?」
胡朱が1人だけ来ているのを疑問に思ったのか、デイジーは胡朱にそんなことを聞いた。胡朱は頷き、どうして他の3人……志音達が来ていないのかを説明した。胡朱が朝早く寝床から抜け出して来ただけで、他の3人はそもそも起きているのかどうかすら分からないのだと。それを聞いて、デイジーはなるほどと呟きながら頷く。
胡朱はデイジーに、アルバートの眠っている病室に入りたいということを話した。デイジーは頷くと、すぐそこにあったアルバートの病室へと向かった。202号室。それがアルバートに割り当てられた部屋だった。扉の前に立ち、デイジーは軽く扉を3回叩く。しかし、中から返事が聞こえてくることはなかった。デイジーは静かに扉を開け、病室へと入る。それに続いて、胡朱も病室へと入っていった。
病室の中。暖かな日差しが射し込む窓際のベッドにアルバートは眠っていた。脈拍は正常だが、一向に目を覚ます気配がない。頭には止血用の包帯が巻かれている。
「起きない……ですね」
「うん。起きたらまた連絡するね。胡朱さんは早く皆の所に戻ってあげて。心配されちゃうよ?」
「ですが……」
ここに来たのは、確かにアルバートの状態を確認するためでもある。しかし、デイジーの疲弊した表情を見て、少し居た堪れない気持ちになった。全員が起きたら今後についての話し合いをすると言ったが、話し合いなら自分くらい居なくても成立するだろう。とにかく、胡朱は昨日から働きっぱなしのデイジーのことが気になったのだ。しかし、デイジーはそれに気付いているのか、微笑みながら口を開いた。
「私なら大丈夫だよ。確かにちょっと疲れたけど、アルバートさんはそのうち目覚めるだろうから、気にしないで」
「……分かりました。では、失礼します」
このままやっぱり交代すると言って粘っても仕方がないだろう。ここは素直に帰るべきだ。そう考えた胡朱は、少しだけアルバートを見遣り、デイジーに向かってぺこりと頭を下げてから病室を出た。
病室を出てからは、同じように来た道を戻る。戦闘が終わり、最初に迎えたあたたかな朝。胡朱は、出そうになったあくびを噛み殺し、ピシッとした表情を作ろうとした。
◇ ◇ ◇
胡朱が昨晩宿泊した宿に戻ると、既に何人かが宿の前に居た。その内の1人、志音が戻ってくる胡朱を発見した。宿の前で待機しているのは志音、レグ、翠の3人だ。アリスと幸斗はまだ宿の中に居るのだろう。そのメンバーを見て、胡朱はなんとなく納得した。そして、胡朱は3人に声をかける。
「おはようございます」
「おはようございます。どこに行っていたのですか?」
「……少し、病院に行っていました。アルバートさんが、そちらに運ばれたそうなので」
昨日の張り詰めた雰囲気とは打って変わって、今この場には比較的穏やかな時間が流れている。搭乗した旅客機が墜落して訳の分からない場所で遭難している時点で、穏やかとは言い難いのかもしれないが。
旅客機の墜落から一夜明け、6人がここに来てから丁度24時間が経つ頃だった。24時間の内に色々あったが、どうにか朝を迎えることができた。……まさか、1日目にして大怪我を負う人が出てくるとは予想できなかったが。
胡朱、志音、アリス、デイジーの4人が発見した融合怪物への毒のおかげで、あの後すぐに大きな個体の討伐に成功した。そして、頭から血を流しているアルバートを救護テントにまで運び込み、残った7人は村の近くにある融合怪物の襲撃を受けなかった宿で休むことになった。そして迎えた朝。これから、宿に残った6名で今後についての話し合いをすることになったのだ。
「お2人はまだ起きていないのですか?」
「そうですね。そろそろ声をかけてこないと」
4人は未だに部屋から出てきていない2人──アリスと幸斗を呼ぶために宿の中へと戻った。
◇ ◇ ◇
4人はそれぞれ2人に別れ、胡朱と志音はアリスを、レグと翠は幸斗を起こしに行った。
胡朱と志音は、アリスが居るはずの部屋に向かった。廊下からはあたたかな日差しが差し込み、柔く廊下を照らしている。少し年季の入った木製の建物だからか、歩く度に木々の軋む音が聞こえてきた。廊下の奥にある扉の前に立つと、志音が扉をノックした。中からの返答はなく、ここまでは予想通りだ。
「……入りますよ」
部屋に入ると、まずは床に転がっていた空のワインボトルが目に入った。昨晩、彼女は飲酒していたのだろうか。ほんのり酒精の臭いが漂っている。
この部屋で寝泊まりしたであろうアリスはと言うと、布団もかけずにベッドの上で寝ていた。小さな寝息が聞こえてくる。随分とぐっすりのようだ。それを見て、2人は苦笑いをしながら顔を見合せた。昨日の融合怪物との戦いから来た疲れなのだろう。時間の許す限りは寝かせてあげたいという気持ちも2人にはあったが、何せこれから大事な話し合いがあるのだ。そうして、2人はアリスを起こすことにした。
胡朱は優しく、ベッドの上ですやすやと眠っている少女の体を揺さぶる。突然揺さぶられた衝撃を感じたのか、アリスは目を覚ましてゆっくりと起き上がった。目を瞬かせているアリスを見ながら、「おはようございます」と言って胡朱は微笑む。
「これから話し合いがあります。着替えて宿の食堂に集合だそうです」
「あ……。私としたことが、すっかり忘れていましたわ!」
話し合いのことを今になって思い出したのか、大慌てでアリスは準備を始めた。アリスに「部屋の外で待っていますよ」と声をかけ、胡朱と志音の2人は忙しなく動いているアリスの居る部屋から静かに出た。
◇ ◇ ◇
「……」
「……? あの、翠さん……? どうされましたか?」
一方その頃。レグと翠は、幸斗の泊まった部屋を訪れていた。しかし、翠が部屋の目の前で立ち止まり、何故か顔を顰めているのだ。あまりにも突然すぎる翠の行動に、後ろにいたレグは心配しつつも翠に声をかけた。……声をかけたのだが、それでも翠はだんまりしていた。
この時間になっても寝ている可能性は十分にある。……何せ、あの彼だから。だが、別の場所に居る可能性は? 昨日、屋敷を見つけた時の彼の行動からしても、暇だからどこかを探索しているというのも有り得るだろう。そんなことを、翠はただただ考えていた。どれだけ無駄に動かず、幸斗を見つけ出すことが出来るのか、ということを。翠は動くことすら億劫になっていたのだ。
つまり、空腹である。
「……翠さーん? 早く入ってしまった方が──」
そんな(どうでもいい)事情があり、翠はレグの声掛けにすら気付いていなかった。……背後に、別の人物が近付いてきているということにも。足音は部屋の前でぴたりと止み、その人物は部屋の前であたふたしているレグと扉の目の前で険しい顔をしながら立ち止まっている翠に声をかけた。
「……人の部屋の前で何してんだ、あんたら」
「あぁ、幸斗さん!? いやあのこれは違くて……! というか起きてたんですね!?」
「おや、そんなところに……。丁度良かった、貴方を探していたんですよ」
「どうせ、話し合いがどうとかって話だろ? そんなもの、言われなくても今から行く」
やって来たのが幸斗だと分かった瞬間、翠は振り向いて幸斗にそう言い放った。幸斗は、部屋に入り何かをした後、すぐに部屋から出てきた。そうして、こちらの3人も食堂に向かった。
孤高のレヴェリー 第2章【名も無き英雄】
コメント
2件
アルバートさん…とりあえず生きていて安心しました…😌 最後のところ幸斗さんが部屋の中で何をしていたのか気になりますね…