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俺は犬、見た目も犬
犬種はゴールデンレトリバー
名は若井という
だが犬の俺は可愛い名前じゃなくなぜか若井と名付けられた
その名付けた飼い主というのは言うまでもなく
元貴である
「うーん、見た目が若井って顔だからやっぱ若井かな」
って謎いた事を言われたのを昨日のように感じる
元貴と出会ったのは保護犬の譲渡会だった
俺は多頭飼育崩壊という状態からの保護犬だった
ひときわ大きなゲージに入れられ小さな会場をぐるりと見渡す
色んな犬種がいる中、俺は長毛種で大型犬という事もあり飼いにくいのかいつも迎え入れられるのは小さくて可愛い小型犬ばっかだった
はあ…今回もダメかあ
これで三連敗か…と、しょげている時に小柄で細身のヒトが俺のところに近づいて来てちょこんと目の前に座り込んだ
視線を合わせ言葉をかけられる
「…お前ずっといんじゃん」
どうやらこのヒトは譲渡会に何度も足を運んでいるようだった
そして俺の事をずっと気にしてくれていたようだった
「ねえ、うち…来る?」
そう言って微笑んでくれたのはずっと忘れない
それから程なくして俺と元貴と一緒に住むようになった
***
「ただいまー」
俺は足音を聞きつけ先に玄関で尻尾を振って待っていた
元貴は膝をつき嬉しそうに
「若井…いい子にしてたかー」
そう言って玄関先で元貴は嬉しそうに俺をわしゃわしゃと顔を撫でまくる
俺はいつもこの瞬間が大好きだった
元貴は一人暮らしで家こそは古いがそれなりに広い家だった
俺のような大型犬にはもってこいの場所
そして元貴は普通の会社員だった
黒髪に眼鏡をかけ黒いデカめのリュックを背負いスーツを身に纏い朝早くに出て行く
帰りは18時頃で帰宅すると直ぐにテキパキと家事をこなしていく
これがなかなか手際がいい
俺がヒトだったら絶対に嫁にしたいくらいだ
「いただきまーす」
小さなテーブルに晩ご飯を装い一緒に飯を食うのが本当に楽しくもあり嬉しい
「美味い?ねえ、美味い?」
って笑顔でぐいぐい聞いてくる
まるで俺が犬って忘れてるくらい に話しかけてくるんだ
犬並に人懐っこい…
そんな元貴と出会えて本当に本当に毎日が幸せだった
「あ、そうだ」
夜も更け俺はいつものように元貴のベッドに一緒に入ってうとうとしてる時に言われた
「俺、明日帰ってくるの遅いから」
え、まじか
まあ餌は自動給餌器があるからいいけど
一人はやっぱ寂しいな…
「歓迎会なんだ… だから先に寝てて…な」
そう言って元貴は俺のもふもふな体に寄り添って直ぐに寝息をたてた
**
次の日確かに元貴は遅くに帰って来た
時計を見ると夜中の3時だった
俺がいつものように玄関に出迎えると
「ただいま…」
元貴はうつむき小声でいつものようにただいまと言う
俺に気が付くと優しく撫でる
「起こしちゃった…ごめんな」
俺はすぐに違和感を感じる
元貴からは普段と違う甘い香水の匂いがし、いつもと違って酷く気だるそうだった
俺にはわからないが飲み会ってそんなもんなのか?
元貴はシャワーを浴び戻ってくると心配そうな俺を見て微笑む
「なんだよ…心配してくれてんの?」
心配だろそんなの…
元気ないじゃねーか
俺が小さく、くぅん…と鳴くと元貴は俺の目の前にちょこんと座り俺を撫でた
「大丈夫だよ…うん、大丈夫…」
まるでその言葉を自分に言い聞かせているように感じた
***
元貴はその日を境に帰りが遅くなった
たまに甘い匂いをつけ酷く疲れて帰ってきては風呂に入って寝る毎日
休みは土日だが土曜は直ぐにスマホが鳴ると急いで家を出ていく
俺との時間が少しずつ消えていく
そんな状況にも関わらず元貴は休みには必ず朝早く起き俺と過ごしてくれた
リードを持ち河川敷を二人で散歩している時に
「若井…ごめん」
とぽつ、と言う
「いつも放ったらかしにしてごめん」
声のトーンがいつもと違う
ちょっと落ち込んでる感じがした
自分が飼い主だからという負い目なんだろうか
広場まで来ると地べたに座り俺を両手で撫でる
「俺さ…今の仕事辞めようって思ってんだ」
え?
「定時で帰れるからって入社したんだけど最近社長が変わって…帰れなくなっちゃってさ」
そうか…だから急に帰るのが遅くなったのか
「仕事は楽しいんだけど…色々疲れてきたんだ」
最近めっきり笑顔を見ていない
っていうか俺のことよりも元貴の体と心を休めてほしい
「俺…もっと若井と一緒に居たいな」
元貴は俺を見つめるとそう俺に告って来た
うわ、これって絶対愛の告白じゃん!
え、待って!俺も!俺も元貴の事好きなんだけど!
いや…待て
それは俺がペットだからなんじゃないか?
俺がもしヒトだったら?
元貴と一緒のヒトだったら同じように告られた?
いや、だが俺たちはきっと出会う運命なんだろうと思う
その時はきっと俺は元貴を愛して愛して離さないだろう
「若井ってさ…人間だったらどんな感じだろ」
俺の考えを見透かせているのかと思いドキッとした
背が高くてイケメンで元貴も惚れるようなヒト…でありたい
「俺たち絶対気が合いそうだよな」
元貴はそう嬉しそうに言ったんだ
***
数日後の夜のことだった
元貴の帰りはいつもより遅く既に2時を過ぎていた
今日遅いって言ってなかったよな…
さすがに俺はちょっと心配になっていた
と、玄関先でいつもの足音がしたのと同時に俺は玄関まで走った
「ただいまぁ…」
元貴と知らない中年の背の高いヒトが入ってくる
知らないヒトは元貴を支える様に家に入ってきた
この匂い…
そのヒトの匂いには確かに覚えがあった
なんだよ、元貴はこいつと付き合ってんの?
俺じゃなくてこんな奴が好みなのか
元貴からは酒の匂いがプンプンし足がふらついている
どう見ても酒を相当飲んでいたようだった
確かに毎日しんどいのはわかるけど
飲みすぎじゃねーか、何やってんだよ
俺は初めて元貴に嫌悪感を抱く
「社長…もう大丈夫です…」
虚ろな目でヒトに向かって小さく会釈をし出迎えた俺の前で膝をつき
「若井…遅くなってごめん…」
そう言いいつもの様に俺に触れようとしたところで俺は…すっと元貴の手を避け背を向けるとリビングに向かった
少し罪悪感はあったがそうでもしないと俺の気が収まらなかった
それでも気になり後ろを振り返ると寂しそう顔の元貴の姿が見えた
そんな顔で見るなよ…
俺が悪いみたいじゃねーか
そこで元貴は後ろから中年のヒトに強い力で腕をつかまれた
「…! 」
その場に強引に押し倒された
顎つかみ無理やりキスをされるとその空いてる手で元貴のシャツのボタンに手をかけ慣れた手つきで解いていく
「..いや…だっ」
力なく抵抗する手を抑えつけ胸が露わになると唇から胸へと移動する
「会社を辞めるとか俺から離れたいとか…絶対に許さないからな」
元貴の白い肌を舌で舐め上げ堪能する
「もっと酒を飲ませてやったら良かったな」
ヒトはそう言って笑った
「は…あ…っ…」
元貴の声が艶っぽくなると段々と頬がほんのり上気する
ヒトは元貴の力が抜けてきたのがわかると抑えつけていた腕を解いた
「…そろそろ媚薬が効いてきたかな?」
ヒトは自分のベルトに手をかけ脱ぎ始めた
下半身を露出すると自身のモノに手をかけ上下に擦りながら元貴に覆いかぶさる
元貴は少し遠くにいる俺の視線を感じたのか潤んだ目で見た
「見ないで…若井…」
と震える声で言った
それはまるで汚い俺を見ないでくれと言っているようだった
***
俺はなんでヒトじゃないんだろう
そしてなんで俺はあの時元貴を信じなかったんだろう
今更後悔したってしょうがないのにずっと頭の中を駆け巡る
ずっと一緒に居たかったのに
もっと思い出を作りたかったのに
俺はただ犬
なにもできないただの犬だ
20250211